第79話 疲れたハルを癒してあげよう!

「寝れねえな……」


 消灯してからしばらく経ったというのに、俺の目は最高に冴えまくっていた。


 それもそうだろう。俺の近くには、推しの巨乳美少女全員が寝ているんだ。こんなの落ち着いて寝れるはずもない。


 しかも……。


「ひっ……」


 雷鳴が鳴ると、俺の隣で西園寺先輩が小さく悲鳴を上げるから、心配でおちおち寝ていられない。


「い、磯山君……まだ起きてるか……?」

「はい」

「その……」


 何か言いたそうに口ごもる西園寺先輩は、俺の方に静かに手を伸ばしてきた。


 ……これって、多分そういう事だよな。


「これでいいですか?」

「ああ……すまない……」


 西園寺先輩の手を優しく握ってあげると、西園寺先輩の声から少しだけ緊張が取れた。


 これで俺が寝れる可能性がさらに減ったけど、西園寺先輩が安心して寝れるようになるなら、俺の睡眠時間くらい安いものだ。


「……すー……」

「寝てくれたか。ソフィアとゆいは寝たかな……」

「……ぐぅ……」

「むにゃ……もう食べられません……えへへ……」


 ソフィアの寝息と、ゆいの寝言が聞こえる。どうやら二人も寝てくれたみたいだな。


 さて、俺はどうしたものか。これではこっそり抜けだす事もできなさそうだし……。


「はぁ……」


 ボーっと天井を眺めながら、小さく溜息を漏らした。


 考えている事は、もちろん三人の事だ。事故とはいえ、三人の気持ちを明確に聞いてしまった以上、早く俺の中で答えを出さないといけない。


 ソフィア。ゆい。西園寺先輩。俺は……一体誰が一番好きなんだろう。どうせ今日は寝れないだろうし、寝落ちするまでゆっくり考えよう――



 ****



 翌日、あんなに荒れていた天気が嘘のように晴れた空の下で、俺達は今日も海に赴いて遊んでいた。


 三人は楽しそうに浜辺でビーチボールをして遊んでる中、俺は全く寝ていないせいで遊ぶ元気がないから、パラソルの下でのんびりしている。


 寝不足でしんどいけど、代わりにゆっくり考える事は出来た。まだ答えは出ていないけどさ……。


 それにしても凄いな。ピーチボールに負けないくらいのボールがバインバオン跳ねてるぞ。ここが俺達以外いなくて、心の底から良かったと思う。


「はー……」


 三人共本当に綺麗で可愛いし、なにより良い子で……本当に俺には勿体ないな……あ、ソフィアがこっちに向かって手を振っている。俺も振り返しておこう。


「ハルも遊ぼうよ~!」

「遊びたいけど、体力がない」

「昨日ちゃんと寝ないからだよ?」

「誰のせいだと思ってるんだ……」


 実はあの後、ソフィアが俺の布団に侵入してきて、いつものようにくっついて寝てきたんだ。せっかくウトウトしてたのに完全に目が覚めたし、朝は西園寺先輩にこっぴどく叱られるしで散々だ。


「全く、君達は普段からそんな乱れた生活を送っているのか?」

「好きでしてませんよ!」

「ハルってば~照れ屋さんなんだから~」

「その鋼メンタル、たまに怖くなるぞ……」


 何度怒られてもへこたれずに自分を貫き通すのは、中々できるものじゃない。とはいえ、そのメンタルの強さの活かし方を、やや間違えてる気がするけどな。


「あ、あんまり無理はしない方が良いですよ……」

「ありがとう。ゆいは優しいな」

「優しいだなんて……そんな……えへへ……」

「そういうわけだから、俺の事は気にしないで楽しんでくれ」

「ん~……ハルもいないと楽しめないよ! 二人もそう思うよね?」


 ソフィアの問いに、ゆいと西園寺先輩は小さく頷いた。そんな優しくされたら泣いちゃうぞ俺。


「よーっし、それじゃ三人で寝不足で疲れてるハルを癒してあげよう!」

「そんな話したか!?」

「細かいことは気にしない気にしない! それじゃまずはアタシからね!」


 強引に事を運んだソフィアは、俺をその場で仰向けに寝転がすと、自分の膝に俺の頭を乗せてきた。


 膝枕自体はしてもらった事はあるが……服がないだけで、太ももの柔らかさが数段上がってるし、何より下から見上げるおっぱいがとんでもない。


 この光景はヤバすぎる。無になれ俺……そうじゃないと、大変な事になる可能性がある! そう、俺は木……何の感情も持たない木……!


「ソフィアさん! ハレンチな事は駄目だと何度言わせるんだ!」

「ハレンチじゃないですよ~普通ですよ~」

「とにかく離れるんだ!」

「ぶ~!」


 西園寺先輩に怒られて、渋々離れるソフィア。な、なんとか助かった……。全く、俺の事を考えてくれるのは嬉しいけど、限度を考えてほしい。


「あ、その……ゆいは……そうだ! 陽翔さん……いいこいいこ、が……頑張ってますね~」

「……い、癒される……」


 さっきの過激なソフィアとは打って変わって、とても平和に頭を撫でるゆい。そうだよ、癒しとはこういう事を言うんだよ……!


「なるほど、いいこいいこをすればいいだね! ハル~いいこだね~!」

「もがっ……!?」


 パンっと手を叩いてから、ソフィアは俺に抱きついてから頭をワシャワシャと撫で始めた。


「こ、これは癒されな……く、くるし……!」

「え~!? ゆいちゃんは良くて、アタシのじゃ駄目なの!?」

「そ、その……抱きつきながらしてるからじゃないでしょうか……? ゆいも経験あるからわかるんですが……苦しいんですよ……?」


 ゆいもいつも抱きつかれて、あの超豊満な巨乳で溺れかけてるもんな……気持ちはよくわかる。あれ、見てる側はいいかもしれないけど、やられる側は割ときついんだぞ?


「ぜー……ぜー……助かった……」

「最後は私か」

「あー、その。昨日のマッサージ以外でお願いします」


 寝不足で披露しているうえに、今の酸欠の状態で……昨日のあの地獄のマッサージなんてされたら、それこそ二度目の昇天をしてしまうぞ!


「なんだ、そんなにあれは嫌だったか?」

「玲桜奈ちゃん先輩! 日本じゃ嫌よ嫌よも好きのうちって言いますよ!」

「ソフィア!? ちょ、おまっ!」

「ごめんねハル。でも昨日の見てたら、すっごい効きそうな感じがしたから……アタシは心を鬼にするよ」


 いや、絶対に俺が嫌がった事で少し不機嫌になってるよな!? なんか不服そうな顔でそっぽ向いてるし! これ、俺が悪いの!?


「よし、それじゃ早速始めようか」

「いやぁぁぁぁ! やめてぇぇぇぇ!! いでぇぇぇぇ!?!?」



 ****



「はぁ……」


 昼間に散々な目に合った俺は、海を一望できる高台へとやって来ていた。その手には、スマホが力強く握られている。


 ずっと考えに考えた結果、俺は誰が好きなのかの結論が出た。だから、ここに呼び出して告白をする。


「き、緊張する……あっ」


 夜の海を眺めて緊張を紛らわせていると、背後から足音が聞こえてきた。その主を確認するために、俺は急いで振り返る。


 そこに立っていた人物は――




――――――――――――――――――――

【あとがき】


 私の作品を手に取ってくださり、誠にありがとうございます。ここで第四章はおしまいです。次回から個別章が始まります。


 今回はかなり短く、そしてただいちゃついていた章でした。二、三章であまりできなかったので、こっちでたくさんやらせていただきました。


 さて、一体選ばれたのは誰でしょうか? それは次回の章からのお楽しみです。


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