3
「こんなものどこに隠していた⁉」佐伯の腕に握られたiPodを見て、仁科がつぶやく。「なのに、動けないし、しゃべれないんだと?」
多恵がうなずく。
「噓じゃありません。ロックド・イン・シンドロームって言うそうです。でも、急速に回復してます」
仁科が佐伯を見下ろす。
「じゃあ、金森を呼んだメールはこれで送ったのか?」
佐伯が掲げたiPodに文字が打ち込まれていく。
『そうだ』
「余計なことを……金森は、俺たちも殺そうとしているのか?」
『かなもりは しんだと ぎそうした
いきていると しってる にんげんを ころす』
「お前、自分を餌にしてあいつを呼び寄せたんだろう? なぜだ?」
『かなもりを つかまえろ
しゅはんは やつだ
じしゅすれば しょばつは かるい』
「もう遅い。警官も死んでいる」
『ころしたのか』
「事故だよ。もう、どうでもいい。大昔のことだ。だが、おまえは金の在処を知らないんだな?」
『しらない
ぬれぎぬを きせられた』
「知っているのは金森だけ、ってことか。いい話を聞いた」
『なにを するきだ』
「お前には関係ない」
『つみを かさねるな
たえに てをだすな』
仁科は、鼻で笑った。
「iPodは、そのまま持ってろ。また、何か聞きにくるかもしれないからな。ちゃんと充電しておけよ」
*
犯罪者の心理には通じている。あの目は一線を越え、引き返す気のない目だ。あるいは、人生を諦めた、投げやりな目。
人質も平気で殺せる。
だが、狂気とは違う。殺人が利益にならないと計算できれば、決して人質に手は出さないだろう。そして、今までは辛うじて理性を保っていた。
すでに、警官は殺している。しかし、事故だと言う説明に噓はないだろう。金さえ得られれば、きっと人質は無事に解放する。
だが、金森は……? あいつはいったい、どう動くのだろうか……?
私は、与えてはいけない情報を与えてしまったのか……。
おそらく奴らは、金森を狩り出す。拷問をしてでも、金とブツの在処を聞き出す。
その後は、どうなる? 奴らは、どうやって逃げる?
脱出の道具として人質の命を奪うという危険は、まだ消えていない……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます