第127話 生徒会選挙に出馬

 生徒会に入ると決めたあの日から、少しの時が経ち――生徒会選挙の立候補をする時期となった。


 俺が今回立候補する役職は庶務だ。理由だけど、現在三年生の生徒会役員は庶務しかいないからだ。後の枠は、現在二年生の先輩が続投するらしい。


 ちなみに立候補者数は、俺の他にも数人程いるそうだ。


「ハルが生徒会選挙に立候補するって話、凄い話題になってるね~! まあアタシが広めたんだけど!」

「だな。ただでさえ目立つポジションの人間だから、注目されるのも無理はない」

「で、でも……どうして急に立候補したんですか……?」

「確かに。ぶっちゃけハルって、そんなのに立候補するキャラに見えなかったんだけど?」

「そういえば、話してなかったか」


 人がいない校舎裏でソフィアとゆいの三人で弁当を食べながら、俺は立候補に至った事情を簡潔に説明した。


「あ~なるほど、そんな事情があったんだね~。まあ玲桜奈ちゃん先輩関連かなとは思ってたけど!」

「これ、秘密にしておいてくれよ。立候補の理由に私情が挟まってるのが広まると、さすがに選挙で不利になりそうだし」

「そ、そうかもしれないですけど……陽翔さんは……ちゃんとお仕事はするんですよね……?」

「当然、選ばれたからにはちゃんとするさ」


 俺なら学園のためになると期待してくれた、玲桜奈さんを裏切るような真似は絶対にしない。


 それに、選ばれたって事は、生徒の期待も背負うわけだし、なおさらしっかりやらないといけないって思う。


「そうそう。うちのクラスの人から話を聞いたんだけどさ。ハルの支援者はチラホラいるかな~ってくらい……」

「ゆいのクラスは……厳しそうです」

「だよなぁ。でも完全ゼロじゃない。ここから上げればいいんだ」

「そうだね! って言いたいんだけど……ちょっと気になった事があって」

「なんだ?」

「なんか今日さ、ハルと一緒にいると、なんか周りの視線が気になるんだよね~……見ると逸らしちゃうし」


 俺といると視線……か。そりゃ今年から入ってきた不純物が、急に生徒会選挙に立候補したら、見たくもなる気持ちはわからんでもない。


「それ……大丈夫なんでしょうか……?」

「歓迎はされないと思ってたから、それくらいの反応は想定内だよ。だから気にしない!」


 心配そうに俯くゆいを励ますために、俺は少し大げさに明るく振る舞ってみせた。


「うんうん! まだ負けたって決まったわけじゃないし、前向きに頑張ろう!」

「ゆ、ゆいも……お手伝いします」

「二人とも、ありがとう。頼りにさせてもらうよ」

「あらあら、涙ぐましい友情ですこと!」


 二人の優しさに喜んだのも束の間、聞きたくもない声のせいで、一瞬にして眉間にシワを寄せた俺が振り返ると、そこには天条院の姿があった。


「まったく、探しましたのよ? まさかこんな薄暗くてジメジメした所で食事してるとは思ってませんでしたわ。まあ、下級民族のあなた達にはお似合いの場所ですけど」

「どこで食べようと俺達の勝手だろ。ていうか、わざわざこんな所まで探しに来るとか、お偉いさんの孫娘は大層暇なんだな」

「相変わらずの減らず口ですわね……まあいいですわ。今日はあなたに朗報を届けに来てさしあげましたの。泣いて感謝なさい」


 朗報って……既に嫌な予感しかしないんだけど。性格が曲がりに曲がってる天条院が、俺達にとって良い話を持ってくるなんて考えられない。


「あなた、生徒会選挙に出馬するそうですわね。校内でも随分と噂されてますわ」

「それで?」

「実は、ワタクシも出馬いたしますの!」

「…………」


 出馬って……え、天条院も生徒会選挙に出るっていうのか!? 想定外すぎて驚きを隠せ――いや、こいつの性格なら、人の上に立てる生徒会に立候補してもおかしくないか。


「あなたが出馬するのは少々想定外でしたが、好都合ですわ。生徒会に入りながら、忌々しいあなたに復讐が出来るんですから」

「復讐だと?」

「ええ。ことあるごとにワタクシの邪魔をしてくるあなたが、忌々しくて仕方がなかったんですのよ」

「なに言ってんの! そっちが勝手に喧嘩を吹っかけて来て、勝手に負けて逆恨みしてるだけじゃん!」

「あなたこそ何を言ってるのかしら? 選ばれし人間のワタクシにたてつく事自体が、万死に値する事ですのよ」

「意味わかんないんだけど!」


 今にも噛みつきにいきそうなソフィアの肩を掴んで制止させる。


 怒りたくなる気持ちはよくわかるけど、ここで大事にしてもなにもメリットはない。むしろデメリットしかない。


「放してよ! こいつは絶対に許さないんだから!」

「その力は、俺の選挙を支える力に変えてくれ。そうすれば、その綺麗な手を痛めなくても、あいつに勝つ事はできる」


 俺の言葉に納得してくれたのか、強い力が入っていたソフィアの体から、ふっと力が抜けた。


「何を言うのも勝手ですけど、あなたに復讐をしながら生徒会に入り、ゆくゆくは学園を支配する権力者になるという計画の邪魔だけはしませんように。ではごきげんよう」


 ベラベラと喋って満足したのか、天条院は高笑いをしながら俺達の前から去っていった。


 あんな奴が生徒会に入ったら……いずれ汚い手を使って生徒会長にまでのし上がり、ワガママし放題になる未来しか見えない。


 そんなの……地獄絵図でしかない。天条院による独裁政治と言っても過言ではない。そんなふざけた学園は、誰も望まないだろう。もちろん玲桜奈さんも。


「ハル、あんな奴に絶対に生徒会に入らせちゃ駄目だよ! どうなるかわかったものじゃないよ!」

「俺も同感だ。元々負けるつもりはなかったけど、これでまた一つ負けられない理由が出来たな」

「が、頑張ってください……陽翔さん」

「ありがとう、ゆい」


 俺は学園をより良いものにするため、玲桜奈さんと一緒にいるため、そして天条院の独裁を防ぐために、負けるわけにはいかない。


 だけど……俺のクラスとゆいのクラスだけでもかなり絶望的な現状だというのに、このまま選挙になって勝てる見込みがあるのか……? ほとんどないだろこれ。


 このままじゃいけないのはわかってる。でも、一体どうすればいいのか……今の俺には、皆目見当もつかなかった。

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