第19話 誠心誠意の謝罪

「き、緊張するな……」


 放課後、俺は西園寺先輩と約束した通りに生徒会室へと一人でやって来た。


 ソフィアも来ると言っていたが、一度西園寺先輩とは一人でゆっくりと話をしたかったから、今回は先に帰ってもらっている。


「すみません、磯山です」

「君か。入りたまえ」

「失礼します」


 控えめにノックをし、中からの許可を確認してから、俺は生徒会室へと入る。すると、自席に座って何か書き物をしている西園寺先輩の姿が目に入った。


 あれ、西園寺先輩しか部屋にいないな。ちょっと意外だが、ゆっくり話すにはちょうどいい機会だ。


「まさか本当に来るとは思ってなかったぞ」

「お約束しましたから」

「そうか。約束を守る人間は、嫌いではないぞ。すまないが、今やっている書類だけは今のうちに片付けたいから、座って待っててもらえるか? 五分もあれば終わると思う」

「わかりました。ではそこに座って待ってます」

「すまないな」


 俺は以前ここに来た時にも座ったソファに腰を下ろすと、西園寺先輩の事をジッと見つめる。凛々しい表情を浮かべながら書類に向かう彼女の姿は、美しいとしか形容できない。


 それにしても……凄い書類の山だな……あれは今日中に全部処理するんだろうか? もしそうなら、とんでもない作業量だ……。


 そんな事を思いながら見つめる事、約五分後。きっちり言った通りの時間で終わらせた西園寺先輩は、俺の対面に座った。


「待たせた。さて、話を聞こうじゃないか」

「はい。その……昼休みは本当にすみませんでした!!」


 何か言われる前に、先に誠心誠意謝るべき――来る前にそう考えた俺は、西園寺先輩に土下座をした。


「お、おいおい……急に土下座をされたら驚くだろう。顔を上げてくれ」

「いえ! あんな人が多い所で酷い事をしたんです! これくらい当然です!」

「もうその件では怒っていない。あの後、改めて目撃者から事情を聞いて、君や小鳥遊さんが、わざとやったわけじゃないと分かったからな。だから顔を上げろ」


 恐る恐る顔を上げると、そこには僅かに口角を上げた西園寺先輩の姿があった。


 よ、よかった……これで退学なんてなったら、それこそゲームオーバーだった。それに、俺のせいでソフィアの立場が危うくなったらって思うと……。


「それと、天条院の奴には厳重注意をしておいた。反省してるとは言っていたが……期待は出来ないな」

「……そうですか」

「君も面倒な相手に目を付けられたな」

「ですね……」

「騒ぎに関しては、私の方でどうにかしておいたから、心配しなくていい」

「ありがとうございます」

「私の方からの共有は以上だ。他にも話はあるか?」


 他に……謝罪はしたし、あの後の事も大丈夫って聞けたし……話しておきたい事は無い。


 でも、これで解決しました! はいさよなら! ってわけにはいかないよな。ちゃんとお詫びはしたい。それに、真面目に頑張る西園寺先輩の力になりたい。


 ……ゲームには無い展開だから、この後どうなるか不安ではあるが……。


「天条院先輩、今回の事のお詫びって言ったらあれですけど……生徒会の仕事、俺にも手伝わせてもらえませんか?」

「どうした藪から棒に」

「あの書類の山と格闘する姿を見てたら、何か手伝いたいと思って」

「気持ちは嬉しいが、あれは我々の仕事だ」

「それはわかってますけど……」

「戻ったわよぉ~……あら、磯山ちゃんじゃないの~! ひょっとして、遊びに来たのかしらぁ?」


 どうすれば西園寺先輩が折れてくれるか考えていると、金剛先輩が大きく体を揺らしながらやって来た。


 見た目だったり喋り方だったり、相変わらず色々な意味で主張が凄い人だ……。


「金剛先輩、お疲れ様です。今日は西園寺先輩に謝りに伺いました」

「あ、もしかして昼休みの件かしらぁ~? 玲桜奈のパンツと太ももはどうだったぁ?」

「い、イサミ!? 何を言っている!!」

「もぅ、冗談だってばぁ。玲桜奈ったら相変わらず堅物なんだから~ん」

「君が軽すぎるんだ! 全く、昔から君という人は……」


 耳まで真っ赤にさせて怒る西園寺先輩に、金剛先輩はケラケラと子供の様に笑ってみせた。


 イサミって、金剛先輩の下の名前か? この感じだと、二人は随分と親しい間柄みたいだな。


「それで、許してもらえたのぉ?」

「許してもらえました。それで、お詫びに生徒会の仕事を手伝いたいってお願いしたんですが……」

「気にしなくていいと言っているのに、彼が中々頑固でな」

「あら、いいじゃな~い! うちはいつも忙しいから、人手が増えるのはありがたいわ~」


 あれ……? てっきり断られるかと思っていたが、金剛先輩は両手を合わせながら俺の後押しをしてくれたぞ?


「し、しかしだな……」

「玲桜奈、何でも自分の力で解決するのは凄い事よぉ。でも、人の力を借りるっていうのも、上に立つ人間として必要な事だと、アタクシは思うわよん」

「うっ……」

「そうだ! 丁度男の子のパワーが欲しい仕事があるのよん! それを手伝ってもらえないかしら~?」

「お、おいイサミ! 何を勝手に――」

「玲桜奈に任せていたら、いつまでも話が平行線だろうからアタクシが決めました。も・ん・く・あ・るぅ?」


 有無も言わさない金剛先輩の圧に、西園寺先輩は渋々頷いた。


 さ、さすがの西園寺先輩も、この巨体を持つ金剛先輩に迫力ある笑顔で迫られると、言い返すのは難しいようだ……。


「それで、仕事って?」

「実は、ついこの前、サッカー部が使う旧倉庫の中で、棚が倒れちゃったみたいでねぇ。部員やマネージャーが直せばいいんだけど、大会に向けて練習したいから、どうにかしてほしいって話が来てるのよぉ」


 それは自分達で片付けろよサッカー部。生徒会を便利屋と勘違いしてるんじゃないか?


 ……ん? サッカー部の倉庫の片づけ……そうだ! これはゲームにもあったイベントだ! このイベントでは、西園寺先輩と二人きりで話す事が出来る!


 でも、このイベントはもう少し先に発生するイベントだったはず。俺が意図的に展開を変えてしまっているから、前倒しになった感じだろうか?


 えーっと確か……ゲームだと……西園寺先輩と倉庫の片づけをしながら、話をして親交を深めるイベントだったはず。これは西園寺先輩と親しくなるチャンスだ!


「わかりました、やります!」

「やれやれ……わかった。それじゃ、イサミと一緒に行って来てくれるか?」


 ……え? 金剛先輩と一緒……に?

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