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 MRI室は三つのブロックに別れている。廊下から入ってすぐが準備室で、検査を受ける患者がナースの説明を受け、身につけた品を預ける場所だ。そこには二つのドアがあり、正面のドアの先が操作室だ。右側がMRI装置本体が置かれた、一番大きな部屋になる。操作室との壁には大きな嵌め殺しガラスの窓が取り付けられ、MRIと患者が見渡せる構造になっていた。

 佐伯は特殊なストレッチャーで運ばれてきた。MRIの発する機器に反応しないように主にアルミを使用し、98%が非磁性体で作られたものだ。

 佐伯をMRIのベッドに移して固定し、スタジャンは準備室に向かおうとした。と、戸口を出たとたんに銃でこめかみを強打されて呆気なく倒れた。銃はブラックマーケットで手に入れたスミス&ウェッソンのリボルバーだ。

 金森は、佐伯をMRIに移す間に準備室に侵入していたのだ。開けっ放しのドアから巨大なMRI装置が見えている。倒れたスタジャンを軽く蹴ってからMRIに近づく。

 その脇で、装置のセッティングを終えた技師が呆然と金森を見つめていた。

 陣内はもう一つのドアから操作室に入ってドアを閉じていた。ガラス越しにMRI室の中が見えていたが、銃を持って乱入して来た暴漢を止める術はない。

 金森が技師に命じる。

「そこの技師! 機械から離れろ!」

 金森が、ベッドに固定されて顔をヘッドコイルで覆われた佐伯に、銃を向けた。

 同時にマイクから、陣内の声が飛ぶ。

「やめろ!」

 陣内が操作用のオペレータワークステーションで、スキャンスイッチを押す。MRIが発する大音響で金森を威嚇しようとしたのだ。

 陣内は同時に、操作室から飛び出していた。

 MRI室にはすでに、最新鋭の3テスラMRI装置が発する超高磁場が充満していた。半径5メートル以内の磁性体には〝危険〟とされる吸引力が及ぶ。金森はそうとも知らずに、辛うじて磁場の影響を受けない位置にいた。

 技師は、金森の銃を見た瞬間に決断していた。弾かれたように飛び出す。佐伯の身体を守るように覆い被さった。

 金森が叫ぶ。

「どけ! 邪魔だ!」

 起動したMRIがガッガッというような動作音を立てる。超高磁場に、撮像のための傾斜磁場が加わる。

 準備室へ出た陣内はためらわなかった。倒れたスタジャンをまたいで超える。金森の左肩めがけて体当たりしようと突進した。

 視野の隅に陣内の動きを察した金森は、わずかに身体を傾げる。陣内は攻撃をかわされ、壁に打ち当たった。だが、金森も体勢を崩して、ほんの数歩前進していた。それが致命的だった。

 拳銃は、鉄含有量90%を超える強磁性体だ。MRIの超高磁場が銃を捕らえた。

 凄まじい吸引力が金森の銃を引き寄せ、銃口が揺らぐ。拳銃に引っ張られるように、金森がさらに一歩前に出る。銃を引き戻そうと力を入れた瞬間、引き金が指にかかった。銃声が室内の空気を揺るがす。銃弾は、操作室との仕切りのガラスを貫いた。

 大きなガラスが一気に砕け、床に降り注ぐ。

 同時に、金森の銃は磁場にもぎ取られた。銃は凄まじい勢いでMRI装置の側面に張り付く。金属がぶつかり合う衝撃音が広がる。


           *


 身体に何かがのしかかってくる。技師だ。技師が射たれたのか⁉

 いや、銃声はない。私を守ろうとしている。

 同時に大音響に包まれた。MRIの作動音⁉ 金森に襲われているのに、なぜ⁉

 そして、銃声が轟いた。

 撃たれた! 

 だが、痛みはない。私は何ともない。

 誰が撃たれたんだ⁉

 頭の中に銃声が響き渡って、外の音が全く聞こえない。

 状況が全く見えない。

 くそ! 何が起こっている⁉

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