第10話 お風呂パニック!

「うわぁ!? ご、ごめん!!」


 ソフィアが入ってくるのを止めようとしたタイミングと、ソフィアが入ってきたタイミングが完全にぶつかってしまった。急いで目を逸らしてからお湯に顔まで浸かるが、そんなのは当然意味がない。


 くっそ……なんだよあのダイナマイトボディ!? はち切れんばかりのおっぱいが、入ってきた時の動きで小さくたゆんと揺れていて……もう色々ヤバい。


 くびれのあるお腹はめっちゃ綺麗だし、ちょっと肉付きがよさそうな太ももも魅力的……いやいやいや! 俺はなにソフィアの体の解説をしてるんだ!?


 そうだ、こういう時は素数を数えよう。3,1,4,1,5,9,2,6,5,3……ってこれ円周率じゃねーか! パニックになり過ぎだろ俺!


「ハル? どうかしたの?」

「な、なななな、ナンデモナイヨ!?」

「どうしてカタコト? 変なハル。ふふっ」


 ソフィアはなにも恥ずかしく無いのだろうか? 普通にシャワーで体と髪を始めたぞ。


 これ、気にしてるのは俺だけ……? いや違う。確かソフィアには致命的な弱点があったはずだ……うーん、なんだったかな……もう少しで思い出せそうなんだが……緊張で頭が働かない!


「前、失礼するね~」

「ちょわっ!?」

「もう、さっきから変な声出して~。新しい一発ギャグ?」

「べ、別にそういうつもりじゃ!」


 ソフィアは浴槽の中に遠慮なしに入ると、俺の対面に座った。対して俺は、両目を固く閉ざす事で、ソフィアの裸体を見ないように努めるしか出来ない。


 俺達の間には、遮る物なんて何もない。そうなると、必然的にソフィアの裸を見てしまう事になって……うぅ……こんなの反応するなって方が無理だろ! もしさっきの不良が同じ立場になったら、即座に襲い掛かってると思うぞ!


「な、なあ。どうして入ってきたんだ?」

「え? だって家族みたいなものなんだし、一緒に入るのは普通だよ?」


 ま、まあ確かに小鳥遊の家の人とは家族ぐるみで交流があったから、ある意味家族みたいなものだけど……だからって、年頃の男女が同じ風呂に入るのは良くないでしょう!


「そ、それじゃ俺先に出るから!」

「まだ温まってないでしょ! ちゃんと肩まで浸かって!」

「い、いやでも! 俺、ソフィアと一緒に入るの、恥ずかしいんだけど!」

「えー? 昔は一緒に何度も入ったじゃん?」

「それガキの頃の話だから!」


 意地でも出ようとしたが、ソフィアに引っ張られて浴槽に戻されてしまった。あぁ……ソフィアの手、暖かくて少し柔らかくて……いや堪能してる場合じゃないだろ!


「ハル、なんで目を閉じてるの? お話する時は、相手の目を見なきゃ駄目だよ。ほら、目を開けて」

「そ、そういうわけには……」

「もしかして、裸を見るのが恥ずかしいとか? それとも緊張? 大丈夫、小さい頃に何度も見たでしょ? ちなみにアタシは全然大丈夫だけど!」

「今と昔は全然違うだろ!?」

「も~、文句ばっかり! ほら目を開ける! せーのっ!」


 ソフィアの声に合わせるように、俺はゆっくりと目を開けると、微笑みながら俺の事を見つめるソフィアの顔が見えた。


 温まって体が火照っているのか、赤みが帯びた顔はとても色っぽいし、可愛い。目も吸い込まれてしまうんじゃないかと思うくらい綺麗で、見ているだけでドキドキする。


「ね、問題ないでしょ?」


 いや、どう考えても大問題なんですがそれは。


「うーん、まだ緊張してる? そういう時にはね、良い方法があるんだよ!」


 な、なんだろう。俺の直感が叫んでいる。この良い方法というのは……危険な事だと。


 だが、そう思った時にはすでに遅かった。俺の前にいたソフィアは、俺に背中を向けると、なんとそのまま俺の胸に寄りかかってきたのだ!


 は、裸のソフィアが……推しキャラがこんな間近にいるなんてぇぇぇぇぇぇ!! 俺ここで死ぬんじゃないか!? こんな美少女と混浴なんて、世の中の男子達の殺意によって殺されるってー!!


「緊張してる時は、こうやってくっついてもらうとほぐれるんだよ!」

「お、おうそうだな……ほ、ほぐれたヨ……」


 極度のドキドキと緊張で、思わず同意してしまった……。これヤバすぎる……柔らかいし良い匂いするし……離れてほしいような、ほしくないような……もうどうすればいいんでしょうか!? ダレカタスケテー!


「そっか、ならよかった~。ねえハル、ちょっと滑り落ちそうだから、支えててよ」

「支えるって……?」

「こうやるの」


 俺は目の前で背中を向けて座るソフィアに両手を掴まれると、そのままソフィアのお腹の所にまで持っていかれた。


 あーなるほどね! こうやって俺がお腹を支えておけば、ソフィアがずり落ちる事がなくなるってわけか! 天才だなー!


 ……じゃねええよ!! 俺、女子高生のお腹触っちゃったよ!? すごいすべすべで、それでいてちょっとモチっとしてて……。


「なんか失礼な事考えてない?」

「考えてないよ!」


 こわっ、モチっとの所でソフィアが即反応したぞ。きっとお腹の事を気にしてるんだろうな……あまり触れないでおこう。


 それにしても……このイベントは、いわゆるサービスシーンだから印象に残ってたんだけど、疲れのせいで完全に頭から抜け落ちていた……。


「ハル、なんか変に離れてない? もっとこっちこっち!」

「や、やめ! これ以上は!」


 ソフィアが無理にもっと密着しようとしたせいで、ソフィアは俺の下腹部辺りにピッタリとくっついた。


 それだけならまだしも、その動きのせいで、ソフィアの腹に置いておいた手が上にずれて……その、おっぱいをモニュンと……その、鷲掴みに……。


「きゃっ!?」

「あっ……ソフィア、その……ごめ……」

「あ、あうあう……その……ハルにならいいけど……でも……はううううう!!」


 まるでイチゴのように顔を真っ赤にさせるソフィア。


 実は彼女、自分から俺にくっついたりするのは平気なのだが、俺から何かすると、途端に恥ずかしがってしまうという、防御よわよわ少女だったりする。


「とりあえず落ち着いて、俺からいったん離れて!」

「う、うう、うん! ひゃん!」

「危ない!」


 背を向けたまま急いで立ち上がったが、足に力が入っていなかったのか、倒れそうになったソフィア。そんなソフィアを助けるために、俺は咄嗟に手を伸ばして支えようとする。


 その咄嗟の行動のおかげで、ソフィアは転ぶ事はなかった。しかし、その代償はあまりも大きかった。


「「あ、あわわわわ……」」


 俺達の震える声が見事に重なる。それもそのはず、俺の伸ばした両手は、ソフィアの大きくて引き締まったおしりを鷲掴みにしていたからだ。


 な、なにをやっているんだ俺はー!? おっぱいに続いておしりまで……こ、こんなのいくらソフィアでも怒るに決まってる!


「ご、ごめん! わざとじゃないんだ!!」

「きゃん!!」

「ふむっ!?」


 とにかく早くソフィアのおしりから手を離さないと――その一心で両手を離したら、支えが無くなったソフィアがそのまま倒れてきた。


 そして……俺が支えていたおしりが、俺の顔面に目掛けて突っ込んできた。


「いったぁ……あっ!? ハル、大丈夫!?」

「ぷはぁ……だ、大丈夫だ……ソフィアも怪我はないか?」

「う、うん大丈夫! その、本当にごめんね! アタシ、先に出てるから! ごゆっくりぃぃぃぃ!!」


 ソフィアは顔を真っ赤にしたまま、逃げるように浴室を後にした。


 はぁ……と、とりあえず……めっちゃ照れてはいたけど、怒らせたり嫌われてはなさそう……だよな?


「これで嫌われてバッドエンド直行とかになったら、それこそ転生した意味が無くなってた……」


 普通に考えれば、男として超かわいい女の子……しかも推しとなれば、おっぱいやおしりを触ったり、くっつかれたりするのはご褒美だろう。


 でも、今の俺からしたら、極力嫌われるような事は避けたいというのが実情だ。


 それと、純粋に恥ずかしいから勘弁してほしいというのも本音だけどさ。


「って、あれ?」


 そういえばこのイベント、記憶が間違ってなければ、主人公がソフィアを何とか追い出そうとするけど、全然折れないから、主人公が折れて一緒に入るか、それでも頑なに拒むかって展開になるはずだ。


 でも、ゲームではどちらを選んでも、おっぱいを揉みまくることも、おしりダイブされる事も、ソフィアが照れて逃げる事もない。


 やはり、本来のゲームの展開とはかなり変わってきている……という事なのだろうか?

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