逃げるためだった。最初は。
突拍子もなくノートの端に書いた怪獣、通称『インナービースト』だが、最初は考えることすら痛いなあと感じていた。考えるたびに羞恥心と高揚感でにやけてしまう。厨二病真っ最中だと思った。高一なのに。
だけどノートの切れ端の誇大妄想は日々発展していった。最初に見た目が決まった。見た目は四つ足の首と尻尾の長い姿。昔恐竜図鑑で見た、史上最大の陸上動物をモチーフにした。その足で何もかも押し潰してしまう。そんな怪獣だ。現れれば首を私に近づけ、その頭に乗せて空に運ぶ。私を押さえつけようとする存在の届かない高さへ。
日々設定は濃くなっていった。怪獣自体の設定だけでなく、怪獣の出現場所、移動ルート、どうやって私だけを救出するか。そのあとどこに逃げるか。
この
それから変わったことが一つある。電車の中吊りにあった怪獣映画のポスターを見る習慣がついたことだ。黒と赤の印象的なビジュアルに包まれたそれは、聞いたことある名前の怪獣作品のリメイクらしかった。
「虚構対現実」
そう書かれたサブタイトルの響きだけを心に染み付いた。その映画の公開は7月の末だった。
「公開、今日なんだ。」
そして私は衝撃に出会う。どんな衝撃だったかは直後の激しい言語化の波に襲われて、綺麗さっぱり流されて、ある結論、というか観念、いや、シンプルに破壊衝動だけが私に残った。
「怪獣は、逃げているだけじゃダメだ。破壊しなきゃ。」
私の妄想はついに危険水位に到達した。
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