第13話 天条院、再び

「見て、またあの子と登校してるわよ」

「もしかして、なにか弱みでも握られてるんじゃないかしら……」


 高校生活二日目。今日も相変わらず周りの生徒達の視線は冷たい。校門でこれなんだから、校舎の中に入ったら、なおさら酷くなるのは目に見える。


 まあ、ぶっちゃけゲームをやってたプレイヤーの俺からしたら、こうなるのは分かりきってたから、そこまで気にしていない。


 それよりも問題なのは……。


「何あの子達! アタシ、ちょっと文句言ってくる!」

「おいやめろ」


 見ての通り、ソフィアがめっちゃ怒ってて、俺が止めないと本当に文句を言いそうな勢いなんだ。


 俺のために文句を言いに行ってくれるのは嬉しいけど、そんな事をしたらソフィアの立場が危うくなる。俺のせいでそんな事になるのは避けたい。


「だってハルは何も悪くないのに、男子ってだけで変な目で見られるのはおかしいよ!」

「まあそれだけが理由じゃないが……仕方ないさ。それに、俺にはソフィアっていう理解者がいるから大丈夫」

「ハル……」


 ソフィアを説得する意味もあるが、これは俺の本心でもある。なにせ、前世でいじめられていた時は、完全にぼっちだったから、一人でも一緒にいてくれる人がいるのは、本当に嬉しいんだ。


「それじゃ、アタシがた~くさんハルの理解者になるよ!」

「ああ、ありがと――だからってくっつかなくていいから!」


 これ幸いにと、ソフィアは嬉しそうに腕に抱きついてくる。だから外で、しかも学園でベタベタくっつかないでほしいんですが!


「あらあら、朝からゴミが騒いでいてうるさいですわね~! 全く、気持ちのいい朝だというのに、目障りですこと!」

「……天条院」

「貴様! 天条院様を呼び捨てにするなんて、無礼にもほどがあるぞ!」


 せっかくソフィアと一緒に登校していたのに、見たくもない奴が邪魔してきやがった。


 朝からわざわざ絡んでくるなんて、随分と物好きな奴だな。ていうか、呼び方を指示される覚えなんてないんだけど。


「彼は庶民ですから、呼び方のマナーも知らないんですのよ。だからあんまり真実を突きつけてはいけませんわ」

「なるほど、さすが天条院様! なんと聡明ですこと!」

「そうでしょう? なにせワタクシは将来日本を引っ張る、偉大な人間だから当然ですわ! おーっほっほっほっ!!」


 ……俺達は何を見せられているんだろうか? 三文芝居か?


 ゲームをプレイしてる時も、こいつら本当に痛い連中だなって思ってたけど、改めて冷静にリアルで見ると、痛すぎて可哀想になる。


「三文芝居は終わったか? それじゃ俺達は教室に行くから。ソフィア、行こう」

「なっ……!? ワタクシに声をかけてもらえるのが、どれほど光栄な事かもわからない程の無能なんですの!?」

「ハルは無能じゃないもん!」

「ソフィアが怒るような価値のある人間じゃないから、怒るだけ無駄だ」

「貴様ぁ……どこまで天条院様を侮辱すれば気が済む!」

「最初に侮辱してきたのはそっちだろ? 人にされて嫌な事は、自分からやらない事だな」


 俺に正論を言われて何も言い返せなくなったのか、取り巻き達は俺の事を恨めしそうに睨みつけてきた。


 そんな中、天条院だけはよそ見をしながら、不敵な笑みを浮かべていた。


「ふんっ、忌々しい男だこと。まあいいですわ。ワタクシ、急用を思い出したのでこれにて失礼いたします。ごきげんよう」


 もっと言い返してくるかと思っていたが、天条院は取り巻きを置いて何処かへと足早に去っていった。


 ふう、今日は思ったよりも絡んでこなくてよかった。一応ゲーム通りに行けば、あまり絡んでこないのは分かっていたが、既に流れが結構変わってきてるから、不安ではあったんだよな。


「ゲーム……あれ、確かこの後は……」

「ハル?」

「そうだ、あのイベントがあるじゃないか。ソフィア、先に教室に行っていてくれ」

「は、ハルー!? どうしたの! 待ってよ~!」


 俺はソフィアに一言言ってから、天条院の後を追って走りだす。


 昨日は寝不足と疲れでやらかしてしまったけど、今日は一応寝れたから少しは頭が働いてる。そのおかげで、この後の展開を思い出せた。


「ソフィア、教室に行ってろって言っただろ」

「ハルが急に走りだすから、心配でついてきたんだよ!」

「……なら、静かにしてろよ」

「え? う、うんわかった」


 このまま言い争いをしていたら、これから起こる出来事を止める事が出来ない――


 そう思った俺は、ソフィアと一緒に天条院の後を追うと、奴は歩いていた一人の女子を無理やり引っ張り、校舎裏へと連れ込んだ。


「あ、あれ……もしかして昨日の……桜羽さん?」

「ああ」

「でもどうして? なんか無理やり手を引っ張って連れてきた感じがするけど……」

「見てれば分かる」


 物陰から二人を観察していると、天条院は桜羽さんを壁に叩きつけた。そして、倒れこんだ桜羽さんに、遠慮なしに暴行を加え始めた。


「ああイライラする……あの男、選ばれし人間に向かってあんな態度を取るなんて、思い出しただけでイライラが止まりませんわ!」

「やめっ……乱暴しないで……」

「うるさい! あなたみたいな根暗で無能な人間は、ワタクシのストレスの捌け口になるのがお似合いですわ! むしろ感謝されて然るべきなのよ!」

「ひ、酷い……!」


 ソフィアの言う通り、確かに酷い事だ。わざわざ人気のない所に大人しい子を連れ込んで、ストレス発散とかいう自分勝手な理由でボコボコにするなんて、最低な事だ。


「俺、止めてくる」

「アタシも行く! あいつ許さないだから!」


 俺が止める前に、ソフィアは勢いよく飛び出していってしまった。


 本当は巻き込みたくなかったんだが……ゲーム通りになれば、ソフィアに危険はないはずだ。


 さてと、ここはゲーム通りになってほしい所だが……俺がゲームと違う事ばかりしてるから、ここも変わってしまっている可能性も否定しきれない。油断せずにいくぞ!

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