10
MRI室は三つのブロックに別れている。廊下から入ってすぐが準備室で、検査を受ける患者がナースの説明を受け、身につけた品を預ける場所だ。そこには二つのドアがあり、正面のドアの先が操作室だ。右側がMRI装置本体が置かれた、一番大きな部屋になる。操作室との壁には大きな嵌め殺しガラスの窓が取り付けられ、MRIと患者が見渡せる構造になっていた。
佐伯は特殊なストレッチャーで運ばれてきた。MRIの発する機器に反応しないように主にアルミを使用し、98%が非磁性体で作られたものだ。
佐伯をMRIのベッドに移して固定し、スタジャンは準備室に向かおうとした。と、戸口を出たとたんに銃でこめかみを強打されて呆気なく倒れた。銃はブラックマーケットで手に入れたスミス&ウェッソンのリボルバーだ。
金森は、佐伯をMRIに移す間に準備室に侵入していたのだ。開けっ放しのドアから巨大なMRI装置が見えている。倒れたスタジャンを軽く蹴ってからMRIに近づく。
その脇で、装置のセッティングを終えた技師が呆然と金森を見つめていた。
陣内はもう一つのドアから操作室に入ってドアを閉じていた。ガラス越しにMRI室の中が見えていたが、銃を持って乱入して来た暴漢を止める術はない。
金森が技師に命じる。
「そこの技師! 機械から離れろ!」
金森が、ベッドに固定されて顔をヘッドコイルで覆われた佐伯に、銃を向けた。
同時にマイクから、陣内の声が飛ぶ。
「やめろ!」
陣内が操作用のオペレータワークステーションで、スキャンスイッチを押す。MRIが発する大音響で金森を威嚇しようとしたのだ。
陣内は同時に、操作室から飛び出していた。
MRI室にはすでに、最新鋭の3テスラMRI装置が発する超高磁場が充満していた。半径5メートル以内の磁性体には〝危険〟とされる吸引力が及ぶ。金森はそうとも知らずに、辛うじて磁場の影響を受けない位置にいた。
技師は、金森の銃を見た瞬間に決断していた。弾かれたように飛び出す。佐伯の身体を守るように覆い被さった。
金森が叫ぶ。
「どけ! 邪魔だ!」
起動したMRIがガッガッというような動作音を立てる。超高磁場に、撮像のための傾斜磁場が加わる。
準備室へ出た陣内はためらわなかった。倒れたスタジャンをまたいで超える。金森の左肩めがけて体当たりしようと突進した。
視野の隅に陣内の動きを察した金森は、わずかに身体を傾げる。陣内は攻撃をかわされ、壁に打ち当たった。だが、金森も体勢を崩して、ほんの数歩前進していた。それが致命的だった。
拳銃は、鉄含有量90%を超える強磁性体だ。MRIの超高磁場が銃を捕らえた。
凄まじい吸引力が金森の銃を引き寄せ、銃口が揺らぐ。拳銃に引っ張られるように、金森がさらに一歩前に出る。銃を引き戻そうと力を入れた瞬間、引き金が指にかかった。銃声が室内の空気を揺るがす。銃弾は、操作室との仕切りのガラスを貫いた。
大きなガラスが一気に砕け、床に降り注ぐ。
同時に、金森の銃は磁場にもぎ取られた。銃は凄まじい勢いでMRI装置の側面に張り付く。金属がぶつかり合う衝撃音が広がる。
*
身体に何かがのしかかってくる。技師だ。技師が射たれたのか⁉
いや、銃声はない。私を守ろうとしている。
同時に大音響に包まれた。MRIの作動音⁉ 金森に襲われているのに、なぜ⁉
そして、銃声が轟いた。
撃たれた!
だが、痛みはない。私は何ともない。
誰が撃たれたんだ⁉
頭の中に銃声が響き渡って、外の音が全く聞こえない。
状況が全く見えない。
くそ! 何が起こっている⁉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます