第二章 激闘! 体育祭!
第27話 体育祭に向けて
前世を思い出して早一カ月。陽翔としての生活にも慣れてきた。元々陽翔として生きてきたんだから、慣れたっていうのはおかしいかもしれないけど。
あれから俺は、ソフィアと同居をしながら、学園でゆいと交流をしたり、生徒会の手伝いをして西園寺先輩と交流しながら過ごしている。大きな事件も現状起こらず、概ね順調な学園生活だ。
とはいえ油断はできない。ゲーム通りに進むなら、ゴールデンウィークを開けた今日から大きなイベントが発生するからだ。
そのイベントとは……。
「ではこれより、体育祭の出場競技を決めたいと思います」
教壇に立つ実行委員の女生徒の言葉通り、五月には体育祭が控えている。その後に中間テストがあり、少し期間が空いて期末テスト、夏休みって流れだ。
現実世界では、体育祭なんて陽キャやスポーツマンの独壇場だから、やる気のある人間はごく一部だったが、この世界……いや、この学園では、みんな結構やる気がある。
その理由だが、優勝した組には豪華賞品が与えられるからだ。商品が出ればやる気が出るのは、どの世界でも共通という事だな。
そんな中、俺は深い溜息を漏らしながら、頬杖をついていた。
正直、俺は体育祭……いや、体育というものに良い思い出がない。元々運動が苦手だったから、頑張っても醜態を晒すだけだった。ただ走ってるだけでも笑われ、馬鹿にされた過去がある。だから、正直不安ではある。
「我がクラスは白組になりました。例年通り、勝った方には賞品があります。種目は学年対抗の全員参加競技と、選抜リレーを除いて、最低一つ、最高三つ参加できます。それと、磯山君は性別による体格のハンデを考慮して、一部の種目には出れませんからご注意ください」
「うん、わかった」
実行委員の女子に名指しで言われた俺は、大きく頷いて見せた。
その辺は流石に考慮されるよな。綱引きみたいな腕力勝負は男の方が有利だし。
さて、俺はどの競技を選ぶかだが……ゲームでは三択になっていた。
確か二人三脚、借り物競争、三輪車競争の三つ。それで、選んだものによって特定のヒロインの好感度が上がる仕組みだったはずだ。
二人三脚はソフィア、借り物競争は西園寺先輩、三輪車競争はゆいだったのは覚えているが……これ、どれを選ぶのが正解だろうか?
普通に考えればゲーム通りになるんだろうが、既に何度かゲームの流れとは変えたせいで、まだ起こらないはずのイベントが起きてるくらいだし、ここでも何か変化があるかもしれない。もしそうなら、軽率に選ぶのは危ない。
そんな事を思っていると、背中をトントンと小さく叩かれる感触を感じた。
「ハルは何に出るの?」
「んー……二人三脚か、借り物競争か、三輪車競争辺りかな。この辺なら俺でも出れるし。どれにするかなー」
「全部出ればいいんだよ~。アタシも二人三脚に出るから、一緒に走ろう! はーい! アタシ、二人三脚にハルと一緒に出まーす!」
「…………」
言われてみれば確かに……全部出ればいいじゃん。ゲームでは選択式だったから、完全に盲点だった。
「相変わらずべったりねあの二人……」
「学校をデートスポットと勘違いしてるんじゃなくて?」
「これだから男は……」
俺がソフィアと一緒に出るのをよく思っていないクラスメイトから、ヒソヒソと陰口を言っているのが聞こえる。
入学して一カ月が経過した今、前よりかは陰口を言われたり、毛嫌いされる事は減ったとはいえ、まだまだ受け入れてはもらえないようだ。
「はいそこ、スポーツは団結しないと勝てないんですから、仲間を貶すような発言は控えるように。それと小鳥遊さん、種目は私が順番に聞いていきますので、希望の所で手を上げてくださいね」
「あ、はーいごめんなさーい!」
「ではまずは――」
実行委員の女子が順番に聞いていくと、割とすんなりと参加競技が決まっていった。俺も無事に望みの三種目に入れたので満足だ。
「はい、では最後に選抜リレーですが……これは赤組・白組から計八名ずつ、各二チームに分けて走ります。選手は学年関係なしに足が速い人が選ばれます。これは事前に体育で計測した五十メートル走を元に選ばれます」
分けるって事は、四人の白組チームが二つ、赤組チームも二つ作られるって事か。
……そういえば、入学してから割と早い段階で、タイム測定したな。あれを集めて、各組から早い人間を学年関係なしに選ぶって事だな。
「うちのクラスからは、磯山君が選ばれました。みなさんで応援しましょう」
「……え? 俺?」
「はい」
そうだった、ここだけは強制だったな……。流れはかなり変えてきたつもりだったが、ここはゲーム通りって事か。
不安はかなりあるが……選ばれたからには頑張ろう。全ては三人をバッドエンドから救うために!
「では種目も決まりましたので、時間も区切りが良いですし……先生、今日はここまででよろしいでしょうか?」
「そうですね。では少し早いですがお昼休みにしましょう。他のクラスはまだやっているところがあるので、教室を出るのはチャイムが鳴ってからにするように。では号令を」
号令後、間も無くチャイムが鳴り、クラスメイト達の談笑で教室内がザワザワし始めたタイミングで、ソフィアが笑顔で俺の前に立った。
「えへへ、一緒になれてよかったね! 頑張ろう!」
「ああ、そうだな。それじゃ昼飯に行くか」
「うん! いこいこっ!」
「わかったから引っ張るなって……」
いつものようにソフィアに引っ張られながら、ささやかな抵抗をしていると、教室に数人の生徒が入ってきた。
「ごきげんよう下々の民達! ワタクシが来て差し上げましたわ! 光栄に思いなさい!」
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