第93話 助けに来たのはゴリラ?

■ソフィア視点■


 車を無理やり降ろされたアタシは、海の近くにある倉庫へと連れ込まれた。縄で大きな柱に縛り付けられてしまったせいで、身動きが取れない。


「ねえカレンさん、勝手にこんな倉庫に入って大丈夫?」

「ええ。ここは天条院家が所有する倉庫ですから問題ありませんわ」

「そっかー! 海の近くの倉庫なんて初めてでワクワクしちゃう! それじゃ一緒に遊ぼう!」

「ひっ……!?」


 今すぐにでも逃げたくて体に力を入れてみるけど、縛られるせいで逃げられない。それでも諦めずに暴れ続けると、それが面白いのか、ディアはケラケラ笑っていた。


「あはは! そんなに遊べるのが面白いの? それじゃご希望通り遊ぼっか!」

「それなら、童心に帰っておままごととかどうかしら? ワタクシ、やりたいおままごとがありますの」

「おー、その発想はなかった! ちなみにやりたいのって?」

「貴族のおままごとですわ。ワタクシが貴族で、ウィリアムさんがワタクシの婚約者である王子様。小鳥遊 ソフィアが奴隷役ですわ」

「面白い配役だね! さんせー!」


 嬉しそうに飛び跳ねるディアは、アタシの前に立ってにっこりと笑った。


 この笑顔……アメリカにいる時に何度も見せられて、その後は酷い目に遭わされた。今でも思い出すと体が震えるし、何度夢に見たか。ハルと一緒に寝るようになってから夢で見なくなったっていうのに……!


「それじゃあ……このゴミが! ワタクシに散々逆らって! 本当に目障りでしたのよ!」

「きゃあ!?」


 おままごとを始めた天条院は、アタシのほっぺたを思い切りビンタした。乾いた音と共に、アタシのほっぺたがヒリヒリと痛んだ。


「えーっと、それじゃ……この奴隷め! この王子の妻になるカレンに逆らうなど、どういう事だ!」

「かはっ……」


 ディアは遠慮なしに、アタシのお腹を蹴り飛ばしてきた。その衝撃で、アタシの意識が一瞬飛びかけた。


「良いザマですわね! 少しスカッとしましたわ! でもまだ足りない……今までの非礼を詫びて、ワタクシに二度と逆らわない事と忠誠を誓いなさい!」

「……っ!」


 そっか、どうしてさっきから天条院がディアに協力してるのか疑問だったけど、今はっきりしたよ。こいつ……アタシに仕返しするために、ディアと協力してるんだ。


「カレンの言う事を聞かない奴隷には、相応のオシオキをしないとな! ほら、これを食べるんだ!」

「い、石……!? そんなの食べられないよ!」

「王子に逆らうのか! 生意気な奴隷め!」

「そこまでよぉ!」


 このままじゃ好きにされてボロボロにされると思った矢先、倉庫の扉が開いた音と共に、一人の声が響いてきた。


 もしかして、ハルが助けに来てくれた!? でも、ハルにしては声が高いような……? って、金剛先輩!?


「ぜぇ……はぁ……小鳥遊ちゃん、無事かしらぁん!?」

「え、なにこのゴリラ女?」


 ご、ゴリラ女って……流石に酷いと思うよ? 確かに金剛先輩は身長が凄く大きいし筋肉も凄い。それに、疲れてるのか、顔も凄い事になってるし……。


「生徒会の副会長である金剛 イサミですわ。あなた、どうやってここに?」

「そ、そんなの……げほっ……小鳥遊ちゃんが拐われたのを目撃してぇ……で走って追いかけてのよぉ!」


 え、走ってきた!? えっと、アタシが車に乗せられてかは、そこそこ走ったっていうのに、それをずっと追いかけてきたの!? 凄すぎるよ!


「車相手に走って追いついた!? 体も頭の中もゴリラすぎて凄いわ! 私感動しちゃった!」

「見た目通りのゴリラですし、それくらいはやりそうと思えてしまうのが恐ろしいですわね……」

「ねえねえ! あの人もぜひフレンドにしたいなー! カレンさん、彼女も捕まえて親睦を深めよう!」

「……まあいいでしょう。あのゴリラも目障りでしたし。あなた達、彼女を歓迎してあげなさい」


 天条院の言葉に従うように、天条院を守っていた黒スーツにサングラスをかけた男の人達が、金剛先輩の前に立った。


 金剛先輩が逞しい見た目といっても、男女の差はありそうだし、数も差がある。いくらなんでも厳しすぎるよ! って……あっ! 入口から三人入ってきて、また人数が増えちゃったよ!?


「ふぅん? 乙女を相手に数で押しつぶそうだなんて、それでも人の上に立つ人間のすることかしらぁ?」

「あら、わかってませんわね。人の上に立つ者は、卑怯な手を使ってでも勝利を掴むものですわ」

「馬鹿ねぇ。その傲慢な態度を直さない限り、いくら権力を使い、コマを手に入れて従わせても、アンタには一生人の上に立つのは無理よぉ」

「っ……! その生意気な口、今すぐに開けなくしてやりますわ!」

「お~かっこいい~! なんか映画みたいになってきたよ! やっちゃえ~!」



 ****



 金剛先輩からソフィアの居場所を聞いた俺は、西園寺先輩と共に車に乗って指定された場所へと向かっていた。


 他の生徒会の人とゆいに関しては、荒事に慣れていないため、今回は来ないようにお願いしている。特にゆいは絶対に行かせるわけにはいかない。


「ソフィア……無事でいてくれ……」

「大丈夫さ。なんせあのイサミが行ってるんだ。イサミの腕っぷしは見た目以上に凄いぞ。なにせ持ち前の能力だけで、武術を嗜んでる私と互角以上に戦えるからな」

「は、はあ……」


 なんか色々とツッコみたいんだけど。主に戦った事があるのかとか、あの見た目の金剛先輩といい勝負が出来る西園寺先輩の強さにとか。


 でも、そんな呑気な話は後ですればいいよな。今は早くソフィアと金剛先輩の所に行かないと。


「とはいえ、天条院もそれ相応の護衛を用意していてもおかしくはない。急いでくれ」

「かしこまりました」


 初老の使用人が頷くと、一気に車の速度が上がった。これ、流石に速度を出し過ぎじゃないか!? もし警察に見つかったらどうするんだよ!


「西園寺先輩、こんな速度を出して大丈夫なんですか!?」

「大丈夫ではないな。だが事は一刻を争うから仕方がない」

「そ、そういう問題!? って、なんか音が聞こえますけど!」

「私のスマホだ。もしもし」

『あ、ゆいです! 丁度今、生徒会の人が玲桜奈ちゃん先輩の指示通りに、連絡が終わったみたいです……!』

「わかった。ありがとう」


 西園寺先輩の指示とは、ざっくり言うと警察への通報だ。今回の事件は、普通に誘拐になるんだから、警察へ通報するのは当たり前だろう。


 ……いやまあ、当たり前なんだけど……今まで学園の事を考えて手を出せなかった割に、今回はめっちゃ早いのが気になる。よっぽど今回で天条院を追い詰めたいんだろうか?


 なんにせよ、どっちが勝つにしても、天条院との決着はつきそうだ。


「もう間も無く到着いたします。お二人とも、ご無事をお祈りしております」


 使用人の言葉から間も無く、俺達は目的地である、海の近くの倉庫に到着した。辺りに同じような高級車がある辺り、ここで間違いなさそうだ。


「磯山君。以前のゆいさんの時もそうだったが、天条院は荒事に備えるために、犯罪者を使う事もある。前回乗り越えたからといって、油断だけはしないように」

「はい、もちろんです。それと……こんな事に巻き込んでしまって申し訳ないです」

「なにを言っている。私としては、ようやく助けてもらった恩が返せて嬉しいくらいだからな」


 ふっと笑う西園寺先輩を見ていたら、少しだけ緊張がほぐれた。西園寺先輩には感謝だな。


「それじゃ……いくぞ」

「はい」


 タイミングを合わせて一緒に倉庫の中に入ると、そこには倒された黒スーツの男達がそこら中に転がる中、ソフィアとボロボロの金剛先輩が拘束されていた……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る