第29話 性悪女、その名は天条院
天条院との一件の後、ゆいと合流をした俺はソフィアの作った弁当を完食した後に、天条院が来た事をゆいに話した。
ちなみにゆいは出会った時と違い、前髪をソフィアからもらったヘアピンで纏めているおかげで、表情が見えやすくなっており、笑顔が少し増えた。
それと、下着も普通のに変わったのか、胸元の主張が前よりも激しくなっている。目のやり場に困るものが増えたのはあれだが、明るくなったのは良い事だ。
「……そちらにも行ってたんですね。ゆいの所にも来ました」
「そうだったのか」
天条院は白組になったクラス全部に回ったんだろうか? 暇というか、自己顕示欲が高いというか……ある意味凄い人間だ。
「行ったって事は、ゆいちゃんも白組?」
「は、はい」
「やったー! 一緒に頑張ろうね!」
「ふぎゅう……苦しいですぅ……」
一緒の組だという事に喜びを爆発させたソフィアは、ゆいを思いきり抱きしめる。一方のゆいは、ソフィアのおっぱいに埋もれて窒息しかけている。
「ソフィア、ゆいが死んじゃうから」
「え? わー! ゆいちゃん死なないでー!」
「はぁ……はぁ……だ、大丈夫です」
よかった、何とか窒息する前に助けられたようだ。死因・おっぱいで窒息死だなんて、死んでも死にきれないだろう。
「よ、よかった……ところでゆいちゃんは、なんの競技に出るの?」
「三輪車競争です……その、天条院さんに……グズで出来損ないのゆいには丁度良いだろうって……逆らったら酷い目に合わせるって……」
「なにそれどういう事!? ひっどーい!」
ここはゲーム通りに、ゆいは三輪車競争に出るようだ。理由も同じだな。
……なんて性悪な行動だろうか。天条院の性根はどこまで行っても腐ってるとしか思えない。
「落ち着けって。俺もムカつくけど、怒っても仕方ないだろ?」
「そうだけど!」
「それに、怒ったらそれこそ向こうの思うつぼだ。大活躍して勝利に貢献してやればいいんだよ」
「ゆいに……出来るでしょうか……?」
見た目が明るくなったとはいえ、性格は改善しきれてないゆいは、暗い表情で俯いてしまった。
「きっと出来るさ。そのためには努力をしないとな。努力して、勝って、天条院を見返してやろう!」
「ゆいなんかにそんなの……」
「後ろ向きは駄目だ。前向きに変わるんだろ?」
「は、はいっ。どこまで出来るかわかりませんが……頑張ってみます」
ゆいは主張の激しくなった胸元の前で握り拳を作る。その表情は不安半分、頑張ろうという前向きな気持ちが半分ってところだろうか。
一カ月ちょっとで、あんなに自虐的だったゆいがここまで前向きになれたのは、ゲーム通りとはいえ、素直に嬉しいな。
「ゆいちゃん……! 一緒に頑張ろうね!」
「ふにゅう……」
「だから窒息するって!」
再びおっぱいの海に溺れるゆいを救出しながら、俺達は残りの昼休みの時間をのんびり過ごした――
****
「あれ、ハルどこに行くの?」
「ちょっと走ってくるよ」
「そうなの? それじゃごはんの用意しておくから!」
「ありがとう」
数日後の放課後、一度帰宅してからジャージに着替えた俺は、外に出て大きく体を伸ばした。
一応陽翔としての経験があるおかげで、前世よりは運動が出来るようになっているとはいえ、やっぱり不安が残るから、こうして少しでも運動をしておこうと思ったんだ。
あと、ゲーム中には走りに行くイベントは無いから、変な事が起こらないか、ちょっとドキドキしてる。
「さて、どこを走るか……適当でいいか」
一通り準備運動を終えた俺は、軽くランニングを始める。五月とはいえ、さすがに夜は少しだけ冷えるが、走っているうちに心地よくなってきた。
「ふぅ……はぁ……あれ?」
いつの間にか聖マリア学園の校門に来ていた俺は、ちょうど学園から出てくる団体を見て、思わず足を止めた。
「おや、磯山君じゃないか。こんばんは。その格好、体育祭に向けてトレーニングといったところか」
「こんばんは。その通りです。生徒会のみなさんは今帰りなんですね」
学園から出てきた団体は、生徒会のメンバーだった。その彼女達に、俺は小さく頭を下げた。
「この時期は体育祭と生徒会の仕事が重なるから忙しくてね。だから昼の誘いも断るしかなくてな。すまない」
「いえ、いいんです」
西園寺先輩の言う通り、最近西園寺先輩を昼飯に誘っている。理由はもちろんバッドエンドから救うために仲良くなりたいのもあるが、ゆいの知り合いを増やしてあげたかったというのもある。
もちろんソフィアとゆいには許可をもらった上でやってるからな?
「会長、もしかしたら学園に何か悪事をしに来たのかもしれません」
「え、ちょっ!?」
生徒会の書記を担当している先輩が、ジト目で俺の事を見ながら言う。あまりにも言いがかりすぎるぞ!
「こら、滅多な事を言うな。彼はそんな事をするような男ではない。それは、何回か一緒に仕事をして分かった事だろう?」
「あらぁ〜? 玲桜奈がそんな事を言うなんて意外だわぁ〜」
「からかうなイサミ。私が彼との交流の元にそう感じただけだ。まだ完全には信用してないがな」
あらそうなのぉ? とクネクネして見せる金剛先輩に、西園寺先輩はタジタジのようだ。本当に二人は仲良しなんだな。
「その、もし何か手伝えることがあればいつでも手伝いますよ!」
「ありがとう。でも今のところは大丈夫だ。実行委員も動いててくれて、準備は順調だからね」
「それなら良かったです。でも無理はしないでくださいね」
「ああ、ありがとう。そうだ、私は少し彼と話す事があるから、君達は先に帰っていたまえ」
西園寺先輩の指示通り、生徒会メンバーはそれぞれの帰路に着く。そんな中、金剛先輩だけが俺にウインクをしてきたのが気になった。
「それで、話って?」
「君、本当に悪事を働きに学園に来たんじゃないだろうな?」
「し、してませんよ! だって俺は……」
「冗談だ」
冗談って……本気で信じ込むところだったんだが? 心臓に悪い冗談は勘弁してほしい。
「君は何の種目に出るのかな」
「えっと、二人三脚、三輪車、借り物、全員参加のリレーと、選抜リレーです」
「ほう、選抜リレーに選ばれるとは、余程の俊足を持っているな。これは楽しみだ」
「もしかして、先輩は……赤?」
「ご名答だ。磯山君、当日は良い試合にしよう。それと、もし仕事が忙しくなったらヘルプを頼むかもしれない」
「は、はい! 俺……西園寺先輩に勝つつもりでいきます!」
「楽しみだ」
それだけを言うと、西園寺先輩は黒く光る高級車に乗ると、「また明日」と言って帰ってしまった。
西園寺先輩とリレー……これも逃れられない定めか。あの人の足は速い。俺の前世と現世が入り混じった体でどこまで戦えるか……そしてこの先がどう変わるのか……気をつけないとな。
「さてと、ここに長居してたら本当に悪い事をしにきたって思われちゃうかもだし、別の所で走るか」
その後、学園から離れて適当に走ったり休憩を繰り返した俺は、家に帰ってきた。今日のごはんは何だろうか……楽しみだなー。
「ただい――」
「きゃー! 退いて退いてー!」
「へ?」
普通に家に入ってきた瞬間、何故か三輪車に乗って爆走するソフィアに体当たりされた俺は、そのまま吹っ飛ばされた――
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