第14話 また助けてくれた……?
「そこー! 弱い者いじめは良くないんだよ!」
「え……?」
「誰かしら、ワタクシの邪魔をするのは……って、またあなた達ですの!? 本当に忌々しいですわ!」
俺より先に飛び出したソフィアは、ビシッと指を刺しながら、高らかに止めに入る。それに対して、天条院はヒステリックのように騒ぎ立てていた。
「こんな人気のない所で、自分に絶対に逆らわない人間を連れ込んで暴力だなんて最低だな」
「何を言ってるますの? 彼女は人間じゃないですわ。彼女はただのゴミですのよ」
まるで馬鹿にするように嘲笑しながら、天条院は倒れている桜羽さんを踏みつけた。
「やめて! ゴミって……! どうしてそんな酷い事が言えるの!?」
「あらあら、無知ほど恐ろしいものはありませんわね。ワタクシは事実を述べているにすぎないというのに」
「どういう事!?」
「彼女はあまりにも無能ゆえに、両親に捨てられるように家を追い出された、まさにゴミそのもの。そんな彼女がワタクシのストレスの捌け口になれるのだから、礼を言われても良いくらいですわ」
天条院の言葉に呆気にとられるソフィアは、俺に助けを求めるように服の裾を掴んできた。
俺はゲームをプレイしていたから知っているが、これは天条院の言う通りだ。桜羽さんは、毒親のせいで自分を卑下するようになり、家を追い出されて一人暮らしをするようになった。
……とはいえ、それを本人の前でわざと言うなんて気に入らないし、どう聞いても下に見ているようにしか言っていないこいつを、許す事は出来ないが。
「お前がいかに凄い人間だろうと、桜羽さんを侮辱していい理由にはならない」
「それは間違ってますわ。力無き者は、力がある者に逆らえない。これは自然の摂理。ですから、ワタクシに何をされても、彼女に反抗する資格はありませんわ! おーっほっほっほっほっほっ!!」
「力、ね……弱い者を狙っている時点で、強者がするような事じゃないな。それをやるのは、自分が弱いから、より弱い者を虐げて快楽を得るだけの弱者だ」
「っ……! ほ、吠えるのだけは一人前ですこと! さて、ワタクシは忙しいからそろそろ失礼するわ! ごめんあそばせ!」
俺に言い当てられてよほど悔しかったのか、天条院は歯ぎしりをしながらその場を去っていった。
全く、言い返されて悔しい思いをするくらいなら、最初から調子に乗らなければいいものを。
「桜羽さん、大丈夫?」
「磯山さん……小鳥遊さん……だい、じょうぶです……」
「大丈夫じゃないよ! 早く保健室に行こう!」
「そうだな。あれだけ蹴られたり踏まれたんだ。どこか怪我しててもおかしくない」
「え……? その、ゆいは大丈夫ですから……」
「いいから、ほら乗って」
俺は桜羽さんに背中を向けてしゃがみ込むと、観念したのか桜羽さんは素直に俺の背中に体を預けた。
ゲームでは、肩を貸して運んでいたんだけど、そんな事をしてたら時間がかかってしまう。授業に遅れる訳にもいかないし、おんぶでさっさと運んだ方が良いと踏んだわけだ。
「しっかり捕まってて」
「は、はいっ」
桜羽さんは、ぱっと見は小柄で、胸があまりないように見えるが、実は相当なものを持っている。だからなのか、背中に伝わる柔らかさがかなりのものだ。
って、いかんいかん。変な事を考えてないで、早く桜羽さんを保健室へと連れていかないと。
「その……磯山さんの背中って大きいんですね……それに、あったかい……」
「そうかな? 普通だと思うけど……」
「あったかいです」
そう言いながら、桜羽さんは俺の首に回している両手に力を入れていた。
あったかい……か。もしかしたら、毒親にあまり愛されないで育ったっていう設定だから、人の温もりが心地いいのかもしれないな。
****
「お待たせ、終わったわよ」
「ありがとうございます」
保健室に桜羽さんを連れてきた俺とソフィアは、二人で保健室の隅っこにある椅子に座っていると、養護教諭が手当てを終えて桜羽さんと一緒に来た。
「それで、なにがあったのかしら。制服に踏まれた後とかあって、ただ事ではないんだけど」
「あー……なんて言えばいいか……」
真実をありのままに言うのは簡単だ。でもそれで天条院に逆恨みをされて報復でもされてみろ。俺にやるならまだしも、あいつならソフィアや桜羽さんに手を出すだろう。しかも、もしそうなったら西園寺先輩にも迷惑をかけてしまう。
「もしかして、君がやったんじゃないでしょうね?」
「そ、それは違いますっ!」
俺とソフィアが否定をする前に、桜羽さんが声を張って否定をしてくれた。
基本的に大人しい子だって認識だったから、急に大声を出されたらビックリした。
「い、磯山さんと小鳥遊さんは、ゆいを助けてくれたんです! しかも昨日と今日で二回も!」
「そ、そうだったのね。ごめんなさいね、誤解しちゃって」
「いえ、大丈夫です。それじゃそろそろホームルームなので失礼します。ソフィア、桜羽さん、行こう」
俺達は養護教諭に改めてお礼を言ってから、保健室を後にする。すると、桜羽さんが俺達の服の裾を控えめに引っ張ってきた。
「あの、二度も助けてくれて、ありがとうございました」
「気にしないでくれ」
「それよりも、傷は本当に大丈夫?」
「はい。思ったより痛くないです……。その、二度も助けてくれるなんて、二人はお人好しさんなんですか?」
これは……嫌味とかではなく、純粋な疑問だろう。桜羽さんからしたら、自分のような人間が二回も助けられるのが信じられないんだろうな。
「アタシもハルも、普通の事をしてるだけだよね?」
「ああ、そうだな」
「そうなんですね……凄いです。ゆいのような、誰の期待にもこたえられない、駄目で生きていちゃいけないような人間も救えるなんて……」
「それは違うぞ、桜羽さん」
「きゃっ……い、磯山さん?」
俺は桜羽さんの手を包み込むように握ると、小柄な彼女の目線に合わせるために、少し屈んで見せた。
「いらない人間なんて、この世には誰一人としていない。必ず何かしらの役目を持っているんだ」
「役目……?」
「そう。俺の役目は、学園の共学化の第一歩として日々生活する事」
「役目か~……アタシはハルを献身的に支えてあげる事かな!」
「な? こうやってみんな役目はあるんだよ」
「なら……ゆいの役目はストレスの捌け口……?」
「それは違う。役目は自分でこれをしよう、やり遂げようと思うものだ。桜羽さんのそれは、他者に無理やり与えられたものじゃないか?」
俺がそこまで言って理解したのか、桜羽さんは難しそうな顔をしていた。
ここで答えを言うのは簡単だが、すぐに答えを出したりはしない。それでは桜羽さんの為にはならない。
「ゆいの……役目……二人と……仲良しに……」
「え?」
「あ、あわわわわ! な、なんでもな――」
「仲良しが役目なんてサイコーだね! それじゃ、今日からアタシ達はお友達ね!」
「お。お友達……? ゆいと、磯山さんと、小鳥遊さんが……?」
「そういう事だ。嫌か?」
「嫌じゃないです! お友達なんて……嬉しくて……」
「も~泣かないの~! 桜羽さんには笑顔が似合うから!」
強引に決めたソフィアは、嬉しそうに桜羽さんにハグをして喜びを表現していた。
まあ、本当は最後まで桜羽さんの口から聞きたかったけど、今はソフィアの優しさと、桜羽さんが前進できた事を喜ぼう。
そして、今回は大方ゲーム通りだったけど、この調子で良い方向にシナリオを変えていけば、ゲームとは展開が変わっていくに違いない! 絶対に三人を救ってみせるぞ!!
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