第74話 混浴パニック!?

 地獄のサンオイル塗り兼マッサージが終わった後、俺は痛む体の事など忘れてしまうような、最高の光景を前にしていた。


 俺の視線の先。そこには楽しそうに水をかけあうソフィアとゆいの姿があった。二人共楽しそうに笑っていて、キラキラと輝いている。百億点優勝。ちなみに二人共泳げないらしいから、水をかけあって遊んでいるというわけだ。


 だが、のんびりそれを見る事は、俺には許されていない。なぜなら、楽しそうな二人のおっぱいがめっちゃ揺れてるせいで、いつ零れ落ちるんじゃないかとヒヤヒヤしているからだ。


 普通に考えて、現実でそんなラッキースケベなんて起こるはずもないが、ここはギャルゲー世界だ。実際に、狙ってもできねーよって思うような事が何度も起きてるし。


「ふふっ、二人共とても楽しそうだ。誘ってよかったよ」

「西園寺先輩は行かないんですか?」

「私はここで見てるだけで十分だ。それに、幼い頃から羽目を外して遊んだ事がなくてな。どうやってあんな風に楽しめるのか、わからない」


 まるで慈母のように優しい笑みを二人に向ける西園寺先輩。その横顔は、少し寂しそうにも見えた。


 西園寺先輩は元々なにも才能が無いせいで、幼い頃から勉強漬けの毎日だったんだよな。なら、こうやって遊んだ事がないのも無理はない。


「なら、一緒に遊んでみましょう!」

「え、ちょ……磯山君!?」

「ほら立って! おーいソフィアー! ゆいー! 俺達もまぜてくれー!」

「あ、二人共やっときた! も~ずっとパラソルの所にいるからどうしたのかと思ったよ! えーいっ!」

「一緒に遊びましょう……!」


 少し強引に西園寺先輩を立たせ、手を引っ張ってソフィア達の元に向かうと、歓迎するように水をかけられた。


「しょっぱっ……!? ふっ、やったなソフィアさん!」

「ひゃあ~!」

「うわっぷ……ま、負けません……!」


 さっきまであまり乗り気じゃなかった西園寺先輩も、笑顔で水をかけあい始めた。


 なんか、ついこの前までいろいろあったのに、こうしてのんびりと遊んでいるのが嘘みたいだ。


 俺がもしこの三人の誰か一人でも救えてなかったら、この笑顔は見る事が出来なかったと思うと、本当に助けられてよかったと、心の底から思えるな――



 ****



「は~……ちょっと焼けたか……? 肌が痛い……」


 思う存分海で遊んだ俺は、一旦みんなと別れて露天風呂に浸かっていた。こんな旅館でしか入れないような大浴場があるなんて、さすが西園寺家。


 ……あと、どうでもいいけど……。


「ウキー」

「ウキャッ?」


 湯船に普通に猿が入ってるのはどういう事だ? この島には猿がいるとは聞いていたし、猿が温泉に入る映像は見た事あるが、夏場でも来るなんて聞いた事がない。


「まあいいや。あんまり悪さすんなよー」

「ウキウキッ」


 俺の言葉に返事をするように、猿達はお湯を堪能し始める。こうしてじっくり見ると、猿も結構可愛いものだな……。


「あ~……なんか寝ちゃいそうだ……」

「うわ~! すっごい広いお風呂だ~!」


 ……ん? なんか騒がしいな……猿が騒いでるのか? それにしては、随分と可愛らしい鳴き声……。


「こ、こんな広いお風呂……現実にあるなんて……あれ? お猿さん……」

「ああ、この島に住む猿がよく入りに来てるそうだ。慣れてるからか、悪さはしないから安心してくれ」

「!??!?!?!?!!?」


 湯煙で少し見えにくいが、俺の視線の先には、一緒に旅行に来た巨乳美少女達が、確かにそこにいた。


 嘘だろ、入浴の時間が被るとか、どんだけベタな展開だよ!? 聞かなかった俺も悪いけど、せめて入る時間を共有してくれよ!


「っ……!」


 俺は咄嗟に岩陰に隠れて息をひそめる。そのおかげで、何とか俺がいるのはバレなかったようだ。


 くそっ、ドキドキで今にも卒倒しそうだ。なにせ、湯煙越しとはいえ、推し三人の裸をモロに見てしまったのだから。


 みんな大きいのは分かっていたが、それぞれ形とか色が違って――って! なに分析してるんだ俺は!?


 でもどうする? 出入口は一つしか無いし、ここから出たら一発でバレるし……ここに隠れてやり過ごすのが一番確実か?


「あ~ごくらくごくらく~♪」

「疲れが取れますね~……」

「気に入ってもらえたなら何よりだ」

「ふぃ~……そうだ! アタシ、二人に聞きたい事があったの忘れてた! ハルに邪魔されない今がチャンスなのに!」


 え、俺が邪魔? そんなに邪険にされるほど、ソフィアの事を邪魔した覚えはないんだが……。


「二人共、ハルの事……どう思ってる?」

「どう、とは?」

「異性として好きか嫌いかって事!」

「……!?」


 予想もしていなかった話題に、俺は思わず声を出しそうになってしまった。咄嗟に口を抑えたから、多分大丈夫だと思う……うん。


「アタシ、子供の頃からハルが大好き。他の男の子なんか目に入らないくらい。だから、ハルに振り向いてもらえるように頑張った。そんな時に、アタシ……二人もハルの事が好きなんじゃないかって気づいたの。アタシにとってハルは大事だけど、二人も大事だから……気持ちを聞いておきたいなって。だってもし二人が好きだったら、アタシだけアピールするのって、フェアじゃないもん!」


 ……ソフィアのやつ、そんなに俺の事を……推しにそんな事を言われたら、嬉しくて卒倒しちゃうだろ……。


「ゆい……ゆいも、陽翔さんが好きです。ずっと優しくて、守ってくれる素敵な陽翔さんが大好き。恋なんて初めてだから、陽翔さんと一緒にいる時のドキドキが……恋なのかはわかりませんが……ゆいはこの気持ちが、恋だと思ってます」

「うん、そっか。玲桜奈ちゃん先輩は?」

「……私は、これが恋……なのかはわからない。ただ、彼に救ってもらったあの時から……彼を思い出すたびに胸の鼓動が早くなる。それに、君達が彼と仲良くしてるのを見ると……何故か胸が苦しくなって、つい彼に当たってしまう……」

「それは、絶対に恋ですよ!」

「そうか……これが恋、なのか。なんとももどかしい気持ちだな。だが、悪くはない。男なんてと思っていたのに、私がこんな気持ちを持つようになるなんてな」


 ゆいも西園寺先輩も……俺の事が好きだなんて……。多かれ少なかれ、好意は持ってくれてるんじゃないかとは思ってたけど、まさかそこまでとは……。


「それじゃ、アタシ達は恋のライバルって事だね! アタシ、負けるつもりはないから! それと、仮に誰かが付き合ったとしても、アタシは恨まない。だってハルが選んだ相手だもん。だから、これからもずーっとアタシと仲良くしてほしいな!」

「もちろんです……! ゆい、お二人と……ずっと仲良しさんでいたいです……!」

「私も同意だな。君達とは竹馬の友でいたいと感じている」

「ありがとう! それじゃ、友好の証に洗いっこしよ!」


 岩の向こうで、バシャバシャと音がする。それから間もなく、三人の声が離れていった。


 はぁ……まさかこんな形で三人の気持ちを知る事になるなんてな。まだ胸がドキドキして、心臓が口から出そうだ。


 ゲームでも、こんな流れになるんだろうか? もうここまで来たら個別ルートに入っていそうだから、こんな風にはならないと思うんだけどな……。


「倫治おじさんの言う通りだな……このままズルズルいったら、三人を傷つけるだけだ……」


 俺は……誰を選べばいいんだ……どうすれば……傷つけなくできる……? いや、こうなってしまった以上、もう傷つけない方法なんてない。あるとすれば、俺が早く決めて、傷が深くなる可能性を減らすだけだ。


「この旅行で絶対に決めよう……」

「…………」

「…………え」


 考え事を終えて顔を上げると、そこには……呆気に取られた西園寺先輩が、岩陰に隠れていた俺をじっと見つめていた――

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