第28話 宣戦布告

「うわ出た……あの人達なにしに来たんだろ……」


 突然やってきた天条院とその取り巻き達に、明らかに不快感を示すソフィア。クラスメイト達も同じなのか、賑やかだった教室が一気に静まり返った。


「ふふっ、静かにワタクシを出迎えるだなんて、良い心がけですわ! このワタクシがあなた達を褒めて差し上げますわ!」

「流石は天条院様です!」

「おーっほっほっほっ!!」


 相変わらずの自意識過剰っぷりと取り巻き達の持ち上げっぷりを見てると、思わず呆れてしまう。あいつらはもう少し周りの空気を読む能力をつけた方がいいと思う。


 まあなんにせよ、迷惑なのは間違いない。それに、ゲームでの陽翔は何も言わなかったから、このまま放っておくとソフィアが文句を言いに行ってしまう。変に彼女を目立たせないためにも、俺が文句を言ってやる。


「おい、人の教室に来て騒ぐな。迷惑だ」

「またあなたですの? 相変わらずワタクシの邪魔をして不快にする能力だけは一流ですわね!」

「その言葉、そっくり返してやるよ。それで、何の用だ?」

「……まあいいですわ。ワタクシは寛容ですし、今日は気分が良いから見逃してあげましょう。それで、今日来たのは他でもありませんわ! 白組のクラスを回って、大切な事を教えてあげてますの!」


 そう言うと、天条院は大きな胸を反らせて見せると、声高々にとんでもない事を言い出した。


「今年の体育祭は、選ばれしワタクシの所属する赤組が優勝すると決まってるから、無駄な努力をする必要は無いと教えに来てあげましたのよ! 感謝なさい!」

「はっ……? なぜお前がいると負けるのが確定してるんだ」

「わからないの? 本当に知能がサル以下だこと。そんなの、選ばれし者が勝つのが世の常だからよ!」


 ……どうしよう。言っている理屈が全く理解できない。これは俺の頭がサルレベルだからか? それともこいつの思考は、人類には早すぎるのか?


「仮にお前が選ばれし優秀な人間だとしても、たった一人で勝てるって考える事がおこがましいのがわからないのか?」

「あなたこそ何故わからないのかしら? ワタクシは選ばれた人間。だから正しい! だから常に勝つ! それは決まってる事なのよ! おーっほっほっほっ!!」


 駄目だ、やっぱり何度聞いても無駄だなこれ。まあこのままお引き取りを願うのもいいが、言われっぱなしはムカつくな。


「悪いけど、うちも勝つ気満々だから。あんまり調子に乗ってると、痛い目に合うぜ」

「あらまあ、随分と威勢の良い遠吠えですこと! いまのうちに吠えておくと良いわ!」

「そっちこそ負けて吠え面かくなよ? 俺としては、いまのうちに謝罪して正々堂々戦おうって宣言してくれる方が、気持ちよく体育祭を迎えられるんだが」

「さっきから言わせておけば……本当に忌々しいにも程がありますわ! 勝つのはワタクシ! そしてあなただけは、ワタクシの手でつぶさないと気が済みません! 競技は何に出るのかしら!」


 なんか随分と怒らせてしまったな。別にここで教えても、さして問題は無いだろう。ゲームでもこいつに知られちゃうのは避けられないしな。


「二人三脚、借り物競争、三輪車競争、あとは選抜リレーだ」

「……選抜リレーですって? 生意気ですこと。まあ丁度ワタクシもリレーには出ますし、あとの競技はワタクシの権限でどうにかして……くすっ、全部の競技でボッコボコにしてあげますわ!」

「ご自由に。俺は俺のやり方であんたに勝ち、チームに貢献するだけだ」

「あらカッコいいですわね。それじゃワタクシは忙しいのでこれで失礼いたします。それにしても……三輪車競争とは……まさに一石二鳥ですわ……くすくすっ……今年の体育祭は楽しくなりそうですわ!」


 天条院は不敵な笑みを浮かべながら、教室を後にした。ついでに後ろにくっついていた取り巻きに睨まれたけど、そんなのはどうでもいい。


 ……やっぱり変にイキるのは性に合ってないのかもしれないなこれ。何を言えば挑発できるか、全然わからないぞ。


「あーその……みんなごめん! 変に騒ぎにしちゃって!」

『…………』


 シーンと静まり返る教室の中、クラスメイト達の視線が俺に集中する。そりゃそうだよな、天条院とやりあい、その天条院がいなくなれば、おのずと俺に注目が集まる。


 このままでは、また陰口を叩かれるのがオチだろう。さっさとソフィアと昼飯に――


「磯山君、めっちゃガンガン言ってくれたから、ちょっとすっきりしたよ」

「え……?」


 一番前に座っていた小柄なクラスメイトが、笑顔を向けながらそう言ってくれた。


 そして、それに続くように――


「私も気分爽快だよ! これは勝つしかない!」

「彼が先導してるのは遺憾ですが……あいつに負けるのはもっと遺憾ですわ!」

「絶対に白組が勝つ! 赤組なんかには負けないぞ!」

「よーし! 絶対アタシ達が勝つぞー! がんばろー! えいっえいっ――」

『おーーーー!!!!』


 ソフィアの掛け声に続いて、クラスメイト達から勇ましい掛け声が上がった。


 まさかの団結キタコレ!? ただ俺が天条院が気に食わなくて噛みついたら、想像以上に良い方向に向かってくれたな!?


「磯山君! よく言ってくれました! みんなで天条院さんを倒しましょう!」

「あの暴君女、絶対に泣かせてやる!」

「あ、あはは……」


 俺が思っている以上に、クラスメイト達の心の火を着けていたようだ。それほど天条院は嫌われてるって事か。


 とにかく、これで少しはみんなと打ち解けられると良いんだけど。


「ハル! ズバッと言ってくれて、スカッとしたよ! あのままじゃ、アタシが文句を言いそうになっちゃった!」

「そうならなくてよかったよ。それじゃ今度こそ昼飯に行くか。ゆいも待ってるだろうし」

「うん! いそごっ!」

「って、別に手を組んで行く必要もないだろ!?」

「この方が強く引っ張れるからー!」


 こっちの理屈もよくわからん! 別に昼飯に行くのに腕を組む必要ないだろ! ああもう、今日もソフィアのおっぱいは柔らかくて良い感触だなぁ……じゃなくて! 早くゆいが待つ教室に行かないと!

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