第126話 可愛い愛娘
「一言で生徒会選挙って言われても……」
「まあ聞け。これに関しては利点は複数ある」
「お話中失礼します。お食事をお待ちしました」
「ありがとう。続きは食べながらしようか」
俺と玲桜奈さんは、運ばれてきた料理を前に座ると、今後についての会議を行いはじめた。
「一つ。お母様は昔、聖マリア学園の生徒会長を務めた事がある」
「お母さんが……!?」
「長い歴史のある聖マリア学園の生徒会に入るのは、かなりハードルが高い。それはお母様も重々承知だろう。しかも君の場合は、男性で周りの生徒から未だに警戒されているというハードルもある。これを乗り越えられれば、認めてもらえる可能性は高い」
乗り越えられればって……昔よりは陰口を叩かれなくはなったけど、それでもまだ玲桜奈さん達以外の生徒からは、避けられているようにしか思えない。
「二つ。さっきも言ったが、当選するために票を入れてもらうには、生徒達の信頼を得なければならない。そして、今の君の立場では信頼を得られない」
「…………」
「だが、何かしらの方法で信頼を大量に勝ち取れたら? それはお母様を説得する鍵となる」
そうか……こんなに不利な状態で生徒会に入れるなんて、よほどの有能者じゃないと難しい。だから、これをやり切れば……玲桜奈さんに相応しい男として認められるかもしれない!
「どうやら理解したようだな。以上二点……生徒会に入れた事、生徒達の高い信頼を得られた事。これだけあれば、お母様も認めてくれるだろう」
「確かにそうですね」
「とはいえ、生徒会に入って、お母様に認められて終わりというわけではない。その後、しっかりと学園をより良いものにするために、働く事は避けられない。君にその覚悟はあるか? もし無いようなら、この話は無かった事にする」
とても真剣な顔の玲桜奈さんに釣られて、俺は思わず背筋をピンと伸ばした。
そうだよな、今回の件のために生徒会に入ったら、みんなの迷惑になるのは明らかだ。
……元々俺が聖マリア学園に来たのは、共学化した学園のためでもある。生徒会に入る事で、学園がより良くなるというなら、目指す価値は十分にある。
それに……学園のために頑張る、カッコいい玲桜奈さんの力になりたいと、前からよく思っていた。
……よし。
「俺……生徒会に入ります。玲桜奈さんと一緒に、学園のために頑張ります! そして……玲桜奈さんのお母さんに認めてもらいます!」
嘘偽りのない、真っ直ぐな気持ちで玲桜奈さんを見ながら答えると、玲桜奈さんの表情が柔らかくなった。
「君ならそう言うと思っていた。一緒に学園のため……そして私達の未来のために頑張ろう」
「はいっ!」
「……それとこれは余談だが……今回の件がなかったとしても、私は君に立候補の話自体はするつもりだったんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。元々真面目だし、男目線の意見は、これから更に変わっていく学園のために、有益になると思ってな。それに、その……」
いつも通り凛々しい顔だった玲桜奈さんが、急に頬をほんのりと赤く染めながら、モジモジし始めた。可愛い。
「……少しでも一緒にいられる時間が……増えるだろう……?」
「…………」
「いやわかってる! 生徒会の長がそんな事を思うなんて間違ってるのは! でも……せっかく付き合えたのに会えないのは……寂しい」
耐えろ俺……ここは玲桜奈さんの家だ! この圧倒的可愛さに屈服して手を出したら……それこそどうなるかわかったものじゃない!
でも……でも! これを耐えろって方が無理だろ! いつもカッコいい人がモジモジしながら、自分の可愛いワガママを漏らしてるんだぞ! 可愛いの極みか!?
「うぅ……西園寺家の令嬢である私が……なんて情けない事を……いっそ誰か殺してくれ……」
「いやいや! 俺、めっちゃ嬉しかったですよ! 俺も玲桜奈さんと付き合ってから、会えない時間は凄くつらかったですし!」
「そ、そうか。陽翔と同じ気持ち……か。なんだか嬉しいな」
互いに照れて顔が赤くなりつつも、嬉しくなって笑ってしまった。
そんな中、俺達の良い雰囲気を邪魔するように、部屋の中にノック音が響いてきた。
「玲桜奈、私だ」
「え……お父様? どうぞ」
「ああ、邪魔するよ」
ドアが開くと、そこには玲桜奈さんのお父さんが立っていた。なんか以前会った時よりも、少し元気がないように見える。
「久しぶりだな。元気だったかね?」
「はい、おかげさまで」
「どうかされたんですか? お仕事は大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫だ。久しぶりに彼に会いたかったのと、二人に謝罪をしたくてな」
そう言ってから、お父さんは俺達に向かって頭を下げた。
あの西園寺グループの代表が、目の前で頭を下げてるなんて……信じられない光景だ。
「玲桜奈達が付き合い始めたと聞いて、つい浮かれて妻に報告してしまった。男嫌いな妻でも、玲桜奈が連れてきた相手なら祝福すると思ったんだが……まさか急に帰国したうえに、こんな事になるとは」
「起きてしまった事は仕方ないですよ、お父様」
「そうですよ!」
「ありがとう、そう言ってもらえると助かる。ところで、娘とはどこまでいったのかね?」
ど、どこまでって……一応キスまでは……って、そんなの素直に言えるわけないだろ! 恥ずかしいのもあるけど、変な事を言った結果、狼男には娘は絶対にやらん! ってなったら終わりだぞ!
「お父様、それは私と陽翔の間の秘密ですので」
「それは残念だ。玲桜奈が彼を下の名で呼ぶくらいに親しくなったのはわかったから、それで手を打とう」
楽しそうに笑うお父さんだったが、急に笑い声を収めると、真面目な面持ちで俺の前に立った。威圧感が凄い……。
「正直な話、私も妻と考えは似ていてな。そこらの馬の骨に、大事な大事な娘は絶対にやらんと思っている。だが、君のような誠実な若者になら、娘を託しても良いと思っている」
「…………」
「私を納得させたように、妻も納得させて……是非二人で末永く幸せになってほしい。それが私の願いだ」
玲桜奈さんから聞いていたとはいえ、改めて本人から聞かされると……胸に来るものがあるな。
「お父様! 以前もお話しましたが、気が早すぎます!」
「めでたい事に早いも遅いもあるものか。少しでも早く幸せになってほしいと思う事の何が悪い?」
「わ、悪くは無いですが……気恥ずかしいといいますか……あうぅ……!」
「どうだ、私の娘は可愛らしいだろう? こんな女性と共にいられる君は、大層幸せ者だな! なんて、少々親バカすぎるかね? はっはっはっ!」
少々って言うか……両親揃ってかなりの親バカだと思うんだよな……。結局のところ、両親の根底にあるのは、玲桜奈さんに幸せになってほしいって気持ちだし。
え、前の退学騒動の時は、玲桜奈さんの事を考えてなかったって?
まあそうかもしれないけど……あれに関しては、かなり唐突の事だったっぽいしなぁ……最終的には玲桜奈さんの意思を尊重したし、それでチャラって事で。
「俺は玲桜奈さんと別れたくありませんし、一緒に幸せになりたいと思ってます。だから……なんとかしてみせます。ですよね玲桜奈さ――え!?」
同意を求めようとして玲桜奈さんの方に視線を向けると、そこでは玲桜奈さんが頭から煙を出して倒れるところだった。
その後、玲桜奈さんが急に倒れた、なにかの病気かもしれないと、ちょっとした騒ぎになったのはここだけの話――
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