第78話 おばけの正体
「ウキッ?」
「「「「…………」」」」
恐る恐る確認すると、そこにいたのはおばけでも何でもなく……ただの猿だった。この島に生息してる一匹が、建物の中に迷い込んだのだろう。
全く、人騒がせな猿だ……心臓に悪すぎる!
「お、お猿さんでしたか……」
「や、やはりおばけなどこの世にはいないという事だ!」
「変なのじゃなくて安心した~。お猿さん、驚かせちゃメッ! だよ?」
「ウキャキャ」
全く、わかってるんだかわかってないんだか……なんにせよ、今はブレーカーを上げて電気を復旧させよう。
「よっと……」
「わ~あかる~い!」
「これで一安心ですね……」
「ああ……今ほど明かりをありがたく思った事は無いぞ……!」
再び明るくなった室内に、俺達は思わず安堵の息を漏らした。いつもは当たり前と思っている電気だけど、少しの間でも無くなると、そのありがたさが身に染みてわかる。
「それで、このお猿さんはどうしよっか?」
「追い出すのは……可哀想です。外は土砂降りですし……」
「お、恐らくイタズラはしないだろうし……中に入れておいてもいいだろう。ただ、一応荷物とか漁られないように気を付けた方がいい」
「ですね。お前、大人しくしてるんだぞ」
「キー!」
これまたわかってるのかわかってないのかは定かではないが、元気よく返事をした猿を残して、俺達は再びリビングへと戻ってきた。
さて、これからどうするか。さすがにトランプって雰囲気じゃなくなっちゃったし……ていうか、西園寺先輩がこんな怯えてる状態じゃ、呑気に遊ぶのは無理がある。
それに、もう時間は二十三時を回ってるし、明日の事を考えるとそろそろ休んだ方が良さそう……なんだが、西園寺先輩がこんな状態で寝れるんだろうか?
「アタシ、一つ提案があるんだけど!」
「なんだ?」
「もういい時間だし、リビングにお布団を持って来て、みんなで一緒に寝ない? ほら、修学旅行みたいに!」
「みんなで……楽しそうですね」
「わ、私としては一人よりも、誰かといる方が心細くないから……その方が助かる」
俺の考えていた事への回答と言わんばかりの提案に、俺は思わずソフィアに感心してしまった。それなら楽しそうだし、西園寺先輩が一人ぼっちになる心配もない。
「それじゃそうするか。布団は三組あればいいよな」
「え、四組でしょ? あ、そっか! ハルはアタシと一緒に寝るもんね!」
「寝ないわ! そもそも俺は自分の部屋で寝るから!」
「えー!?」
えーじゃないから! ソフィアと一緒に過ごしてるせいで、感覚が麻痺しそうになってるけど、普通は年頃の男女が、同じ部屋で寝るなんてありえないから!
「ゆいは……ちょっぴり怖いので、陽翔さんが一緒の方が……安心できます」
「ゆい!?」
「私も……怖いから、男が一緒の方がいざという時に頼りになるとは思う」
「西園寺先輩まで!?」
「だが! 寝てる時に変な事をしたら、承知しないからな!」
そんな顔を真っ赤にしながら釘を刺すくらいなら、最初から俺がいない方が良いと思うのは、きっと俺だけじゃないはず。
でも、この状態で俺が反発しても無駄そうだし、俺がいる事で安心できるなら……そうした方が良い……のか? 正直、どっちが正解かわからない。
「決まり決まり! 玲桜奈ちゃん先輩、布団の予備とかありますか?」
「確か倉庫にあったはずだ」
「さっすが西園寺家の別荘! ささっ、みんなで協力して運んじゃお~!」
「はぁ……わかったよ」
これは今日はほとんど寝れないな……そう思いながら溜息を漏らした俺は、力を合わせて手早く布団を準備した。
「アタシ、ハルの隣がいい!」
「お前、絶対にまた布団に潜り込むつもりだろ!」
「そんな事しないも〜ん」
「も、潜り込むだと……!? なんてハレンチな!?」
「ご、誤解です! 何度注意してもソフィアが勝手に入ってくるんです!」
「あ、あの……ゆいも隣が……あうぅ……」
このままだと、誰がどこに寝るか問題で長引きそうだ……こういう時は、運任せにするのが一番だろう。
「なら、さっきのトランプで決めよう。一を引いたら一番右、そこから順番に二、三、四って感じで」
「それが一番平和そうだな。私は賛成だ」
「で、ですね……」
「よーっし、アタシのハルへの愛で隣を引くぞー! まあ、ハルとアタシが端っこになる確率なんて、全然無いもんね!」
というわけで、さっき使ってたトランプを使って寝る場所を決めた結果……俺、西園寺先輩、ゆい、ソフィアという順番になった。
「なんで!? こんなの絶対おかしいよ~!」
ソフィアよ、あんな盛大なフラグ発言をした時点で、もうこうなるのは決まっていたんだよ……。
「決まったものは仕方がないだろ。そうだ、ソフィア。先に言っておくけど――」
「なぁに?」
「って、もう脱いでるしー!?」
全裸で寝るなよと言おうとした瞬間、既にソフィアはすっぽんぽんになっていた。今日だけでどんだけ裸を見てるんだ俺!? ラッキースケベにもほどがある!
「ソフィアさん!? 何故脱いでいるんだ!?」
「アタシ、寝る時は裸なんですよ~。玲桜奈ちゃん先輩もやってみませんか? スッキリしてて寝やすいですよ!」
「や、やるわけないだろう!? 磯山君もいるというのに!」
「う~……玲桜奈ちゃん先輩にも理解されなくて悲しい……。そもそも、ハルは何度も見てるし、今更だよね?」
「全然今更じゃないわ!」
俺が頼んでいるわけじゃないのに、西園寺先輩にもの凄い目で睨まれたんですが? なんか俺が悪者になってませんか!? 理不尽過ぎる!
「脱ぐのは家だけにしろって!」
「いや家でも駄目だろう!? 二人は一緒に暮らしているというのに!」
「そ、それはそうですけど!」
駄目だ、このままじゃ収拾がつかない。そう思った俺は、少し強引にソフィアにTシャツと短パンだけ履かせた。
全く、ソフィアのこの癖は困ったものだ……。
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