第5話 生徒会長
「あら会長、ごきげんよう」
「全く……天条院、またお前か! 中等部の時からそうだったが、どうして問題ばかり起こす!」
「誤解ですわ会長。ワタクシはこのみすぼらしい男とアメリカ女に、真実を教えていただけですわ」
生徒会長の西園寺先輩を前にしても、天条院は余裕を一切崩すことなく、人を見下すように鼻で笑っている。この太々しい態度、ゲームと一切変わらないな。
「あー! 以前に学園に来た時に、アタシに道案内してくれた人だ!」
「ん? ああ、君は確か面接試験の日に案内してあげた子かな?」
「そうです! あの時は本当にありがとうございました! ハル、この人はあの世界的に有名な大企業の、西園寺グループのご令嬢様なんだよ!」
「そうなんだ、ソフィアは物知りだな」
「えっへん!」
ソフィアは誇らしげに胸を張る。たゆんとおっぱいが大きく揺れたのは、見なかった事にしておこう。
まあ、俺も彼女の事は知っている。なにせラブリーガールズの攻略対象だからな。
彼女は聖マリア学園の二年生で、生徒会長を務めている。文武両道で、キリッとした顔がカッコいい女性だからか、ファンクラブが出来る程の人気者だ。
この人も、このまま行くと悲しいバッドエンドを迎えてしまうから、なんとか助けてあげたいんだが……一つ問題がある。
「天条院、先程彼がみすぼらしいとか言っていたが、彼は学園の理事長の血縁だ。彼がみすぼらしいと言うなら、それは理事長の事も侮辱しているに等しいと私は思うが」
「なっ……!? 理事長の!?」
西園寺先輩の言葉に、天条院や取り巻きどころか、周りを歩いている生徒や、遠巻きに見物していた生徒達からも、どよめきの声が上がった。
まあ、馬鹿にしてた男子が、実はお偉いさんの親戚でしたなんて知ったら、普通は驚くよな。
「ふ、ふん! だからなんですの? そんなのしょせん学園の偉い人の血縁というだけで、ワタクシの方がはるかに優れておりますわ! それに、理事長から感じる気品や知性が、この殿方からは感じられませんことよ」
「天条院様の仰る通りです!」
「そもそも血縁を使って優位に立とうとするのが、いかにも浅ましい男の考えそうな事だわ!」
……随分と見当違いな事を言ってるな、この取り巻き。特大ブーメランが突き刺さってるのがわからないのか?
まあわからないんだろうな。なら僭越ながら、俺が教えて差し上げましょうか。
「言っておくが、俺は自分からおばさんの事は一切言っていない。俺は俺だからな。それに比べて、意気揚々と自分の家の事でマウントを取って、人を馬鹿にするお前の方が、優れているとは思えないけどな。むしろ家の事しか優位に立てるものが無いように見えて、情けなさすら感じるぞ」
「こ、このっ……! 言わせておけば……!」
俺が一切怯まずに言い返すのが気に入らないのか、天条院は顔を真っ赤にさせている。そんな彼女が面白いのか、どこからかクスクスと笑う声が聞こえてきた。
「ふんっ! この空気を読まない男のせいで、興が削がれましたわ! いきますわよ!」
天条院は、取り巻きの女子達を連れて、いそいそと校舎へ向かって去っていった。さすがにこの状況で騒いでも事態が好転しないとわかったようだ。
やれやれ、これからもゲーム通りに行くなら、また天条院との絡みはある。そう考えると、頭が痛くなりそうだ。
っと……それよりも、まずは助けてくれた西園寺先輩にお礼を言わなきゃだよな。
「えっと、西園寺先輩。助けてくれてありがとうございました」
「礼はいらん。私は君を助けたわけじゃない。学園で騒ぎを起こされては困るだけだ」
「それでも、ありがとうございます」
「……入学早々騒ぎの中にいた迷惑な男と思えば、素直に礼が言えるとは……不思議な男だ。なんにせよ、学園の平穏のために、問題は起こさないように」
「わかりました」
それ以上俺と話すつもりはないのか、西園寺先輩は俺に背を向けて歩き出す。その際に「男なんてケダモノを由緒正しい学園に入学させるなんて……やはり今でも理解できん……」と呟きを残していった。
そう、これがさっきの問題の正体。西園寺先輩は男をあまり好ましく思っていないから、仲良くなるのが難しいという事だ。
ちなみに、男を好ましく思ってない理由は、俺のプレイした間には語られなかったから知らない。
「……あの人をバッドエンドから救うためには、まずは仲良くなるところから始めないとな……うおっ」
ぼんやりと西園寺先輩の背中を見つめていたら、結構強めの風が吹いた。すると、去っていく西園寺先輩の短いスカートが、一瞬だけヒラリとめくれた。
流石に突然の事すぎて、目を逸らすのが間に合わなかった……薄ピンクのパンツとか、結構可愛いのはいてるな……。
「〜〜〜〜っ!?」
自分のスカートがめくれたのを把握した西園寺先輩は、咄嗟にスカートを押さえてから、俺の方に顔を向けた。
西園寺先輩と目が合う前に、咄嗟に視線を逸らしたんだが……バレてないだろうか? ただでさえ印象が悪いのに、これ以上悪くなったら、バッドエンドから救うなんて、夢のまた夢になってしまう。
「……行ったか。多分バレてなさそうだ……」
「ハルー! 凄いカッコよかったよ!」
「ごふっ!?」
走り去っていく西園寺先輩の背中を見つめていたら、急にソフィアに抱きつかれた。しかも、かなりの勢いで。
なんの前触れもなく抱きつかれると、普通に痛い。それにおっぱいがめっちゃ当たってる! 周りの目がさっきよりも痛く感じる!
「本当に凄かったよ! あんなに堂々と言い返せるなんて、昔の気弱な性格を知ってるアタシからしたら夢みたい!」
「あ、あはは……け、結構性格を変えるために頑張ったからさ!」
「さっすがー!」
実は前世を思い出した影響で、前世寄りの性格に変わりましたー! なんて言えるわけが無いし、そもそも言ったところで信じてもらえるわけがない。
……素直なソフィアだったら、信じてくれるような気もするけど。
「さてと、なんか朝からバタバタしちゃったけど……とりあえず教室に行くか」
「そうだね! あっちで新入生のクラス分けが貼りだされてるみたい! レッツゴー!」
「わわっ!? 慌てなくてもクラス分けは逃げないから! 引っ張るなー!」
「なんなのあの忌々しい男……ああイライラする……あら、あの根暗な後ろ姿は……丁度良いわ。あなた達は先に教室に行きなさい……ふふっ、ごきげんよう
「ひっ……て、天条院さん……」
「ちょっとワタクシに付き合ってもらいますわ。もちろん、拒否権はありませんわ」
「や、やめ……離してぇ……」
「どうしてそんな怯えてるのかしら? ワタクシ達、お友達でしょう? おーほっほっほっほっ!」
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