第18話 桜羽さんの過去
■ゆい視点■
ゆいは、小さい頃から親に厳しい教育をされていたんです。いつか沢山お金を稼げるようになって、自分達の面倒を見ろって言われて育ちました。
来る日も来る日も勉強や習い事の日々。でも、それが当然と思っていたので、ゆいは何の疑問も持たずに過ごしていました。
そんなゆいには、五歳年上のお姉ちゃんがいました。万能を絵にかいたような人で、優しくて、綺麗で……自慢のお姉ちゃんでした。
優秀なお姉ちゃんは、両親にとても大事にされてました。一方のゆいは……何をしても駄目……無能だったんです。だから、親から愛情を受けたことはありません。
だから、ごはんもお姉ちゃんとしか一緒に食べた事がなかったので……お二人と食べれて、凄く嬉しかった。
そのお姉ちゃんなんですが、十年前にゆいを交通事故から庇って、そのまま亡くなりました。亡くなる間際に、自分の分まで幸せになってねと言い残していきました。
両親は悲しみに暮れ、どうしてゆいが死ななかったんだと怒鳴ってきました。両親の怒りと悲しみに満ちた顔を、鮮明に覚えています……。
ゆいは思いました。ゆいがお姉ちゃんの代わりになれば、両親はまた笑ってくれるかもしれない。認めてくれるかもしれないと。
そう思って、色んな事にチャレンジしましたが……どれも上手くいきませんでした。それでも必死に勉強して、ギリギリで聖マリア学園の入試に合格し、中等部から通うようになりました。その後も、たくさん勉強を頑張りました。
でも……両親が満足するような結果は得られませんでした
それで……ついに見限られたんです。もうお前はいらないと。だからでしょうか……高校に上がるタイミングで、ゆいは家を追い出され、一人でボロボロのアパートに住まわせるようになりました。
でもいいんです。無能で、親の期待にも応えられない、お姉ちゃんの代わりにもなれないゆいには、これが丁度良いんです。これからも、ゆいは何も出来なかった罪を背負い、一人で生きていく定めなんです。
****
「…………」
桜羽さんの独白を聞いたソフィアは、悲しそうな目で顔を伏せていた。
俺としては、ゲームの中でこの話を聞くタイミングがあったため、一応大まかな事情は知っていたから驚きはしない。ただ、何度聞いても桜羽さんの両親は胸糞でしかない。
結局の所、桜羽さんの両親は自分達の都合で厳しい教育をし、無能とわかったら実の子供を切り捨てたんだぞ? どう考えても胸糞だろ。
「桜羽さん……ううん、ゆいちゃん。本当に今までつらかったね……よく頑張ったよ……!」
「そうだな。本当に一人でよく頑張った」
「え、え……? 小鳥遊さん?」
感極まって涙を流すソフィアは、包み込むように桜羽さんを抱きしめた。
「ソフィアって呼んで。アタシ達、友達でしょ? 友達なら、下の名前で呼び合ってもおかしくないよね?」
「友達……ソフィア……ちゃん」
「うんっ! あ、ハルの事も名前で全然いいから! いいよね?」
「もちろん。そうだ、俺もゆいって呼んでいいかな?」
「は、はい……大丈夫です! えっと……陽翔さん……ソフィアちゃん」
やや遠慮しがちに言う桜羽さん――じゃなかった。ゆいに、俺とソフィアは頷いて見せる。
どうやら良い方向に解決してくれたようだ。今の桜羽さんには、自分と一緒にいてくれる友達が、絶対に必要なはずだからな。
「お二人共……どうしてそんなに……優しくしてくれるんですか? ゆいは……死んじゃった方がよかったような、いらない子なんですよ……」
「それはあくまで、ゆいの両親が言った事だろう? 俺もソフィアも、そんな事は絶対に思わないし、それが仲良くしない理由にはならないから」
「陽翔さん……」
ゆいは俺の名を呟きながら、長く伸びた前髪に隠れた目から、一筋の涙が流れた。
こんなに健気で優しい子が、ずっと一人ぼっちだったんだと思うと、胸が強く痛む。絶対に、ゆいには幸せになってもらいたい。
そのためにも……待ち受けてるバッドエンドは、絶対に俺の手で回避してやる。
「ぐすっ……ゆい、本当に嬉しいです……陽翔さん、ソフィアちゃん……これからよろしくお願いします……!」
「ああ、よろしくな」
「うん! あ、ほらゆいちゃん! 嬉しい時には泣くんじゃなくて、笑うんだよ! こうやって……ニコーッ!」
「こ、こうですか……?」
出会ってから始めてゆいの口角が上がってるをの見たな。しかし、前髪で目元が大きく隠れているせいで、本当に笑ってるかはやや判断に困る。
「う~ん、ちょっとこっち向いてね」
「ソフィアちゃん……? きゃあ!」
「はい、これで良く見えるね!」
ソフィアはポケットから髪留めを取り出すと、それを使ってゆいの前髪をまとめた。それにより、やや垂れ目ではあるが、大きなオレンジ色の目が外界に晒された。
ゆいの顔については、ゲームをしていたから知ってはいたが……まさに癒し系の美少女って感じだ。超可愛い。
え? ソフィアや西園寺先輩の事を褒めておいて、ゆいも褒めるなんて不誠実? 三人共推しなんだから、そこは見逃してくれ!
「そ、ソフィアちゃん! 恥ずかしいよぉ……!」
「か、可愛い……! ゆいちゃん、お人形さんみたいだよ! ハルも可愛いって思うよね!」
「そうだな。凄く可愛いと思う」
「っ……!!」
俺とソフィアに褒められたゆいは、みるみると顔を真っ赤にさせながら、髪留めを取ってしまった。
うーん、髪留めをしてるほうが似合っていると思うんだが……残念。まあ一歩前進したって事で、良しとしよう。
「ところでゆい、さっきから俺のことをじっと見てるけど、何か顔についてるか?」
「あ、い、いえなにも!」
「そうか。なんか顔赤いし、体調悪いなら無理はするなよ?」
「はい、ありがとうございます! はぁ……なんなんだろう、胸の奥がソワソワする……」
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