第73話 幸福と苦痛のサンオイル

「うぅ……なんでこんな事に……」


 盛大に転んでしまった俺は、三人に無事確保されて、パラソルの下にうつ伏せにさせられてしまった。


 おっぱいがでかい美少女達――しかも推しである人達にこんな事をされるなんて、ご褒美だろうと思う人は多数いると思う。俺も見ている側だったら、同じ様に思う。


 でも……でもな! 実際にされるってなると、もうドキドキして恥ずかしくて、いち早く逃げだしたくなるんだよ!


「それじゃ塗るよ~」

「お、おう……」


 うつぶせのせいで、どうなってるかはわからないが、背中にとろ~っとした液体がかけられたのだけはわかった。これがサンオイルか……思ったより不思議な感触だ。


「気持ちいいでしょ~?」

「ああ、気持ちいい……」

「なら、こうしたらもっと気持ちいいよ~」

「おふんっ!? え、なにをして……」

「まあまあ。ハルはゆっくりしててよ」


 そんな事を言われても……そう思った矢先、俺の背中には特大サイズの、柔らかくて弾力があるものが置かれ……それがムニュンムニュンと形を変えて、俺の背中の上を滑り回りだした。


「……あの、つかぬことを伺いますが、ソフィアさんはなにをしてるのでしょう?」

「なんで敬語? えっと、おっぱいでハルにサンオイル塗ってあげてるの! アタシにも濡れて、ハルにも濡れて、ついでになぜかアタシも気持ちいいから、万事オッケー!」


 最後の奴には触れなくていいのか!? そんなおっぱいでこすって気持ちいいって……完全にあれだよな?


「ハルのごつごつした背中が引っかかる……んっ!」

「…………」


 絶対に狙ってやってるだろこれ! でもソフィアが狙ってそんな事をするタイプじゃないし……全部天然なのか? もっとタチが悪い!


「ソフィアさん! さすがにやりすぎだ!」

「え~? もうちょっとだけ~」

「駄目だ!」

「ぶ~。じゃあ最後にぎゅー!」


 渋々ではあったが、俺のサンオイル塗りを終えたソフィアは、最後に俺に強く抱きついて、小声でご褒美ちょうだいと言ってきた。


「お、俺何も用意してないよ」

「そっかー……あ、あそこにイルカが飛んでる!」

「え、どこ……? イルカさん、見たい……」

「ほう、この辺にイルカがいるとは珍しい、ぜひこの目に収めたい!」


 みんながイルカがいるらしい海岸線に目が行く中、ソフィアは俺の腕をギュッ掴んで近づくと、そのままキスしてきた。


 もう確信犯だろうっていいたくなるくらい、唇にギリギリ届かない辺りにキスしてくるとか、どんだけ策士なんだよ……あぁ……顔が熱い……。


「イルカさん、いませんでした……それじゃ……その、次はゆいが……」

「無理しなくてもいいんだぞ?」

「無理はしてないです! ゆいもやりたいんです! そうじゃないと……ソフィアちゃんに……」

「……?」


 ソフィアが何なんだろう。それを聞く前に、ゆいのオイル塗りが始まった。


 やっている事は普通に塗ってるだけなのに、ゆいのやり方だとホッとするというか……一生懸命塗ってくれてるんだなぁって思えて、ほっこりする。


「うんしょ……うんしょ……ちゃんと塗れてるかな……」

「ああ、大丈夫だ。ありがとう、ゆい」

「えへへ……褒めてもらえた……♪」


 きっと俺の目の幻覚だろうけど、ゆいにしっぽが生えて、それをブンブン振っている幻覚が見える。そんなのが見えるくらい、喜んでもらえたって事だろう。


「もっと……してください」

「お、おう。こうか?」

「もっともっと……!」


 ゆいはしっぽを限界まで降りまくりながら、女の子がしちゃいけないレベルの蕩け顔になってしまった。これは……なんか……いやらしい顔だなぁ……。


 って、旅行だからって気が緩み過ぎて煩悩ダダ洩れじゃねーか俺! もっと煩悩を抑え込み、理性を保つんだ!


「最後は私だな」

「なにも西園寺先輩までやらなくても……」

「まあいいじゃないか。すこしハレンチな事ではあるが、楽しんでる事の流れを断つのはよろしくないからね」


 俺からしたら、楽しさよりも緊張と羞恥心の方が強いです! 勘弁して—!


「はじめるぞ」

「お、おお? うおおおおおお!」


 オイルを塗るだけかと思ったら、西園寺先輩は俺の背中のマッサージを始めてくれた。痛いけど、めっちゃ気持ちが良い。


「ふふ、どうだ? 母に仕込まれたマッサージ術は」

「さ、最高で――あだだっ!」

「男の子なんだから、少しは我慢しろ、後で楽になるから」


 かなり遠慮なしに、背中をぐりぐりとする西園寺先輩。これ、一応サンオイルを塗るって目的だよな? なのに、なんでこんな痛い思いをしてるんだ?


 あ、もしかして……さっきから俺が誤解されるような事をしまくってたから、西園寺先輩が怒って――いででででで!?


「せ、先輩!? なんかやりすぎじゃないですか!?」

「そんな事ないぞ? 二人に鼻を伸ばしている君に怒っているとかもないぞ?」

「絶対怒ってる!? いでぇぇぇぇ!?!?」


 これ完全に怒ってるやつじゃねーか! 俺悪い事をした覚えがないんだけど!? 三人の水着に少なからず見惚れてたのは認めるけど!


 その後、俺が泣いて懇願するまで、西園寺先輩のマッサージという名のお仕置きは続くのだった……。

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