第108話 息抜きのプールデート
ゆいの両親が家にやって来てから一カ月が経ち、七月になった。夏も本番になりつつあり、毎日暑くてしんどくなってきた。
あれから警察に事情を話したりしてバタバタしていたけど、とりあえずは平和に過ごせている。
平和に過ごせているとはいえ、ゆいはあまり元気はない。両親の事に加えて、ゆいの漫画があまり読者から支持されず、連載にならなかったからだ。
どうすればゆいを元気付けられるだろうか。一緒にいてあげるのは当然として……他にしてあげられる事は何かないか。
そんな事を考えながら、自室のベッドの上で頭を悩ませていると、ソフィアが笑顔でやってきた。
「ハール! 良いもの持ってきたよ!」
「良いもの?」
「じゃーん! 最近オープンした、室内プールのレジャー施設の割引チケット!」
ソフィアの手の中には、二枚のチケットが握られていた。プールで遊んでいる子供のイラストが描かれている。
「これ、ゆいちゃんと行ってきなよ!」
「え?」
「だってゆいちゃん、最近ずっと元気ないでしょ? だから、パーッとデートをして英気を養った方が良いかなって!」
そっか、ソフィアは俺達の事を思ってこのチケットを……ソフィアは本当に優しい子だな。
「……そうだな、ありがとうソフィア」
「どういたしまして! あ、今回のお礼は今度一緒にここに行ってくれる事で手を打つから! だから、ちゃんと楽しんで視察してきてね!」
「ソフィア……ああ、任せておけ!」
あきらかに気を使っているソフィアに感謝をしながら、俺はスマホを取ってゆいに連絡を取り始めた。
うーん、出るかな……あ、出たな。
『もしもし……』
「ゆい、今ちょっといいか?」
『は、はい。どうかしましたか……?』
「ソフィアから、室内プールのチケット貰ったんだ。よかったら二人で行かないか?」
『え? でも……』
「ほら、最近ゆいの元気が無かっただろ? それにずっと漫画に集中してたし、気晴らしにさ。それにほら、漫画でプールに行くのってよくあるだろ?」
『…………』
帰ってきたのは沈黙。やっぱり気分が乗らないかな……これが駄目なら、また別の事を考えないといけないな。
『いきます。せっかくのデートですし……』
「ありがとう。日にちは……次の土曜でいいか?」
『わかりました。楽しみにしてますね』
「ああ、俺も楽しみだよ。それじゃおやすみ、ゆい」
『おやすみなさい、陽翔さん』
通話を終了すれば、当然ゆいの声は聞こえなくなる。それだけで、俺の胸の中には寂しさで溢れかえっていた。
「電話終わった?」
「ああ。ソフィアのおかげで何とかなりそうだ」
「えっへん! それじゃ、お礼を貰っちゃおっかなー!」
「ぎゃー!」
お礼って? と聞く前に、ソフィアに久しぶりに思い切り抱き着かれた。そして、相変わらずおっぱいの海に沈められてしまった。
ああ、この甘ったるい匂いに感触、忘れてたなぁ……じゃなくてだな!
「苦しいから! 死んじゃうから!」
「久しぶりだったから、嬉しくてつい!」
「一応彼女持ちなんだから、自重してくれよ!」
「うん。でもアタシも玲桜奈ちゃん先輩も、ハルの事を諦めたつもりはないから。だから、隙があったら食べちゃうぞ~♪」
本気なのか、からかってるだけなのか。俺にはよくわからないけど、付き合った後も、こうして軽口を言い合える仲が続いているのは、俺にとって大変喜ばしい事だ。
****
ゆいと約束をした日、俺達は何事もなく目的地のプールへとやってきた。オープンしてあまり日が経っていないからか、多くの客で賑わっている。
「ゆいはまだ来てないか」
前の海の時もそうだったし、やっぱり女子は準備に時間がかかるんだろう。今のうちにマップを見ておいて、どこに行くか決めておくか。
「波のプールに流れるプール……ウォータースライダーもあるのか。飛び込み台……さすがにこれはゆいはやらないか……」
「あの……お、お待たせしました……」
「いや、そんなに待って……な……」
振り返ると、そこには少し恥ずかしそうに顔を赤らめるゆいが立っていた。
前回の海ではワンピースタイプの水着を着ていたが、今回は結構際どいビキニ、下はフリフリがついてる短いスカートタイプだ。
なにこれ、破壊力えっぐ! 谷間とか凄いし、少し動いたら零れ落ちちゃうんじゃないか? ていうか、ゆいがこんな水着を選ぶとは思えないんだけど!?
「あ、あの……変ですか……?」
「変じゃない! 似合ってる! で、でもいつのまに用意してたんだ?」
「えっと……ビックリさせるために、こっそり買ったんです。ソフィアちゃんがアドバイスをしてくれて……」
今回のチケットだけじゃなくて、水着の件にもソフィアが絡んでたのか! 確かにソフィアの意見を取り入れたって聞くと、このチョイスも納得できる!
ソフィア、グッジョブ――ごほん、なんでもないぞ。
ゆいの可愛さに加えて、この格好で放置したら、即座に誰かに連れていかれそうだし、ちゃんとついていないとな。
「えへへ……大成功です。周りの視線が痛いですけど……」
「あんまり無理しなくていいからな?」
「いえ、今日はデートなんですから……楽しみたいです」
「そうか。じゃあたくさん遊ぼう! どこから行きたい?」
「えっと……波のプールに行ってみたいです」
「よし、決まりだな。っと……その前にちゃんと準備運動をしないとな」
「ですね」
俺はゆいと一緒に準備運動……をする前に、俺はゆいの手を取って隅っこに行くと、ゆいがなるべく見えないように前に立った。
こんな格好で準備運動なんてしたら……それこそ周りの男達がこぞって見てくるだろう。そんなの俺が許さない。
「陽翔さん、なんでこんな隅っこに来たんですか……?」
「道の真ん中で準備運動をしたら、通行の邪魔になるだろ?」
「た、確かに……ゆい、楽しみすぎて……頭から抜けてました。さすが陽翔さんです……!」
「お、おう。ありがとう」
上目遣いで目をキラキラと輝かせるゆい。身を乗り出しているから、胸の谷間が余計に凄い事になってる。
なんていうか……あ、あんまり魅力的な姿を見せないでほしいんだよな……我慢するのも大変なんだぞ……?
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