第20話 真面目な二人

「磯山君とイサミのパワーがあれば、手際よく作業が出来るだろう。任せたぞ」


 西園寺先輩の指示に、俺は思わず口をあんぐりと開けてしまった。


 いや、別に金剛先輩と一緒になるのが嫌というわけではない。だが、西園寺先輩と一緒に行かなければ、彼女と仲良くなる事はできない。


 それ即ち……バッドエンドを回避するという、俺の目的から遠ざかってしまうという事だ。なんとかして、西園寺先輩と一緒に行けるようにしないと!


 でも……な、なんて言えばいいんだ? 金剛先輩とは行きたくないーとか? あまりにも失礼すぎるだろそれは!


「あ、その……」

「何言ってるのよぉ。行くのは玲桜奈と磯山ちゃんよん」

「私? 私にはまだやらなければならない書類があるのだが」

「それはアタクシが引き継ぐから問題ないわよぉ。最近ずっと書類仕事ばかりだし、たまには体を動かす仕事をしないとねぇ」

「……むぅ……イサミが進めてくれるなら、それで構わないが……どう考えても、イサミの方が適任だと思うんだがな……」


 やや不満そうではあるが、西園寺先輩は了承してくれた。


 こ、金剛先輩! ナイスアシストありがとうございます! このお礼はいつか返させてください!


「さて、そうと決まれば早く向かうとしようか」

「わかりました」

「ふふっ……磯山ちゃん、玲桜奈の事……よろしくねん」


 部屋を出ようとすると、俺だけに聞こえるように耳打ちをしてから、ウィンクをする金剛先輩。


 よろしくって……? 俺は手伝う立場なんだから、むしろ西園寺先輩に俺の事をよろしくっていうのが普通だと思うんだけど……?


 まあいいや。少しでもお詫びになるように、ちゃんと頑張りつつ、少しでも西園寺先輩と仲良くなれるように頑張るぞ!



 ****



「……想像以上にぐちゃぐちゃだな」

「ですね……」


 生徒会室を後にした俺達は、サッカー部が使っている倉庫へとやって来た。そこには、棚が倒れて物が散乱しまくっている惨状が広がっていた。


 これは、想像以上に時間がかかりそうだ。大会が控えている身からしたら、やりたくないのもわかる。わかるけど……やっぱり自分達でやるべきだと思うな。


「さて、まずは棚の周りの物を退かして、棚を起こすとしよう」

「わかりました。とりあえず適当に周りに積んでおけばいいですか?」

「ああ。ある程度、種類別に分けておいてもらえると、後が楽になる」

「了解です」


 俺は西園寺先輩と手分けして散乱した備品を端っこにまとめてから、倒れた棚を元の位置にあった場所に戻した。


 物が多いうえに、崩れた際に段ボール箱から出てしまった物を、中に戻す作業もしたから、思った以上に時間がかかってしまった。


「よし、棚は終わりっと……次は散乱した備品を元の場所に戻そうか。場所はわかるから、私の言った通りに置いてくれ」

「了解です」


 西園寺先輩の指示通り、俺は順番に段ボール箱を棚に積み上げていく。これ、思った以上に重いな……。


「……サッカー部の連中が全員でやった方が早いと思うんだけどな……生徒会は便利屋じゃないぞ……」

「そうかもしれないが、彼女達も困って我々に頼ってきたんだ。それに、生徒が快適に過ごせる学園作りも生徒会の仕事の一つだからな」

「……西園寺先輩は、真面目ですごいですね」

「すごくなんかないさ。私はただ、学園のみんなが笑顔で生活する姿が好きなだけだ。そのために、こうして生徒会長として活動しているだけさ」


 フッと笑いながら作業を続ける西園寺先輩。その姿は、女性であるにも関わらず、思わずカッコいいと思ってしまうほど凛々しい。


 それに、学園の事を話している西園寺先輩がとても楽しそうで、思わずドキッとしてしまった。


「だからこそ、天条院みたいな生徒がいると困るんだがな……」

「あー……そうですね」

「それはそうと、君は私の事を真面目と言うが、君も大概真面目だろう? 約束通り謝りに来たどころか、詫びとして自ら手伝っているくらいだしな」

「あはは……お詫びも勿論ありますが、頑張って仕事をしている西園寺先輩のお手伝いがしたかったっていうのもあります」

「ほらみろ、私の事を真面目といえないくらい、君も真面目じゃないか」


 うーん、そうなんだろうか。いまいち西園寺先輩の中の真面目の定義がわからないけど、別に怒られているわけじゃないから良しとしよう。


「……君は真面目でもあるが、変わり者でもあるな」

「そ、そんなに変わってますか?」

「ああ。男はみんな女をいかがわしい目で見ているような、ケダモノしかいないと思っていたからな。真面目な君を見ていると、不思議な感じだよ」


 それは俺が変わり者じゃなくて、西園寺先輩の偏見が酷いだけな気がするんだけど!? ケダモノみたいな男もいないとは言わないけど、かなり少数だろ!


「その、西園寺先輩はどうして男の事を良く思わないようになったんですか?」

「母の教えだ。幼い頃から、男を気軽に信用するな、男はみんなオオカミだからと教わっていてな。だからこそ、君のような男を見ていると、不思議な気分になるという事だ」


 なるほどな……男嫌いの理由は知らなかったから、これで納得した。


 ていうか、お母さんはどうしてそんな事を西園寺先輩に教えたんだろうか? 西園寺先輩は美人だし、社長令嬢という生粋のお嬢様だから、悪い虫が近づかないようにしたかったのか?


「っと……これは、思ったより重いな……」

「あ、俺持ちますよ」

「すまないな。上から二段目の棚の左端に置いてくれ」

「了解です。あっ……」

「どうかしたか?」

「い、いえ。なんでもないです」


 西園寺先輩が、大きめの段ボール箱を持っているのはいいんだが……同じくかなりの大きさを誇る西園寺先輩のおっぱいが、段ボール箱にずっしりと乗っているのが目に入った。


 これってあれか? テーブルの上におっぱいを乗せると楽なんだよね~ってのと同じなのか!? 破壊力が凄まじすぎて、思わず凝視する所だった。


 これで凝視なんかしたら、やはり男はケダモノだと言われて、今度こそ嫌われていたかもしれない。危ない危ない……。


「それじゃ、いただきますね」

「ああ。しっかり持つんだぞ……ひゃう!?」

「ど、どうかしましたか!? 頬が赤いですけど……」

「い、い……今、手が……」

「手?」


 手って……ああ、受け取るときに、少し西園寺先輩の手に触っちゃってたな。チョンって程度だけど。


「変な声を出してしまない。男に触られるのに慣れていなくてな……」

「いえ、大丈夫です。よっと……」


 受け取った段ボール箱を棚に戻してから、西園寺先輩の方を向くと、「男に触られてしまうだなんて……不覚……」と、なにやらぼそぼそと話していた。


 いつも凛としている人が取り乱すのって、ギャップがあって可愛いと思わないか? 俺は可愛いと思う。


「さて、あらかた片付きましたね」

「ああ、そうだな。ご苦労だった」

「西園寺先輩もお疲れ様でした。指示があって凄く助かったです」

「私も、思ったより早く終わって助かった。さて一度生徒会室に……む?」

「どうかしましたか?」


 倉庫の出入り口の所で、なにやら考え込むように首をひねっていた。


 倉庫を出るだけで、そんなに悩むような事があるんだろうか? まさか、ないだろ!


「鍵がかかってる……」

「え?」


 俺は西園寺先輩の前に出てドアを開けようとするが、ビクともしない。確かにカギがかけられているようだ。


「西園寺先輩、これ……内側から鍵を開けられます?」

「開かない奴だな。外からしか施錠が出来ない。私達……閉じ込められたな」

「…………」


 あ、あれ? このイベント自体は知ってたけど……閉じ込められるなんてイベントは無かったと思うんだが……?







「ふふっ……上手くいったわねん。さて、これで少しでも玲桜奈の男嫌いが直ればいいんだけど……磯山ちゃん、頼んだわよぉ~」

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