第6話 女子しかいないクラスメイト

「えっと、初めまして。磯山 陽翔と申します。よろしくお願いします」


 聖マリア学園での初めてのホームルーム。一年一組に所属になった俺は、まるで転校生のように前に出て自己紹介を行っていた。


 担任が言うには、聖マリア学園は小中高一貫というのもあり、大体の生徒が小学校から通っているそうだ。だから、男子と関わりが少ない彼女達に配慮して、先に自己紹介をしてほしいとの事。


 言っている事はわからなくもないけど、なんだか晒し物にされてるみたいで、あまり良い気分ではない。


「はぁ……殿方と一緒のクラスだなんて、本当に嫌だわ……」

「男子と一緒とか、考えただけで変な気分……」

「さっきなんか校門の所で騒いでなかった?」

「してたしてた。しかも誰かといちゃついてた。きっもー」

「天条院さんに目をつけられて……あの人終わったわね……」


 ご覧の通り、三者三様の反応ではあるが、概ね悪い反応と言っていいだろう。


 プレイしてる時は主人公大変だなーとしか思わなかったけど、当事者になると、想像以上に心に来るなこれ……。


「えへへっ……」

「っ……」


 俺をよく思っていないクラスメイトの中でも、一人だけ笑顔で手を振る女子――ソフィアと目が合った。


 実は彼女とは一緒のクラスになっていた。とはいっても、これはゲーム通りだから、特に驚きはしなかった。


 ちなみに、ソフィアは飛び跳ねて喜んで、とても可愛かった。周りの目は痛かったけどさ。


「静かにしなさい。みなさん、磯山君と仲良くしてくださいね。では、入学式の行われる体育館へと移動します。廊下に出席番号順に並んでください」


 担任の指示の元、ぞろぞろと廊下に移動するクラスメイト達。その中で、俺に話しかけるような物好きは誰もいなかった。


 うん、まあ知ってた。ゲームでも同じだったし。知ってたけど……なにこれ想像以上にきっつ。ぼっちを経験してなかったら、初日で即死だったかも。


「ハル、終わったら一緒に帰ろうね」

「ソフィア……」


 ごめん、前言撤回。クラスメイトの中でも、ソフィアだけは笑顔で話しかけてくれた。


 ソフィアは優しいな……小さい頃のソフィアも優しかったけど、今はもっと優しくなってる気がする。



 ****



「では今日はここまで。明日も今日と同じ時間に登校するように」


 入学式、そしてその後のホームルームも無事に乗り越えた俺は、思わず深い溜息を漏らしてしまった。


 本当に今日は疲れた……前世を思い出した影響でめっちゃ寝不足。朝はソフィアに色々振り回され、天条院に絡まれ、クラスメイトから冷たい目で見られれば、誰だって疲れるって。


「それにしても、本当に避けられてるな……」


 結局俺は、ソフィア以外からは誰からも声をかけられずに、一日が終わってしまった。視線を感じたり、俺への陰口が聞こえてきたりするんだけど、視線を合わせると逸らされるし、話しかけようにも逃げられる。


 うーん、しばらくは大人しくしておいて、俺は害のない人間だって分かってもらった方が良いかもしれないな。


「とりあえずソフィアと一緒に帰るか」

「ハールー!」

「あ、ソフィ――ふごっ!」


 元気な声と共に駆け寄ってくるソフィアの方を向いたとほぼ同時に、俺の顔面にソフィアの殺人兵器おっぱいが襲い掛かってきた。


 うわっ、相変わらず柔らかすぎて天国……じゃなくて! 家でならまだしも、こんな外で……しかも俺の事を良く思っていないクラスメイトの視線がある中で、そんな事をしたら!


「え、なにあれ……」

「不純異性交遊ですわ!」

「これだから男は……」


 ほら! 案の定周りの反応が酷い事になってるじゃないか! 俺と親しくしてくれるのはめちゃくちゃありがたいけど、さすがにこれは駄目だって!


「ぷはっ! ソフィア、いきなり抱きつくのはやめろって!」

「えー? なら一言言ってからハグするね!」

「いやそういう問題じゃなくてだな!」

「ハルと一緒に帰れて嬉しいからハグする! ぎゅー!」


 せっかく脱出したのに、再びおっぱいの海に沈んだ俺は、なんとか逃げようと暴れるが、暴れれば暴れる程おっぱいがムニュムニュされる。


 や、ヤバイ。恥ずかしすぎて顔から火が出そうだ! それとは対極に、周りの視線や空気が冷たすぎる! おっぱいで視界が完全にふさがれててもわかる! ここは南極かって聞きたくなるレベルだ!


「……ハル、アタシに触られるの、そんなに嫌?」

「え、ソフィア……?」

「ぐすっ……ごめんね、ハルと久しぶりに会えた嬉しさがまだ収まらなくて……もうしないようにするから」

「そ、そういうわけじゃ……」


 ソフィアはまるで叱られた子犬のように、涙目でしゅんとしてしまった。


 なにこれすっごい罪悪感! 周りの連中からも「女を泣かせた……」ってヒソヒソ声が聞こえるし、俺はどうするのが正解なんだ!?


「お、俺はソフィアに触られるのが嫌ってわけじゃなくてだな。ただ外だと――」

「本当に!? ありがとうハルー!」

「は、話は最後まで聞け―!」


 外だと周りの視線があるから控えてほしいと言う前に、ソフィアは一転して満面の笑みを浮かべながら、再度抱きついてきた。


 ああ、わかったぞ。これはさっさと帰るのが正解だな! この後になんかイベントがあったような気がするけど、今はそれよりもこの見世物状態を何とかしないと!


「そ、ソフィア! 早く帰るぞ!」

「うん、そうだね! 今日はハルの好きな物を作ってあげるからねっ」


 上機嫌なソフィアに手を取られて、俺は教室を後にしようとしたら、それを阻むように一人の女子が入口の前に立った。


 えーっと……誰だ? ベリーショートの美少女だけど、こんな子はゲームで見た覚えがない。もしかして、立ち絵が無かったモブキャラか?


「磯山 陽翔君。生徒会長が呼んでるから、一緒に来てもらえる?」

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