第3話
波の音が聞こえる。
海風が身体を撫でる感触がする。
今年もまた、この季節がやって来た。
「弥生は今年もあの別荘で良いのよね?」
「はい、お願いします」
有紗社長が、私の夏季休暇の予定を尋ねてくる。
「本当に海が好きね。
泳ぎに行く訳ではないのでしょう?」
「ええ、ほとんど・・」
「まあでも、あなたがこうして毎年使ってくれるお陰で、あそこも傷まずにいるのだから、感謝しないとね」
「私は掃除や草むしりをするくらいですから。
一昨年、大改修工事をしていただけた、有紗社長のお陰です」
「あの場所はあの娘達の思い出の場所でもあるからね。
大事に守っていかないと。
旦那様が目覚めた時にもしあそこが無くなっていたら、きっと悲しむだろうし」
「・・そうですね」
「それに、今の社長はあなただからね。
私は第1秘書」
「対外的にはそうですが、私達三人の間では、社長はずっと有紗さんで、第1秘書は常に皐月先輩ですから。
私はあくまで第2秘書。
これは我が御剣グループの不文律です。
御剣様も、そうお決めになられていますから」
「でも、他の皆には今のあなたは40代後半のご婦人で、私は20代前半の若輩に見えるのよ?」
「うっ・・でもあと数年したら、私もまた10代に戻れますし・・。
それに、本来の姿はずっと18のままですから」
「最初の頃は苦労してたわよね。
話し方が、全然年相応ではないのだもの。
何度か冷や冷やしたわ」
「済みません。
自分の外見が他人には違って見えるということに、中々慣れなくて」
「フフフッ。
別に大した問題ではないのだけどね。
私達に文句を言える人なんて、もうこの星にはいないのだから」
「・・大きくなりましたよねー、うちのグループ。
敢えて進出しない分野以外では、どの部門も世界のトップ企業ですものね」
「ちょっとズルもしてるからね。
旦那様が残していった例のパソコンは、間違いなくチート機材だし」
「でも社長、『予約権』が減るからと、ほとんどお使いにならないじゃありませんか。
今は(ローテーションから外れて)休暇中の皐月先輩も、『そんなに節約しなくても・・』って苦笑いされてましたよ?」
「4000年の間には、一体何が起こるか分らない。
旦那様がお昼寝している現状では、私達しか社員を守れる人はいないから。
真に必要な時に惜しみなく使えるようにしているだけよ。
・・別に、『予約権』が勿体無いなんて、ほんの少ししか思ってないのよ?」
そう言って、僅かに顔を赤らめる仕種に見惚れてしまう。
この方は、いつまで経っても変わらない。
少女らしい初々しさと、大人の女性が醸し出す落ち着きや色気が渾然一体となって、不思議な魅力を放っている。
あの皐月先輩が、御剣様以外で心酔する、たった一人の方だし。
「話が逸れたけど、はい、これ。
別荘の鍵よ。
楽しんできてね」
「ありがとうございます。
休暇中、宜しくお願いします」
明日から1週間の夏休み。
夏がこんなに楽しくなったのは、4年前のあの時からだった。
私の名は三笠弥生。
地球における、御剣様の五人目の眷族で、世界的総合企業、御剣グループの現社長。
本当は第2秘書なのだが、うちのグループは人目をごまかすために私達三人で社長や秘書の立場をローテーションしているので、渋々初の社長の座に就いた。
お飾りのようなものだし、有紗さんや皐月先輩が手伝ってくださるのでそれ程大変ではないが、個人的な理由から、ここ100年は精神的に辛かった。
眷族である私には、老いや寿命という概念がない。
人の社会に溶け込みながら、周囲を欺いて暮らしている。
腹を割って話ができるのは、極少数のお
これまでに、母を看取り、妹を見送り、友人に先立たれてきた。
その立場の特殊性ゆえ、係わる人をかなり絞ってきたけれど、人間であった間の僅かな時間に関係を持ったこれらの人達とは、有紗さんのお許しを得て、50歳で世間から身を隠した後も、姿を偽装しながら何度か家でのみ会っていた。
家族二人はともかく、唯一の友人として付き合った後輩には、大分悲しい思いをさせてしまったかもしれない。
それまで年に一度くらいは一緒に旅行もしたし、週末は食事や飲みにも付き合ったが、50になってからは、対外的な理由から、自宅でしか会ってやれなかった。
私と同じように結婚もせず(私は書類上では御剣様と結婚したことになっているが)、ずっと独身を通した彼女は、それでも幸せそうに、私に看取られながら世を去った(グループ系列の病院の個室だったからこそ見送れた)。
思えば、私が泣いたのは、その時が最後かもしれない。
彼女の遺言で、そのお墓は私が管理している。
もう1つ悲しい出来事を挙げるとすれば、行きつけであったカフェが閉店したことだろう。
学生時代から30年近く通った店であったが、世間の荒波に耐え切れず、店を閉めて直ぐに建物自体が壊された。
御剣様と再会し、その後暫くは単に珈琲を飲みに寄るだけの場所となっていたが、彼がお眠りになった後は、また空想を巡らす絶好の場所となっていただけに残念であった。
イブの夜には、毎年有紗社長と皐月先輩との三人で御剣様の居城に赴き、そのお側で一晩中酒盛りをしては、翌朝、珈琲を用意してくれたジョアンナさんに優しく肩を揺すられる。
御剣様が4000年という長い眠りに就かれたことは、かなり衝撃的であった。
有紗社長からそう聞かされた時は、皐月先輩と共に、暫く呆然としてしまったほどだ。
私達の知人や、グループ社員、その他大勢の人々を助ける代わりに、ご自分が自身に課されていた戒めを破った彼。
誠実で律儀でもあるあのお方は、自身との約束違反にさえ己に罰を科されたのだ。
おまけにその二十数年後、有紗社長と仲の良かった紫桜さんまで眠りに就かれ、表向きは気丈に振る舞いつつも、有紗社長の受けた悲しみは深かった。
皐月先輩と私は、微力ながらもその後の彼女を懸命に支え、そのお陰で、自分の辛さを暫く忘れられたのだ。
けれど、数年経って、彼女がどうにか笑顔を取り戻した頃には、私の心には大きな穴が開いていた。
これからどう生きよう。
どう過ごしていこう。
御剣様と会話すらできない今、以前のように空想に浸ろうにも、その場所すら失われてしまった。
居城に行けば、お眠りになっている彼に会えるのだが、一度我慢できなくて彼にキスしてしまったところを、お茶を運んでくれたジョアンナさんに見られてしまい、彼女は『私だっていつもしてますよ』と笑ってスルーしてくれたのだが、何だか恥ずかしくてイブ以外では足が遠のいてしまった。
仕事で寂しさを忘れようにも、幸か不幸か、この身体は疲労というものにほとんど縁がない。
どれほど根を詰めても、数日徹夜しても、化粧の乗りが落ちることさえないのだ。
息も絶え絶えになることは、たった1つを除けば、今の所見当たらない。
そしてその1つは、今はできないのだ。
外見だけで微笑んでいる私を見兼ねた有紗社長は、ある夏、私に別荘の鍵を渡してくれた。
西伊豆の海辺にある、かなり老朽化した別荘。
何度か修繕したらしいが、きちんと大改修を施さないと、次の大地震には耐えられないとも言われている。
ただ、思い出の場所であるらしく、完全に立て替えるのは躊躇われる。
御剣様にお願いしようにも、今はそれもできない。
なのでせめて誰かに使って貰うことで、少しでも現状を維持しようとのお考えらしい。
『1週間の夏休みの間、好きに使って良いわ。
ぼーっと海でも眺めながら、いろいろ整理してきなさい。
あそこは時が止まったような場所だから、考えるのに向いてるの』
特に予定もない私は、言われるままにその別荘とやらに向かう。
転移ではなく、電車やバスを乗り継ぎ、最後は徒歩で辿り着く。
ローカル線や、2時間に1本しかないバスでの移動は、然して人目を気にすることもなく、私を非日常へと
その建物を目にした時、『ああなるほど』、そう思った。
海を見渡す高台にあるその建物は、本当に存在感がない。
自己主張することなく周囲の景色に溶け込んで、全く違和感を覚えない。
今の時間は、輝く海の光を受けつつも、何処か陰のような部分を残しつつ、大人しく
物語や空想が好きな私は、一目でここを気に入る。
明かりすら点けない部屋の窓辺で、夜更けに海を見ながら
そう考えると、何だか足取りまで軽くなった。
玄関の扉を開けると漂ってくる、乾燥した埃っぽい空気。
海辺に在りながら、乾いた木の匂い。
僅かな空気の流れを感じながら、2階へと続く、緩やかな螺旋階段を
上り切る辺りの壁に、1枚の風景画が掛かっていて、何の気なしにそれに目を向けた私の歩みが止まる。
海上に懸かる満月。
暗い海水の上に、ゆらゆらと、まるで道のように一筋の光が走っている。
見方によっては、不吉なものの暗示にも見えるその絵は、私に何故か希望を感じさせた。
暫くそれを眺めた後、再び歩き始め、浄化を施した客室の1つに寝転がる。
程好いスプリングの感触に、直ぐに瞼が重くなった。
窓から差し込む月明りに、
身を起こし、カーテンの開いた窓を開け放つ。
椅子を運んでその傍に腰を下ろし、ぼーっと潮の香りを含んだ夜風に当たる。
風が髪を揺らす感触を楽しんでいると、久しく忘れていた創作意欲が涌いてきた。
夜の浜辺で、御剣様と並んで歩く私。
波の音を背に、両手を後ろで組みながら、彼と腕を組むタイミングを推し量っている。
サンダル履きの私が足下を濡らす一方で、黒い革靴を履いた彼は、波の方がその足下を避けている。
『指の間に入った砂を洗うので、少し肩を貸してください』
また1つ、口実ができた。
サークルの合宿で海へとやって来た私達は、夜の飲み会の後、示し合わせて部屋を抜け出す。
『ごめんなさい。
待たせてしまいました?』
星しか見えない暗い浜辺で待つ彼に、背徳感を楽しみながら、小声で声をかける。
サークル内でも彼を狙う女子は多いので、押し寄せる優越感が半端ではない。
振り向いて、私だけに見せる彼の笑顔に、一発で胸を打ち抜かれる。
フフフッ。
今夜は何処まで攻め込もうかな?
キスは当然として、あーんな事やこーんな事までしちゃう?
彼ならきっと、服が汚れないように配慮してくれるしね。
大人になったせいか、空想の中の私は、以前よりずっと大胆だ。
昔なら、顔を真っ赤に染めたであろう描写にも、何処かわくわく感が伴っている。
ぼやけた風にしか描けなかったシーンが鮮明に表現され、その息遣いや温もりさえ感じられる時がある。
いけない娘(こ)になってしまった私は、その原因を作った彼に思い切り甘える。
そうすることで、現在の寂しさや悲しみを、全て忘れ去るかのように。
知らずに流していた涙が、首筋を濡らす感触で我に返る。
人の欲には限りがなく、嘗てはただ思うだけで満足だったはずの彼との関係が、今では少し会えないだけで、寂しさや不満を感じるものへと変化している。
4000年くらい待てなくてどうする。
今の私には、尽きることのない
母は、限りある命で、最早会うことの叶わない父を待ち続けた。
永遠の眠りに就く際、やっとその傍に行ける喜びを表すかのように、微笑んだ。
大学の後輩は、最後に爆弾を落として逝った。
『私、貴女が大好きだったの。
・・愛していたのね、きっと』
その手を握り締めながら、彼女の顔を心に焼き付けていた私の目が見開かれる。
思えば、それらしい素振りは幾つかあった。
ただ、無意識にそれを避けていたのだろう。
応えられないからと、正面から向き合おうとせず、結果的には彼女を傷つけたかもしれない。
全てをはっきりさせることが正しいとは思わないが、それをもう、確かめる
眷族になる際、御剣様より念を押された幾つかのこと。
今は正にそれを試されている。
私だけが辛い訳ではないのだから。
涙を拭いて、再び目を閉じる。
今度はどんなお話にしようか悩む私を、満月と波音が、それぞれの立場で気遣ってくれるような気がした。
コツ、コツ、コツ。
どれくらいそうしていたであろうか?
モチーフが決まらず、目を閉じたまま幻想の世界をさ迷う私の耳が、誰かの足音を捉える。
ゆっくりと、一歩ずつ階段を上って来るような足音。
玄関の鍵を閉めなかったので、物取りの可能性もあるが、彼の眷族なら誰もが感じるその魔力の波動に、思わず身が震える。
その足音がドアの前で
「お前にこんな趣味があるとは知らなかったぞ。
・・済まない。
黙って眠りに就いたことで、随分寂しい思いをさせたな」
ノックの代わりに聞こえた優しい響きに、私は駆け寄ってドアを開ける。
「・・眷族とは不便なもので、人なら瘦せたり
なので、今のお前の心を少し覗いてしまった」
苦笑いしながらそう告げる彼。
「・・どうして?
お眠りになっていらしたはずでは・・」
目の前の事実を上手く認識できなくて、呟くようにそう口にする。
「今の自分は、約4000年後の未来からここに来ている。
目覚めた後、時間を見つけては妻や眷族達の過去を覗いているのだ。
勿論、邪な理由や嫉妬心からではないぞ?
自分のせいで、要らぬ苦労や負担、悲しみを与えていなかったかを検証しているに過ぎない。
見ては不味いと思うものは、きちんとそこを飛ばしているから安心してくれ。
・・ただ、今夜の件では何故お前が泣いているのか分らなかったからな」
そのお言葉で、やっと私の思考が冷静さを取り戻した。
見られた?
あーんな事や、こーんな事まで考えていた私の心を?
どうしよう、もうお嫁に行けないかも(行く必要ないけど)。
「・・い、言い訳をさせてください。
いつもあんな事を考えている訳ではありません。
今夜は偶々、そう、偶々月があまりにも奇麗でしたので・・」
顔中に火照りを感じながら、下を向き、懸命に取り繕う。
「別に気にしてなどいない。
お前には、その権利があるのだから」
相変わらずの、穏やかで、優しい響き。
御剣様がここに居ることを改めて実感し、力一杯抱き付いていく。
身を震わせ、その肩を濡らす私を、彼は静かに抱き返してくれた。
「それで、お前はこの1週間の休みで何をしたい?」
主人とも言うべき彼が訪れたことで、見違えるように潤いと輝きを取り戻した館のダイニング。
どうしよう、どんどん私のイメージが崩れている気がする。
私、第2秘書なのにお茶もご用意できないなんて。
「ぼーっと過ごす以外には考えておりませんでしたが、もしかして、共に過ごしていただけるのですか?」
「自分が過去に跳んでいる間は、本来の時間は止まったままだ。
他の眷族達の手前、こうしてお前と過ごした時間は後で『予約権』から差し引くが、その問いに対する答えはイエスだ」
嬉しさで、ここ暫くは忘れていた、心からの笑顔が浮かぶ。
必死に頭を働かせ、何をしたいかを懸命に考える。
最後に残ったのは、御剣様と再会する前、あの行きつけのカフェで、あれこれ空想していたものだった。
他の眷族の方々が我慢している状況の中、
「あなたと再びお会いする前、私が考えていた幾つかのことがしたいです。
学生時代、有り得なかった穏やかで幸福な時間。
愛しい人と過ごす、どきどき、わくわくする時間。
そして最後に、大切だった人を、あなたにご紹介したいです。
・・宜しいですか?」
「ああ、構わん。
何か筋書きを書いた物があれば良いが、今回はお前の脳から直接貰おう。
やりたい順に思い浮かべてくれ」
「はい」
彼の隣に移り、頭をその肩に凭れされながら、目を閉じてゆっくりと空想を始める。
数十分後、私を包む景色が変わった。
「・・話って何だ?」
放課後、私は入学以来ずっと憧れていた先輩を、手紙で屋上に呼び出した。
ここへ来てくれる可能性は
屋上へと通じるドアが開いた時、先ずは第1関門を突破したことにほっとして、再度身を緊張で強張らせる。
先輩も、いつも以上に凛々しい表情で私を見ていた。
「わ、私と、付き合ってください!」
「場所は何処だ?」
「え?」
「それから条件はどうする?
怪我をさせたくないから、得物はなしにしたいが・・」
「は?」
「どうやら自分は、知らない所で君から反感を持たれていたらしい。
できれば穏便に済ませたいのだが、どうだろうか?」
「・・あの、一体何を言ってるんですか?」
「勿論、手紙の内容についてだ。
まさか後輩の女子から果たし状を貰うとは思わなかった」
「果たし状?」
「これのことだ。
『今日の放課後、屋上で待っています。
必ず一人で来てください。
○月○日。
三笠弥生』」
私が出した手紙を、右手で掲げる彼。
「・・それの何処を果たし状だと思ったのですか?」
緊張が抜け、今度は脱力感が襲ってくる。
「自分が休み時間を用いてあらゆる角度から検討した結果、それ以外に考えられないという結論に達した。
・・先ずはこの封筒。
コンビニなんかに売っている、何の変哲も無い、極めて事務的なものだ。
茶封筒ではないにせよ、白く細長い硬質の封筒は、何らかの鋭さを感じさせる。
加えてこの文面。
相手に必要以上の情報を与えず、必ず一人で来いと書いてある。
もしその場で戦闘になった時、相手が複数ではめんどうだと判断したのだろう。
更にそこに、君のこの学校での評判が加味される。
『難攻不落の不沈要塞』、そう呼ばれているらしいな。
恐らく、これまでに
そしてそんな君だから、敢えてモブを演じていた自分の
・・そうだな?」
「はぁーっ。
・・やり直しを要求しても宜しいですか?」
「む、今良いところなのに、何故だ?」
「御剣様のシナリオ解釈に誤りがあるからです。
この場面は、純朴な女子高生が、ずっと憧れていた先輩に告白する所なのです。
それがどうして果たし状の話題に変わるのですか?」
「自分は最後までめんどうを見ると誓った妻や眷族としか付き合えないし、子を生させるつもりもない。
なので、一般人とは付き合えない。
この設定でのお前は、自分とは無関係の、只の人間だ。
自分は、できることなら好意を寄せてくる相手に悲しい思いをさせたくない。
よって、向こうから愛想を尽かすよう仕向けるしかないのだ」
「・・・。
この物語はフィクションです。
登場する主要人物は、全て御剣様の眷族であり、彼を裏切るものではありません」
「一体誰に向かって話しているのだ?」
「ここにはいない、誰かです。
さあ、これでほぼ何をしても大丈夫です。
初めからやり直しましょう」
「・・眷族なら、念話で済むではないか」
「そこは気にしたら駄目です。
ご都合主義というやつです。
恥ずかしがらずに、二人の世界に浸りましょう。
・・約束していただけましたよね?」
上目遣いで、少し拗ねてみる。
この後、渋る御剣様をどうにか説得して、憧れの告白シーンを演じていただいた。
「先輩、どうですか、この水着?
私なりに攻めてみたのですけど・・」
初夏の海、輝く日差し、舞台はこの別荘。
前回の空想で見事付き合うことに成功した私達は、数回のデートを経て、二人だけで海辺の別荘にやって来た。
勿論、ご都合主義であるから、高校生が男女二人だけで別荘に泊まるなんて非常識はスルーされる。
「弥生の内面を表す赤、胸と腰のラインを美しく見せるビキニ、何れも良い選択だと思う」
付き合ったのだからと、私のことは名前で呼んで貰っている。
「・・似合ってます?」
「ああ」
「フフフッ、ありがとうございます。
頑張った甲斐がありました」
「設定だからとやかく言わないが、同じ風呂に入ってくるのに、水着とはいえ服を着て恥ずかしがる理由が分らない」
「それを言っては駄目です。
シナリオに書かれていない行間は、登場人物達のプライベートなのです。
物語が破綻するようなことをしない限り、スルーされるべきです。
事実、同じお湯に浸かっただけで、疚しいことは何一つしておりません」
「堂々と裸を見せてもか?
せめてタオルで隠すべきでは?」
「御剣様の眷族の中に、あなた様と同じ湯に浸かりながら、肌を隠す女性はおりません。
そのことは、紫桜さんや有紗社長にも言われたことがあります。
『彼に選ばれた自分を誇りなさい。隠さなければならないのなら、初めから共に入らないことです』と。
・・もしかして、お目汚しでしたか?」
「そんなことを言ってはいけない。
紫桜達が述べたという、前半の言葉は正しいぞ」
「では遠慮なく甘えさせていただきます。
シナリオを進めますね。
・・先輩、私泳げないんです。
教えてくれますか?」
「済まない。
自分も泳げない」
「・・・嘘を吐かないでください」
「悪かった。
ゲームの選択肢で以前これを見つけて、どうしても一度現実で試してみたかったのだ」
「そのゲームでは、この先どうなりました?」
「それまでの好感度が高ければ、代わりにサンオイルを塗って欲しいと頼まれる。
低い場合は、海の家でたくさん
「何だ、先輩は私にサンオイルを塗りたかったのですね。
是非お願いします。
跡が残らないよう、今、ブラ紐を外しますから」
「身から出た錆とはいえ、まさかゲーム内の定番イベントを自分がやる羽目になるとは・・」
「先輩、ここは喜ぶべき所ですよ?
女の子に失礼です」
「こういう場面で喜ぶ男性を、女性は嫌がるものでは?」
彼女の背中にオイルを塗りながら、会話を続ける。
「相手によります。
他の男子には指一本触れられたくありませんが、先輩なら幾らでも」
「・・自分は時々思うのだ。
自分がするゲームの中では、女性は常に精神的に逞しく、有能で、しかも強い。
男性主体の制作現場でそういった作品が量産される以上、男性側でもそれを望んでいる
現実の世界では、女性は生き難く、不利だとも言われているが、果たして本当にそうなのかと疑問に思うことがある。
実際、『女性限定』とか『女性専用』などという言葉さえ、然して珍しくはないからな」
「・・少しシナリオから外れますね?
私はゲームをしませんが、仲の良かったゲーム好きの後輩が、以前言っていたことがあります。
ゲーム内で、ヒロイン達を美しく有能にするのは、みんな主人公、つまりプレーヤーのためでしかないと。
自分には何もないから、せめて周囲を飾るヒロイン達を有能にして、アクセサリー代わりにしているのだと。
そんな女性達に囲まれる自分は凄いんだと。
・・そこには、女性を尊重する意思が希薄にしか感じられません。
御剣様は、お心の温かいお方。
恐らくですが、なさるゲームも読まれる本も、人を大事にするようなお話のものだけなのでしょう。
ですが、悲しいことに世の中には色んな人がいて、様々な嗜好を持つ人々で溢れています。
世の男性が、みな御剣様のようであったなら、こんな素敵な世界はないのでしょうが・・」
御剣グループに入社できる前には、私も様々な目に遭ってきた。
幸運にも、御剣様や後輩など、手を差し伸べてくださった方々がいたから、笑顔を失わずに済んだのだ。
「考えるだけなら自由とはいえ、今の世は個人でもそれを発信できる機会がどんどん増えているからな。
日常的に異質なものに接していると、いつしかその境界線が曖昧になる者が出始める。
自由には制限がないと考える愚か者の数も、必然的に増えていく。
2次元の中では奴隷である女性も、3次元では対等な存在だと気付けない者もな。
でもそれは、男女双方にあることだ。
人には、一部を以って全とする者がいる。
己が嫌なことは目に付きやすいし、それを以って、そうする皆が同じだと考えやすい。
自分もそうだが、一度反感を持った存在を認めることは、中々難しいものだ。
・・終わったぞ」
「ありがとうございます」
「今更だが、塗る必要があったのか?
自分達は、日焼けなどしないが」
「物語の設定上では、私は只の女子高生ですから。
それにこういうイベントは、女性だって嬉しいんですよ?」
その日は、砂浜の上に立てたビーチパラソルの下で、夕方になるまでずっと二人で海を眺めていた。
「先輩、どうですか、私の着物姿は?」
お正月、受験を控えた私は、初詣と合格祈願を兼ねて、先輩と二人で神社に来ていた。
「様になってるな。
よく似合っている」
「フフッ、ありがとうございます。
この着物、借り物ではなく自分のなんですよ?
茶道をしていたので、ご紹介していただいたアルバイト代で、思い切って購入しました。
度重なるご援助には、今でも本当に感謝しております」
「設定から外れてるぞ。
もう普通に過ごせば良いのではないか?」
「そうしたいところですが、他の眷族の方々がお会いできない中、私だけがこうしておまけしていただいてるのですから、架空の設定くらいでちょうど良いのです。
普段通りの時間は、御剣様がお目覚めになった後で、空きを探してお願い致しますから」
「変な所で律儀だな」
「そうでもしないと、有紗社長や皐月先輩に申し訳ないですから・・」
「妻達には、他の眷族の女性を一通り探った後、必要があれば同じような時間を設けるから気に病む必要はない。
この時間は、お前の好きなように使って良いのだぞ?」
「・・良かった。
それをお聴きできて安心しました。
でも折角なので、もう少しお
一緒にお参り致しましょう」
着物を着た私の歩幅に合わせて、ゆっくりと歩いてくれる彼。
境内は大勢の参拝客で混み合っているが、進む道に沿って、見えない力で人波が割れていく。
『先輩と同じ大学に合格できますように』
お賽銭を投げ込み、二礼二拍手してそうお願いする私に、神様からの声がする。
『合格可能性80%以上。
このまま頑張れば、春には美しい桜が咲くでしょう』
聴いた私の目が点になり、一礼後、隣を歩く先輩に微笑みながら話しかける。
「神様からお墨付きを頂きました。
先輩は何をお願いされたのですか?」
「『○○と結婚できますように』
『宝くじで6億当たりますように』
『○○に合格できますように』
『今年こそは自分に彼女ができますように』
・・いろいろ言われたな」
「・・いえ、受動ではなく能動の方なのですが。
それに、また設定から外れています」
「済まない。
どうやら自分は役者には向いていないようだ。
『思念の海』を開くと、注意力が散漫になるせいもあるが・・」
苦笑する御剣様に、浮かんだ疑問をお尋ねしてみる。
「御剣様でも、気が散ることがお有りなのですか?」
「良い事ばかりが聞こえてくる訳ではないからな。
情けない話だが、聞き流さないとやってられない時もある」
「・・手を繋いでも宜しいですか?」
「ああ、構わん」
今の私には、こんなことくらいしかできない。
「時に、弥生は雑煮は好きか?」
「え?
・・はい、人並には」
「鶏がらスープの醬油味でも平気か?」
「ええ。
私の家でもそうでした」
「なら今晩は雑煮にしよう。
正月には雑煮が食べたい。
因みに餅の数は何個だ?」
「2つでお願いします」
「む、意外に小食だな。
自分は20個はいけるぞ。
焼いただけの餅はあまり食べないが、雑煮なら何個でもいける。
以前、有紗の家で30個食べて呆れられてしまったが、あの柔らかさが堪らん」
「そんなにお好きだとは知りませんでした。
お汁粉もですか?」
「いや、好きなことは確かだが、それはさずがに3杯くらいだな」
「それと、『意外に』ってどういう意味でしょう?」
満面の笑顔でお尋ねする。
「アイスを一度に5個も食べる者からしたら、少ないという意味だ」
「そ、それは、創作活動をすると、甘い物が食べたくなると言いますか、あのシリーズが美味し過ぎると言いますか・・うう」
「非難している訳ではないぞ?
自分達には飲食物は全て嗜好品でしかない。
身体を壊す訳ではないから、食べたい物を食べたいだけ食べると良い。
食事に風呂、散歩にゲームは大切な娯楽だから」
「・・もし後輩が生きていたら、御剣様はきっと彼女と気が合うと思います。
彼女もお風呂とゲーム、美味しい物が大好きでしたから・・」
二人で行った旅行では、よく温泉にも入ったし、何だかんだ言いながら、彼女は幾つになってもゲームをやっていた。
「今日はもう、買い物を楽しんだら戻りませんか?
今回のお芝居はここまでにしておきます。
お雑煮を食べて、お風呂に入って、明日はお墓参りに付き合ってください」
以前、あのカフェでいろいろと空想を巡らせていた頃と今では、その気持ちが大分違う。
折角御剣様が隣に居てくださるのに、過去を描こうとすると、心が僅かに重くなる。
理由は分っている。
自分だけが楽しむこと、幸せであることに、罪悪感に似た気持ちが生じるのだ。
彼女の好意を薄々は感じながら、敢えてそれから目を逸らし、向き合うことをしなかった。
たとえ恋愛としては応えられなくても、そのことを後輩にはっきりと伝え、彼女に選択させるべきだったのだ。
いつまでも宙ぶらりんのまま、彼女を待たせるべきではなかったのだ。
彼女が私の側で、一体どんな気持ちで笑っていたのかを考えると、今でも胸が苦しくなる。
必死に焼き付けたはずの彼女の死に顔に、記憶が辿り着かない。
情けない私は、神である御剣様をその墓前に伴うことで、少しでも許しを乞おうとしている。
自分だけが幸せでいる今を、彼女に非難されないかと怯えてもいる。
そして、こんな決着しか付けられない私を、他ならぬ、私自身が悲しんでいる。
「
塀で仕切られた、約1000坪の敷地。
広葉樹に囲まれた小道を歩くと、アジサイに包まれた墓石が見えてくる。
母は父と同じ場所に眠っているので、ここは後輩である彼女専用だ。
その遺言で墓を任された際、序でに財産分与まで受けていた。
未婚の彼女には子供がおらず、遺言状によって全財産を私が引き継いだ。
3億を優に超えるその額の全てを、私はこの墓の建設へとつぎ込み、以来、毎年一人で命日に墓参りをしている。
時折、小鳥のさえずりが聞こえてくる中で、御剣様が穏やかに目を細めた。
「ありがとうございます。
アジサイは、彼女が好きな花でした。
一見派手な外見の彼女にしては、その好みは落ち着いた柄や渋い色合いのものが多かったですね」
黒曜石でできた墓石に目を向ける。
『
「お久し振り。
今日はとても珍しいお方をお連れしたわ。
御剣グループ会長で、私のご主人様でもある、御剣和也様。
貴女とは面識が無いでしょうけれど、秘書課にいたのだから、お名前くらいは知っているわよね」
墓石にそう告げて、私は隣に立つ彼に目を向ける。
果たして彼は、じっと瞳を閉じていた。
私がここにお連れした本当の意味を、恐らく彼は理解してくださったのだろう。
狡いやり方だと思う。
凄く自分勝手だと思う。
己の浅ましさを握り潰すかのように、両の拳に力を込める。
それでも目だけは放さなかった彼の瞳が見開かれ、そこから蒼い色彩が溢れ出る。
心の中で歓声をあげる私。
第1関門はクリアした。
後は御剣様のお考え次第。
「お前は彼女をどうしたいのだ?」
瞳を元の漆黒へと戻した彼が、そう尋ねてくる。
「自分でもよく分らないのです。
彼女に謝りたい。
きちんと自分の考えを告げて、その後の選択を彼女に委ねたい。
御剣様の眷族として迎え入れていただきたい。
晩年にあまり会ってやれなかったことを詫びたい。
友人の少ない自分にとって、実は大切な存在だったと伝えたい。
・・いろいろな思いが、頭の中で渦巻いているような状態なのです。
ただ、もう一度彼女に会いたいという気持ちだけは確かです」
「多少誤解があるようだから伝えておくが、彼女の気持ちは半々だ。
ざっと見た限り、お前を性的に見ている愛情と、肉親に向けるような親愛の情が共存している。
どうやらお前は、彼女の気持ちにきちんと返答しなかったことを悔やんでいるようだが、彼女はそれを大して気にはしていなかったようだ。
お前と一緒に居られるだけで嬉しかったと、亡くなる直前の強い思いが残っていた」
「!!」
涙が溢れてくる。
『先輩、今度飲みに行きませんか?
良いお店を見つけたんです』
『先輩、温泉に行きましょう。
海を眺めながら、星に照らされながら湯に浸かりましょうよ。
きっと気持ち良いですよ?』
『先輩、今夜は愚痴を聞いてください。
親がそろそろ結婚しろと
孫の顔が見たいなら、弟に期待しろと言ってやりました』
『先輩は、いろいろと秘密が多いですよね。
でも別にそれで構いません。
良い女なら、秘密の1つや2つくらい抱えているものです』
『今夜は一緒に寝ても良いですか?
・・偶にですが、隣に誰か居て欲しい夜があるのです。
私には、先輩しかそう思える人がいないので』
『ねえ先輩、先輩は人生について考えたことがありますか?
これからのこと、死んだ後のことを、何か思い描いてますか?
私達二人は、この先どうなっていくのでしょうね』
時が経てば経つほど増してくる喪失感。
失って初めて理解したその存在の有難味。
私は、彼女に生きていて欲しいんだ。
「・・会いたい。
また彼女に会いたいです。
私にできることなら何でもします。
どうか麗奈に、御剣様にお仕えできる機会を与えてあげてはいただけませんか?」
「いきなりは難しいな。
先ずは本人の意向を確かめる必要がある。
お前とだけ過ごしていきたいのか、自分の下に就いて働くつもりが有るのか、時の流れの中をさ迷う覚悟ができるのかを問い質さねばならない。
だから、先ずは時間をやろう。
来年から5年間、お前が休暇であの別荘を使う間に、5日間だけ彼女と会えるようにしてやる。
お前が別荘に入った時、その魔力に反応して、冥界の門に並ぶ彼女の魂をあの館へと転移させ、実体化するシステムを作ってやる。
その方が、過去から呼び寄せるよりも、彼女の最終的な意見を尋ねるのに適しているからな。
勿論、実体化の際は眷族化した時と同様に、彼女が1番美しい年齢でそうさせるから、その時間を好きに過ごすと良い。
お前の容姿も、その間は本来のものに戻して良いぞ」
「ありがとうございます!」
顔が膝にぶつかるくらいの勢いで、御剣様に頭を下げる。
「彼女との時間を通して、きちんとその意思を確認しておくこと。
最終的にどうするのかを決めるまでは、他の者には内緒にしておくこと。
この分は、自分が目覚めた後、纏めて『予約権』から徴収する。
・・異存はないな?」
「はい、勿論です」
「5年後、別にそれより早くても構わないが、どうしたいのかが決まったら、別荘の窓際にこの風鈴を吊るせ。
その音で、自分はあそこにやって来る」
彼の右手に生じた、小さな風鈴を渡される。
「そう言えば、今の社長はお前なんだな。
グループは順調か?
後の二人も元気でやっているか?」
「はい。
お二人のお陰で、何とかやれています。
御剣様がお残しになったPCは、あまり活用されてはおりませんが・・」
有紗社長が一時期塞ぎ込んでいたことは、私の口から言うべきことではない。
お二人の間で、その時間の中で話し合われることだから。
「む、そうなのか?
それでは『予約権』が減らないではないか」
「連帯責任にしたのが不味かったと思います。
誰か一人分で良いなら、皐月先輩か私の分で、もっと頻繁に使えるのですが・・」
「・・そうか。
欲をかいたのが敗因だな」
項垂れる御剣様を見て、思わず笑ってしまう。
何十年振りだろう、心に何のしこりも無い笑いだった。
翌年、夏季休暇を取った私は、海辺の別荘の玄関を開ける。
潮風が流れ込む感触と共に、館に魔力が満ちていくのを感じる。
扉を閉め、ゆっくりと玄関ホールの階段付近まで足を運ぶと、本来の姿に戻って、静かにその時を待つ。
やがて、階段の頂上付近から聞こえてくる足音。
不安げな、一体ここは何処なのか分らないというような、おぼつかない足取り。
懐かしい、待ちに待った彼女の姿に向けて、私は精一杯の感謝を込めて声を放つ。
「いらっしゃい、麗奈。
また会えてとても嬉しいわ」
声に反応した彼女が、顔をこちらに向けた。
「・・先輩?」
私達二人の新たな時間が、今やっと始まりを告げた。
それから5年。
私と麗奈の二人は、別荘の窓辺にあの風鈴を吊るす。
もっと早くそうしても良かったのだが、折角二人きりの秘密めいた時間を過ごせるのだからと、彼女がぎりぎりまで待つように願った。
その間、再度眠りに就こうとも、もう寂しくも悲しくもないらしい。
「御剣様は、私をお認めくださるでしょうか?」
大丈夫だと、何度告げても不安は残るらしい。
「貴女が彼にお仕えしたいという気持ちを真摯に語れれば、何の心配もないわ」
吹き抜ける夜風に反応し、吊るした風鈴が美しい音色を響かせる。
コツ、コツ、コツ。
二人の希望を叶えてくださる、優しく穏やかな足音が聞こえ始める。
「お見えになったわ」
麗奈が私の手を握り締めた。
更に数年後。
「先輩、今年の予定はどうなってますか?
お休み、合いそうですか?」
「お盆辺りなら多分大丈夫。
そっちは?」
「私もそこは空いてます。
今年は何処へ行きます?」
そう言いながら、嬉しそうに手帳のページを捲る彼女の右手には、眷族の証たるリングが淡く輝いていた。
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