第11話 一緒に寝よっ!

「ふぁ~……ねっむ」


 最後の最後までイベント盛りだくさんの一日を乗り越え、ベッドに寝転んだら急激に眠気が襲い掛かってきた。


 このまま寝ちゃいたいけど、その前に俺には考えておくことがある。それは、今後の俺の過ごし方についてだ。


 さっき風呂の中でも思った事だが、俺の行動次第でゲームの展開とは違う未来になるようだ。もしそれが正しいなら、俺が意図的にバッドエンドを回避させる事が出来るはずだ。


「少なくともグッドエンドの方面に持っていくようにすれば、バッドエンドは回避できる可能性が上がるんじゃないだろうか?」


 バッドエンドを回避する方法。普通のギャルゲーなら、好感度が足りない結果、バッドエンドになるというのが鉄板だ。


 ――それなら。


「……三人と仲良くなって、少しでもバッドエンドの未来に向かわないようにすればいいんだな?」


 ソフィアに関しては元から仲良しだから良いとして、問題は残りの二人だ。西園寺先輩には警戒されてるし、桜羽さんには怖がられているのが現状だ。


 ゲーム通りに行けば、二人共少しは親しくなれるのは確かだが、それではバッドエンドを回避できるほどの好感度にならないだろう。もっと早い段階で、より仲良くならないといけない。


 まあ……思うのは簡単だが、実際はかなり難しそうだ。


「自信はないけど、可能性があるならやるしかないよな。もしかしたら、俺の行動のせいで未来が大きく変わって、更に酷いバッドエンドになってる可能性もあるし」


 ……自分で言ってて怖くなってきたぞ。俺のせいでもっと酷いバッドエンドになったら、二度と立ち直れない気がする。


「とにかく行動あるのみだよな。その最初の一歩として、まずはソフィアにさっきの事をちゃんと謝らないと」

「ハル、ちょっといい?」


 とりあえず今後の方針が決まった直後、ドアをノックする音と共に、ソフィアの声が聞こえてきた。


 まさか向こうから来るのは想定外だった。こちらから行く手間が省けたけど、まだ心の準備が出来ていない。


「そ、ソフィア? どうぞ」


 部屋に入ってきたソフィアは、動きやすいようにTシャツに短パンを履いていた。ついでにその手には、少し大きめの枕が握られている。


 さっきあんな事があったせいで、ソフィアを見るだけで緊張してしまう。


 いやいや、何を考えているんだ俺は。ついさっき仲良くならないとって決めたばかりじゃないか。緊張してないで、ソフィアとちゃんと話さないと。


「ソフィア! さっきは本当にごめん!」

「え、ハル!?」


 俺は自分でも驚くほどの早さで、ソフィアの前で深々と土下座をする。


 いくらソフィアから入浴してきたとはいえ、俺の行動や咄嗟の判断力の無さで、ソフィアの大切な所を触りまくってしまったんだ。これくらいするのは当然だ。


「あ、頭を上げてよ! ハルは悪くないから! 悪いのはアタシ! 本当にごめんなさい!」

「いや俺が悪い! 俺がもっとしっかりしていれば、ソフィアに恥ずかしい思いをさせずに済んだ!」

「違うって! アタシが調子に乗ってハルに甘えすぎたからだよ!」

「俺が悪い! ソフィアは悪くないから!」

「いーや! アタシが悪い!」

「俺だ!」

「アタシ!!」

「「むむむむ~……ぷっ!!」」


 互いが自分の非を言い合い、そして睨み合うという謎の空間が出来てから間もなく、俺達はほぼ同時に噴出してしまった。


「あはははっ! もう、アタシ達何してるんだろうね!」

「全くだな」

「あー笑いすぎてお腹痛い! このまま言い争ってても仕方ないし、二人共悪かったって事にしない?」

「そうだな。本当は俺の方が悪いけどな」

「アタシの方が悪いですー!」


 いかんいかん。このままじゃまた言い争いになってしまうな。俺が悪いのにソフィアまで悪い事になるのは納得いかないが、グッと我慢をしよう。


「それで、ソフィアはなんで枕を持ってきたんだ?」

「あ、うん。仲直りとして、一緒に寝たいなーって思って!」


 ソフィアはベッドの縁に座りながら、ニコリと微笑む。


 ……うん? 仲直りのために一緒に寝るってどういう発想だ? 年頃の女の子と一緒に寝るなんて、普通に考えて駄目だろ!


 ていうか、一緒に寝るイベントがこんな序盤にあった覚えがないんだけど!? 俺が知っているのだと、リビングで互いに謝って仲直りって展開だったはず!


 いやでも……一緒に寝るイベントはあったような……そうだ、これってもうちょっと後に発生するイベントだった!


 やっぱり未来が変わってる……もしかして、さっきの風呂での出来事が本来の流れと変わったから、ここも変わったって事か!? こんなにがっつり変わるものなのか!?


「いやいやいや! ソフィアは昨日使った父さんのベッドに寝てくれ!」

「えー! 昔みたいに一緒に寝ようよ!」

「俺達の歳考えろって!」

「う~……!」


 ソフィアは恨めしそうに俺の事を睨みつける。その目にはうっすらと涙まで溜まってる特典付きだ。


「くっ……じゃあ一緒の部屋で寝るのはいいとして、ベッドはソフィアが使ってくれ。俺は床で寝る」

「やだっ! 一緒にベッドで寝るの!」

「急に子供みたいになるなって! 仲直りならもうできてるから、一緒に寝る必要は無いって! そもそも喧嘩した覚えもないけど!」


 なんとかソフィアと一緒に寝ない方向に持っていこうとするが、想像以上にソフィアは頑固で、首を縦に振らない。


 いやわかってるよ? ここで一緒に寝た方が、ソフィアとの好感度が上がるって事くらい。でも……それを盾にして年頃の女の子と寝るなんて、やっぱり良くないと思う!


「う~……!」

「…………」

「……じー……」

「…………………………」

「……ぐすんっ」

「くっ……わ、わかった」

「やったー!」


 だ、駄目だ。俺、自分で思ってる何千倍もソフィアの涙に弱い。あんなに悲しそうな顔をされたら、絶対にノーって言えない。こんな所で推している弊害が出るなんて……。


「えへへ、ハルと一緒に寝るなんて何年振りかなー? 嬉しいなー♪」

「そ、それはよかったな」

「うんっ!」


 うっ……笑顔が可愛すぎて、これ以上文句を言えそうもない。今日は寝れないのを覚悟するしかない。二日連続で寝不足が確定だ。


 まあ、寝不足と引き換えに嬉しそうなソフィアが見れたから、それでよかった。そう思う事にしよう。


 ――あれ、また何かを忘れてる気がする。よく思い出せ俺。さっきみたいに思い出した時にはもう遅かったーなんて笑い話にもならない。


「はふぅ……眠いなぁ」


 俺はベッドの上であぐらを組み、目を閉じながら頭をフル回転させる。


 ソフィアと一緒に寝るイベント……確かに何かあったはず。くそっ、疲れと寝不足で頭が回らない! よく考えろ俺!


「もう寝る準備しておこうかな~」


 寝るイベント……ソフィアと……うーん……うーーーーん……そうだ、思い出したぞ!!


「ソフィア、寝る前に聞きたい事が――」

「え、なぁに?」

「っ!?!?!?」


 振り返った時は……やはり遅かった。そこにあったのは、脱ぎ棄てられたソフィアの服と、本日二度目の生まれたままの姿のソフィアの姿だった……。

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