第135話 暗躍、失敗

■玲桜奈視点■


 無事に体育館を脱出した私は、一緒に脱出してきた生徒を、急いで救急車で運ばせた。周りでは、かけつけた消防隊員が消火活動をし、教師も一緒に消火器で消していた。


 消火活動は彼らに任せて、私はもう一度突入して、陽翔を助けないと! 下敷きにされたといっても、まだ生きてるかもしれない!


「いけません西園寺さん! さっきは金剛さんに止められてしまいましたが、これ以上はプロに任せなさい!」

「ですが先生!」

「ですわね~。素人が突っ込んでも、無・駄・死・に~をするだけですわ。あら~一人足りませんわね~? やっぱり無駄死――」

「貴様ぁぁ!!!!」


 怒りが頂点にまで達した私は、天条院の胸ぐらを思い切り掴みかかった。それでも全く余裕な態度を崩さない天条院に、イライラが止まらなかった!


「怒っても仕方ありませんわ。これは……事故ですわ。死んでしまった者は帰りませんし、諦める事ですわ~!」

「は、陽翔は死んでない……! 今から助けに行けば……きっと!」

「そんな死にそうな声で言われても、説得力皆無ですわ~。今頃こんがり焼けてる頃でしょうし、それを本日のディナーにでもしたらどうかしら?」

「貴様……貴様ぁ……!!!!」

「あっ……あれって……!」

「そうだよ! 絶対そうだよゆいちゃん!」


 少し離れた所で体育館を見ていたソフィアさんとゆいさんが、やたらと叫んでいる。


 また悪い事でも起こるのか? もうこれ以上陽翔が苦しむような事は起こらないでくれ!


 そう思った矢先――


 パリーーーーン!!


「な、何事だ!?」


 体育館の一階にある窓が勢いよく割れた。そして、そこからはボロボロの何かが出て来て、勢いよく転がり――動かなくなった。


「もしかして、陽翔……陽翔!?」

「ぜえ……ごふっ……陽翔……帰りました」

「陽翔っ!!」


 倒れたままで苦しそうな陽翔を、強く抱きしめた。体は大小様々な火傷があり、脱出の際にガラスで切ったような傷もあるが、表面上は命に別状は無さそうだ。


 だが、煙で体の内部がやられた可能性もあるから、楽観視するのはいけない。


「ハル!? 大丈夫、生きてる!?」

「陽翔さん……!」

「大丈夫だ。でも本当によかった……もう駄目かと思ってたのに……」

「玲桜奈さん……あなたの言葉で……俺……助かったんです」

「言葉……?」


 うっすらと目を開けながら、ぽつぽつと喋る陽翔。半分意識が無いような状態で喋っているように見える。


「これからも、ずっと一緒にいようって……玲桜奈さん……これからも、ずっと……一緒に……」


 その言葉を最後に、プツリと糸が切れた糸人形のように、陽翔は喋らなくなってしまった。


「陽翔……陽翔!? なにをしている、早く病院に運んでくれ!」


 超特急で救急車の準備が出来た。これで陽翔の治療ができる。念の為、私も一緒に行って、検査をするとの事だ。


 言っておくが、私自体の怪我は大した事ない。少々火傷をしていて、ヒリヒリと痛む程度だ。


「玲桜奈ちゃん先輩、アタシ達も行きます!」

「お邪魔かもしれないですけど……不安で待っていられないです……!」

「ありがとう、心強いよ。イサミ、後始末の方を任せていいだろうか?」

「もちろん、任せなさぁい。最近働きすぎだしぃ、これを機に少し休んできなさいな」


 随分と呑気な事を言う。だが、これもあまり重い空気にならないように、イサミが気を利かせているのだろう。


「では病院に向かいます」

「はい、よろしくお願いします」


 救急車が病院に行くために扉を閉める瞬間その際に天条院の独り言が聞こえてきた。


「火の回りは完璧だった……その後の流れも……なら、あの二人の生存能力が想定外だったということ……? まあいいわ、あのキチガイ男のおかげで、しばらく磯山 陽翔は表舞台に出てこれませんわ」


 そこで完全に車の扉が閉められてしまい、声が聞こえなくなった。


 今の独り言、明らかに普通とは思えない。もしかして、放火の実行犯と、天条院には繋がりがあるのだろうか?


 仮にそうなら、天条院は間接的に人殺しをしようとしている。見逃すわけには行かない。


 そう思った私は、ポケットに入っていたスマホを取り出して、電話をかけた。


「……もしもし、お父様!」

『どうした玲桜奈、そんな大声で』

「し、失礼しました。少々問題が発生して気が動転してまして……」

『玲桜奈が動転するような事が? なにがあった』

「実は……」


 私はお父様に事の顛末を端的に話すと、何か考えるように、深い溜息が聞こえた。


『なるほど……そんな事があったのか……なんにせよ玲桜奈達が無事で本当によかった』

「それで、至急調べたい事があるので、諜報部隊を用意する許可をいただけませんか!」

『諜報部隊を使うほどの事があったというのか?』


 お父様が驚くのも無理はない。西園寺家に仕える諜報部隊はエリート中のエリート。だから、余程な事が無い限り、動かす事はない。


「ええ。私の勘が正しければ、天条院 カレンが、かなり危険な事を実行しているようで……これ以上の犯行の抑止のためと、マスコミに流す為の情報収集をお願いしたいのです」

『随分大事のようだな。わかった、私の方で準備しよう。追って連絡をする。それと、私も後で病院に向かうから、そこで詳しい事情を話すように』

「ありがとうございます! では失礼します」


 電話を終了させた私は、手に持っていたスマホを力強く握りしめながら、強く歯ぎしりをした。


 もし私の想像が正しかったら……奴は生徒を……学園を……私の大切な陽翔を……どういう意図があってやったのかは定かではないが、絶対に許さない。必ず真実を暴き、白日の元に晒してやる!!


「あ、あの……急にどうしたんですか……?」

「天条院とか、犯行とか……随分物騒な単語が聞こえたけど……」

「なんでもない。いや……なんでもないわけじゃないんだが……私も確証がなくてな。落ち着いたら話させてもらうよ」


 いかんな、ここで感情的になったら、ソフィアさんやゆいさんを不安にさせてしまう。あくまで冷静に、そして迅速に……天条院を追い詰めなければ。

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