第123話 恐怖のお化け屋敷 VS 玲桜奈

「なになに……心霊スポットとして有名な廃病院を参考にして作られた、最恐のアトラクション……」


 入り口にあった説明文を見る限り、見た目以上にかなり怖そうな感じがする。俺はこういうのは得意でも苦手でもないんだけど……。


「ほ、ほう! こ、ここ、ここまで豪語するのだから、余程の自信があるのだな! が、俄然興味が湧いてきたぞ!」


 勇ましい事を言っている西園寺先輩だが、ブルブル震えているし、脂汗が凄い事になっている。


 そういえば、夏休みの旅行で停電になった時、暗い所はかなり苦手そうな感じだったもんな。サルをオバケと勘違いした時も、かなり怯えていたし。


「怖いのに無理に入る必要はないですよ?」

「こ、怖いだと!? 私は西園寺家の令嬢で、聖マリア学園の生徒会長だぞ! それに私は君よりも年上だ! だから、お化け屋敷くらい……よ、余裕だ!」


 すげぇ、ここまで説得力がないと、もはや芸術のレベルに達してるな。


 どうするかな……ここで適当に理由をつけて避ける事は出来ると思うけど……変に避けて西園寺先輩のプライドを傷つけるのもアレだし……。


「ほら行くぞ! 私に続け!」

「わ、わかりましたから引っ張らないでください!」


 半ばやけくそ気味に俺を引っ張る西園寺先輩と共に、アトラクションの中に入る。


 外装もかなり凝ってたけど、中は更に凝ってるな……雰囲気とかボロボロの小物とか、本当に廃病院って感じがする。


「うぅ……い、磯山君……絶対に離れては駄目だからな……私を一人にしないでくれ……!」

「勿論です! 一緒にゴールまで行きましょう!」


 既に声を震わせる西園寺先輩は、俺に腕に強くしがみついていた。かなり力が強いせいで痛いし、メッチャおっぱいが押し当てられているけど、これで西園寺先輩が少しでも安心できるなら安いものだ。


「ここは病室か……ボロボロでかなり雰囲気出てるな……」

「か、感心してないで、早く先に行くぞ……っ!? な、なにか動いた!」

「動いたって、何がですか?」

「い、一番奥のベッド……!」


 西園寺先輩が言った矢先、確かにベッドがガタガタと動き始めた。それに追従するように、他のベッドも動き出した。


「揺れるだけで結構怖いな……ここは行き止まりのようですし、戻って先に進みましょう。大丈夫、俺がいますから」

「あ、ああ……」


 既に泣きべそをかいている西園寺先輩を励ましながら来た道を戻ろうとすると、そこには血まみれの男の人が立っていた。


「オ……オオ……」

「うわっ!? いつのまに!?」


 うめき声を上げる男の人の突然の登場には、さすがに驚いた。めっちゃクオリティ高いな!? 腐敗してる肌とか、腹から出てる臓器とかリアルすぎる!


「ひぃぃぃぃ!? うわぁぁぁぁん怖いよおぉぉぉぉ!!」

「しっかりしてください! 走り抜けますよ!」


 完全に怯え切ってしまった西園寺先輩を守るように盾になりながら、俺は男の人の横を通って病室を脱出した。


 お、追いかけて来ないな……どうやら病室から出ないようになってるみたいだな。アトラクションだから襲ってこないのはわかってても、普通に怖い……。


「なんとか逃げ切れたみたいだ……大丈夫ですか?」

「うぅ……大丈夫じゃない……」

「なんとか出口まで頑張りましょう。大丈夫、これは作り物ですから」

「そ、そうだな……頼りにしてるぞ……」


 少しだけ元気になった西園寺先輩と共に先に進んでいく。所々でおばけ役のスタッフに驚かされたり、大きな音で驚きつつも、なんとか奥まで進んでこれた。


「更衣室……ですかね? ロッカーが沢山だ」

「そのようだな……何もないならさっさと抜けてしまおう!」

「ですね――え?」


 俺達が入ってきたのをきっかけするように、全てのロッカーがガタガタと動き始め……中から色んなゾンビが出現した。


 お、おいおい気合入れすぎだろ!? 普段からこんなに気合入れてるのか、このアトラクション!?


「西園寺先輩、囲まれる前に抜けちゃいましょう! 西園寺先輩?」

「あ……あぁ……!!」

「はっ……!?」


 震える西園寺先輩と走りだそうとした瞬間、俺の体がフワッと浮くような感覚に襲われた。そして……次の瞬間には、俺は西園寺先輩に引っ張られ、宙を漂う布のような体勢でその部屋を後にした。


 ちょちょちょちょ……西園寺先輩!? そんなに引っ張ったら腕が取れる! ていうか色々とヤバいですから! 主に生命活動的な意味でー!!



 ****



「ぐすっ……も、もう二度とお化け屋敷なんて行かない……」


 あれからお化け屋敷の中を西園寺先輩に引っ張られて抜け出した俺達は、夕焼けに照らされ始めた、近くのベンチに座って休憩していた。


 な、なんて怖いアトラクションだ……いや、お化け屋敷も怖かったんだけど、俺にとって最恐のアトラクションは、西園寺先輩に引っ張り回される事だった……。


 はぁ……こんなに怯え切っちゃってるし、次にもし遊園地に来た時は、西園寺先輩とお化け屋敷に入るのはやめよう。


「次はもっと楽しい所に行きましょうか……そうじゃないと俺の体がもたない……」

「そうだな……ならメリーゴーランドに乗らないか? その後に観覧車!」

「いいですね。時間的にも観覧車はちょうどいいですし。行きましょうか」


 俺は西園寺先輩と手を繋いでメリーゴーランドに向かうと、互いに馬の乗り物に乗る……はずだったのだが、俺は西園寺先輩に連れられて、大きな白い木馬に乗せられた。


「これなら二人で乗れるだろう?」

「それもそうですね」


 西園寺先輩を背中から包み込むような形で座った俺は、落っこちないように、西園寺先輩の体を抱きしめた。


「ひゃわあ!? きゅ、急にハレンチな事をするな!」

「違います! 落ちないように支えようと……!」

「そ、そうだったのか……ならしっかり頼むぞ」


 西園寺先輩から了承を貰った俺は、腕にもう少しだけ力を入れてみる。すると、西園寺先輩の綺麗な手が、俺の手に重なってきた。


『では動き出します~しっかりおつかまりください~』


 係員の人の言葉通り、ゆっくりとウマやブタといった動物の置物が動き出す。周りの景色も変わって、これは楽しいな。


「君の前で馬に乗っていると、本当に王女になれたような気分だな!」


 王女……か。ちょっとクサい事でも言ってみようかな?


「なれたようじゃなくて、なるんですよ。これから俺の王女に」

「…………」


 あ、あれ? これ完全にすべった……やっちまったぁぁぁぁ!!!


「すみません今のは聞かなかった事に……」

「なぜだ? ストレートな愛の言葉で、私はときめいてしまったぞ。さすが磯山君だな!」


 あれ、好感触だ……半分ギャグでやったんだけど……いやいや、俺の気持ちに違いはないんだし! これでよしっ!


「楽しいな、磯山君! やはり遊園地はこうでなくては!」

「お化け屋敷も遊園地ですよ?」

「あれは巧妙なトラップだ! あんなのはもういい。私はのんびりとした、可愛いアトラクションに乗る!!」


 よほどトラウマになったんだなと苦笑しつつ、いつの間にか終わっていたメリーゴーランドから降りた。


「今思うと、俺達昼飯も食べずに遊び倒してたんですね」

「言われてみればそうだな。ふふ、これは今日の晩御飯がたのしみだ。だが、その前にもう一つ楽しみがあるぞ」

「ええ、そうでしたね」


 今日のアトラクションのオオトリ……それは、この遊園地どころか、辺り一面を見渡せる、超巨大観覧車が待ってるのだから。

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