第67話 最後の思い出
これはすごいわね……。
学園外へと皆で遊びに出たけれど……お忍びとはレベルが違う。この通りに出るまでも、通行制限をされているだろうことはすぐに分かった。道行く人も一般人ではないと思っていた。
しかし、これは……。
メルルとリックは気付いていないだろうけれど、おそらく見渡す限り一般客を装っている護衛か何かだ。人数が少ないし、なんとなく分かる。
一般客はここから見えないくらいに遠くで通行止めをされているはず。メルルとリックのためにも、日常を演出しているに違いない。
今回は学園に申請を出している。
ジェラルドが明日国に戻ることは関係者一同も知るところで、ここに王子が三人も揃っていることを知っている者は多く、お忍びと違って暗殺の危険性も一気に高まる。
そうすると、こうなるわよね……。
「少し話はしたけど、警備の関係でここから真っ直ぐの通りの店くらいしか無理なんだ。でも真っ直ぐなら、かなり遠くまででも大丈夫だ。料金も払わず、何かを買うなら包んでもらうだけでいい。僕の護衛がどこかにはいて、全部払ってくれる」
リックとメルルは、うわーって顔をしているわね。
「そうよ、妖精さんがなんとかしてくれるから、気にせずパーッと使いましょう」
「あ、じゃぁ僕、城を買いまーす!」
「売ってない!」
ジェラルドが上手く場を和ませてくれる。
貴重なキャラ、しているわよね。
盛り上げ役としてずっといてほしい気はするものの、ヨハンはストレスがたまりそうだ。
……私も仲よくなりすぎた。
あの告白がなかったとしても、半年でよかったのかもしれない。
「それじゃ、行こ行こ」
「はい、楽しみです」
メルルと腕を組んで、歩き出す。
「え、ちょっと、ライラちゃーん。僕と腕を組んでよ」
「組ませるか!」
あの二人の仲は、形容しがたいものがあるわよね。
ここは学園都市だけあって落ち着いた街並みだ。学生向けのお店の他に、歴史のある建物も多い。
「メルルはどこに入りたい?」
「そこはやっぱり、ジェラルドさんの希望を」
「僕は、ライラちゃんが入りたいところかなー」
ううん……決まらないわね。
歩いているだけでも楽しいけれど……。
「あ! それなら、ゲームをしましょう」
「ここでー?」
「いつものじゃないわよ。あちこちの店に入って、自分以外の皆のイメージにあった何かを買うの。一人五人分ってことよ。最後にお互いに贈り合うの。予算も決めるわ。城は買っちゃ駄目よ。これだって物を決めといて、最後に買う時間を設けるわ。それまでは何にするか考えながら楽しみましょう」
「わぁ、素敵。さすがライラさん」
皆からのプレゼントを持って、ジェラルドに国に帰ってもらいたい。
そんな思いで提案した。
「うわー、楽しみですけど、難しいですね。俺にとってのジェラルドさん、どんなイメージだろう。セオドアさんも、うーん……。俺、もしかして皆さんのこと全然知らなかったのかな」
「考えても思いつかないわよ。店をまわっていれば、きっとピンとくる物が見つかるわ」
私も全然思いつかない。
でも、お忍びの時にヨハンに買ってもらったオルゴールのように、これって物がきっと見つかるはず。
皆で一緒に雑貨屋さんや文房具屋さん、服屋さんなどに入って、お互いについて聞き合う。
「これとこれなら、どっちが好み?」
「何色が好き?」
「趣味って何?」
ボードゲームをしているだけでは知り得なかったことをお互いに聞いて、相手について考える。
貴重な時間だ。
セオドアが、すっと私の横に並んだ。
「本当に色々とありがとう……。お前には助けられてばかりだな」
「ふふ、セオドア自身を助けたことはないわよ。それに、ジェラルドも……」
一番の彼の願いは、叶えられない。
「いいや。兄上も私も、お前に会う前と後ではまるで違う。大切な時間をもらった。きっといい方向に進んでいく」
「あら、セオドアにはまだ時間があるわよ。……あっという間でしょうけどね」
「そうだな。半年がこんなに早かったんだ。あっという間だろうな……」
「そう、いつかは過ぎ去ってしまうのよ」
「戻りたいと思える時間をつくってくれたのは、お前だ。感謝している」
戻りたい、か……。
ジェラルドの気持ちを考えているのね。
セオドアは言葉少なだけど、温かい眼差しで静かな微笑みをたたえ、皆に安心感を与えてくれる。
彼もまた必要な存在で大切な仲間だ。
いつかバラバラになってしまうことが寂しい。
「ふわぁ、ライラさん! 猫カフェがありますよ!」
「え、なんでそんなものが」
「あ、猫は実家で飼っていたんで、俺も行きたいです」
もしかして、このゲームの誰かのルートのために用意されていたのかしら……。
セオドアもメルルも猫に好かれそうよね。
二人の恋愛イベントを潰していたら申し訳ないけれど……見つけちゃったものは、しょーがないわね!
「よっし、行こう行こう! 誰が一番猫に好かれるか、勝負よ」
「ライラちゃん、そういうの好きだよね」
ゲームのやりすぎで、そんな思考回路になってきたのかしら……。
たくさんの店にふらりと入り、色んな話をしてまた出てくる。
あっという間に時間が経っていく。
最後は、ヨハンが貸しきったという(実際はこの辺一帯を貸しきっているだろうけど)落ち着いたカフェで、各自決めた物を買って集合ということになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます