第7話 退学

「会長、磯山君を連れてきました」


 突然やって来た女子に連れられて、俺は生徒会室へと連れて来られた。


 ここまで来てやっと思い出したぞ。さっき忘れていたイベントはこれだ。内容はあまりよく覚えてないけど、急に呼び出されるというのは覚えていた。


 え、プレイしてるのに、内容を覚えてなさすぎじゃないかって? バッドエンドがつらくてそこばかりが印象に残っちゃってるんだよ。


 それに、前世の記憶を全て思い出したわけじゃないから、抜けてる部分も多い。あと寝不足で頭が回ってない。


「ご苦労。急に呼び出してすまなかったな、磯山君」

「いえ」


 生徒会室に入ると、窓際にドンっと置かれた生徒会長の席に座る、西園寺先輩に出迎えられた。その両脇には、他の生徒会メンバーと思われる人が立っている。


「君に少し話があってね。そこにかけてくれ。お隣の君もどうぞ」

「わかりました。ソフィア、こっちおいで」

「うん」


 俺はソフィアと一緒に、生徒会室の端っこにあったソファに腰を掛ける。


 ちなみにソフィアがいる理由だが、単純に俺が心配でついてきてくれたようだ。一人ぼっちじゃないと思うだけでも、心に余裕が出てくるから、とてもありがたい。


「今お茶を用意しているから、少し待っていてくれ。っと、噂をすれば」

「はぁ~い。おっまたせ~」

「ひゃあああ!?」


 隣の部屋から、一人の人物が紅茶を持って現れた。それはいいんだが、現れた人物を見たソフィアが悲鳴を上げながら、俺の腕に力強く抱きついてきた。


 驚くのも無理はない。俺だって驚いてしまったんだからな。


 何故って? 紅茶を運んできた人が、二メートルはありそうな巨体でマッチョ、挙句にアフロでタラコ唇という、とんでもない見た目をしているからだ。


 そうだ、こんなすっごい見た目のキャラクターいた! 攻略対象じゃない……いわゆるモブキャラのはずなのに、立ち絵があったから印象に残ってる! こうして目の前にいると、とんでもない迫力だ!


「あらぁ~驚かせちゃったかしらぁ~?」

「君の見た目は少々刺激的だからな。初見の彼女が驚くのも無理はない」

「それもそ~ねぇ! アタクシ金剛っていうの! 副会長を務めてるのよぉ~ん。あ、ちなみに二年よぉ」


 金剛と名乗った彼女は、少し前かがみになりながら、俺達に投げキッスをしてきた。


 なんていうか、あまりにもキャラが濃すぎる。ギャルゲーには濃いキャラがいるのは鉄板のネタだけど、この人はレベルが違う。テンプレのゴリマッチョ系女子だけど、それを究極まで突き詰めたような……そんな感じだ!


「まあとりあえず、紅茶でも飲んで落ち着いたらどぉ~かしらん?」

「そうですね。いただきます」

「いただきますっ……あ、おいしい……」

「それはよかった。お茶菓子も用意してあるから、ぜひ食べてくれ。私のイチ押しのクッキーでね。彼女達にもいつも好評なんだ」


 そう言いながら、西園寺先輩は俺達の対面に腰を下ろす。


 こうして改めて正面から見ると、本当に綺麗な人だ。一つ一つの動作が洗礼されているのもあり、一度見たら目を離せなくなるように魅力がある。


 ……この人もプレイしてる時かなり好きだったんだよな……学園のために頑張ってるところとか、凛としてて凄くカッコイイところとか、凄い好きだった。


「西園寺先輩、話とは何でしょうか?」


 俺が真面目な声色で話しかけると、お茶とクッキーのおいしさで少し顔が緩んでいた西園寺先輩の顔が引き締まった。


「我々生徒会は、学園に男子を入れる事には反対していてね。この時期の男子は多感な頃……女子に囲まれ、いつ性欲に負けて襲い掛かるかもわからない。いわば我々は、時限爆弾を抱えているようなものだ」


 ずいぶんと物騒だな。ていうか、俺ってそんなにどこでも発情するサルみたいに思われてんのか? それはちょっとショックだ。


「それに、百年以上続く伝統のある学園を変革する事も良しとしていない」

「つまり、何が言いたいんですか?」

「そうだね。単刀直入に言うと、私達生徒会の意志は、君にすぐに学園から出ていってもらいたいと思っている」


 遠慮なしにズバッと言い切った西園寺先輩の言葉に、隣でソフィアが小さく「え……?」と漏らしていた。


「とはいえ、いきなり退学にするのはあまりにも理不尽過ぎる。なので、これから君が過ごす中で問題を起こしたら、すぐに退学、もしくはそれに類ずる事をするように理事会に申し出た。これに関しては、了承を得ている」

「そ、そんな! 退学なんて! ハルはおばさんに頼まれて……」

「それは承知の上だ。だが、我々は学園の平和を守らなければならない義務がある。それを乱すのが磯山君だったら、生徒会は君の敵になるという話だ」


 そうだった、こんなイベントだったな……確かゲームの中の主人公は、オロオロしながらも、とりあえず目をつけられないように隅っこにいよう……ってなったはず。


 まあ俺はそんな事はしない。俺は大丈夫という、しっかりとした誠意を西園寺先輩に見せておきたい。


「先輩! 陽翔はそんな事をするような人じゃないです! 小さい頃から一緒だったアタシが保証します! だから――」

「わかりました。こちらとしても、せっかく入学した学園が混乱するのは良しとしません。もしなにかあれば、その時は遠慮なく」

「ハル!?」


 心の中で、ソフィアが庇ってくれてる事に感謝をしながら、俺は西園寺先輩を真っ直ぐ見つめる。


 ここで怯んで逃げたら、相手には何も伝わらない。これでもいじめっ子から逃げずに、一人で立ち向かった事もあるんだ! 西園寺先輩もバッドエンドから救うって決めてる俺が、これくらい立ち向かえないでどうする!


「ほう。随分と潔いな」

「俺がクラスメイトや、他の人から悪い意味で意識されてるのは事実です。学園のよりよい生活のため、学びのため、俺が邪魔になるようでしたら、いつでも」

「ふむ。随分と真面目で、殊勝な心掛けだな。男だなんてと思っていたが……まあいい。問題を起こさないことを祈っているよ」

「ありがとうございます。あ、もし今朝の人が絡んできたら?」

「天条院か……あいつは中々に面倒でな。絡んできたら、相手にしないで離れた方が良いだろう」

「あの! あの人も学園の平和を乱してる気がするんですけど!」


 話に割って入るように、ソフィアは勢いよく立ち上がって声を荒げた。


「確かに彼女の言動には難がある。実際に昔から問題児として扱われていた。だが……知っていると思うが、彼女のバックには議員の天条院が控えている。大事にして報復でもされたら、学園の存続に関わる可能性がある」

「そんな……」


 西園寺先輩の言う事も一理あるな。あの自分勝手な思考では、逆恨みをしてくる可能性は大いにある。しかも権力のあるのが厄介だ。


「まあ、我々も彼女をずっと放置するつもりはない。天条院がなにも言い返せないくらい、決定的な悪事の証拠でもあれば、容赦なくいくつもりだが……今はそれが無いという事だ。さて、話は以上だ。気を付けて帰るんだぞ」

「はい、失礼します」

「……失礼します」


 いまいち納得していないソフィアを連れて、俺は生徒会室を後にした。


 ゲーム通りとはいえ、あんな自分勝手な女に目をつけられるなんて不運だな……。まあグチグチ言ってても仕方ない。変に行動して退学にならないように気を付けないとな。


「ふー、とりあえず乗り切ったか」

「ハル、大丈夫? 顔が汗でビショビショ」

「あー……」


 さすがに、あの気迫の西園寺先輩を目の当たりにして自分の意見を言ったんだ。そりゃ汗もダラダラになる。


「ハル、あんなに堂々として……しかも金剛先輩の時も、アタシの事をこっそり守ってくれてたよね」

「何の事だか」

「も~とぼけちゃって~そういうところは変わらないな~うりうりっ♪」

「ほっぺをぷにぷにするな!」

「じゃあいつも通りー! ぎゅぎゅー!」

「だからやーめーろー!! 今注意されたばかりだろー!!」


 俺はソフィアといちゃいちゃ? しながら学園を後にし、帰路につく。その途中、街中で唐突にソフィアが足を止めた。


「ねえハル……あそこの路地裏」

「なんだ?」

「小さい女の子が、男達に無理矢理連れていかれた! しかもうちの制服!」


 ソフィアの視線の先。そこには薄暗い路地裏に続く道があった。


 路地裏……女の子……下校のタイミング……そうだ、あのイベントはここで発生する! 早く助けに行かないと、大変な事になる!


 でも、このイベントには確か罠があったはず。確か、ソフィアも一緒に助けに行くと、マズイ状況になったはずだ。


「ちょっと行ってくる。ソフィアは待っててくれ」

「駄目だよ、危険だよ!」

「俺は大丈夫だ! ソフィアはもし何かあった時に、すぐに警察や救急車に連絡が取れるようにしておいて!」

「ううっ……わ、わかった!」


 ソフィアへの指示が終わった俺は、路地裏に勢いよく飛び込んで進んでいく。すると、どん詰まりの所で、三人の体格のいい男が、一人の女の子を囲んでいた。


 女の子は聖マリア学園の制服を着ている。リボンの色からして同学年だ。深緑色の髪をおさげにしていて、顔は長い前髪と黒ぶち眼鏡のせいでよくわからない……が、隙間から見える目はとても綺麗なオレンジの目だ。


 胸元に関しては、多少の主張はあるけど、ソフィアや西園寺先輩ほどではない。


 そんな彼女は……実はラブリーガールズの三人目のヒロインだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る