第2話 あまあま幼馴染

「ハル、本当に大丈夫?」

「ああ、大丈夫。心配してくれてありがとう」

「心配もするよ! そもそもアタシがテンション上げすぎたのが悪いんだし……」


 ソフィアを家の中に招いた俺は、氷が詰まったビニール袋を後頭部に当ててもらっていた。


 うーん、まだ転生したのが信じられないけど……ついさっき鏡を見たら、俺の知っているブサイクな顔ではなく、スッキリした見た目のイケメンになってたし……やっぱり転生してるっぽい。


 とりあえず転生したと仮定して、今の状況を整理しよう。


 まず、前世の俺は階段から落ちて死んで、何故か陽翔として転生した。でも、それを今まですっかり忘れ、陽翔として生きていたが、さっき頭を打ったショックで、前世を思い出したって事だろう。


 あと、前世を思い出したとはいえ、陽翔として生きてきた事を忘れているわけじゃないみたいだ。現に目の前にいるソフィアと遊んだ幼い頃の記憶は、鮮明に思い出せる。


 変わった事と言えば、今までは陽翔の性格だったのが、前世を思い出した影響か、前世の性格に変わった事ぐらいか?


 前世の俺は引きこもりではあったけど、性格は至って普通だった。一方、現世の陽翔として生きていた俺は、かなり弱気でナヨナヨしてたっていうか、女々しい感じだった。


 それにしても、なんで転生なんてしてしまったんだ? これ、元の世界に帰れるんだろうか? 死んじゃってるし、さすがに無理か……。


 別に前世に未練なんてないし、いつ死んでもいいとは思ってたけど……いざ死んでみると、寂しいものがある。向こうの家族には、もう会えないしな……。最後にちゃんと挨拶しておきたかった。


「ハル、どうしたの? なんだか悲しそう……」

「大丈夫。心配してくれてありがとう」

「……そうだ、すぐに元気になれる方法があるんだよ! 痛いのもすぐに無くなっちゃうの! さっそく試してみない?」

「え、そんなのがあるのか? あるならぜひやってくれ」


 ソフィアの提案を承諾すると、何故かソフィアは目を丸くしながら、俺の事をジッと見つめてきた。


「う、うん。なんかハル……随分と話し方が変わったね? 前はもっとなよっとしていたというか……それに、前は僕だったよね?」

「あ、あー! ちょっと高校入学に向けてキャラ変え……みたいな?」

「…………」


 ソフィアは俺の事を真剣な顔でジッと見つめると、すぐに笑顔で頷いて見せた。


「そうなんだ~。あ、それでね、元気になる方法は……こうするんだよ」


 こうってなんだ? そう聞く前に、俺の前に来たソフィアは、むぎゅっと抱きついて俺の頭を撫で始めた。


「いい子いい子♪ いたいのいたいの飛んでけ~♪」

「むぎゅう……」


 一応報告しておくと……俺の顔は現在ソフィアのメロンのようなおっぱいに埋もれております。もにゅんもにゅんしております。


 恥ずかしさで爆発しそうだが、心地よい弾力に加えていい匂いがするので、まさに天国と地獄。


 女の子のおっぱいって、こんなに柔らかいものなのか? 普通はブラジャーを付けるんだから、割と固いと思ってたけど、実際は違うのか? もしくは、ギャルゲー世界だから、そういう固定概念は通じないのか?


 まあなんにせよ、頭をさすってくれるのは気持ちよくて良い。でも、おっぱいを押し当てられるのは恥ずかしすぎる!


「どう? 元気になった?」

「よ、よくわからない」

「むー! これが駄目なら、こうしよう!」


 なんとかマシュマロおっぱい地獄から生還した俺は、そのまま仰向けに寝かせられた。そして、ソフィアのホットパンツから露出した、ムチムチの膝に頭を乗せられた。


 なんだこれは……おっぱいとは全然違う柔らかさだ……! それに、下から見るソフィアのおっぱいの迫力が凄すぎる。ていうか、ソフィアの顔が見えない。まさに乳袋。


「そ、ソフィア。もう元気になったから。ありがとう」

「えへへ、よかったー!」


 ふーっ……ちょっとだけ名残惜しいが、ソフィアのおっぱいやふとももを堪能してる場合じゃない。俺はソフィアに聞かないといけない事があるんだ。


 そう思った俺は、一旦ソフィアから離れて彼女の顔を見つめる。


「ソフィア、急にうちに来て……何かあったのか?」

「あれ? 聞いてないの?」

「なにをだ?」

「おじさんにね、随分前にハルが一人暮らしになるから、一緒に住んで面倒見てほしいってお願いされたの」

「そ、ソフィアが一緒に住むって事?」

「そーゆーこと! 学園も同じだし、問題ないよね!」


 そうだ……思い出してきたぞ。確かゲームでもソフィアと同じ学園に通い、同棲する流れがあった。やっぱりゲームの流れ通りに進んでるんだな。


「おじさんから色々話を聞いた時は、色んな意味で目玉が飛び出るかと思ったけど、それでも頑張って勉強して合格したの! だから、また一緒に過ごせるんだ! アタシもう嬉しくて嬉しくて!」


 ソフィアが驚いたというのも無理はない。俺が春から通う学園の名は、【聖マリア女学園】と呼ばれる、小中高一貫の学園だ。今年度からは【聖マリア学園】に変わるけど。


 名前から察する人もいるかもしれないが、そこは女子校だ。しかもかなりの伝統があるお嬢様学園。規模もかなりデカい、いわゆるマンモス校でもある。


 そんな俺がどうしてそこに入学するのかには訳がある。


 これは俺がまだ前世の記憶が戻る前の話だが、家に親戚のおばさんがやって来た日があった。その人は、【聖マリア女学園】の理事長を務めている人だ。


 そのおばさんが言うには、最近少子化の影響を受けてしまい、生徒が減りつつある学園を救うために、共学化する事を決めたそうだ。その男子生徒第一号として、俺が選ばれた。


 どうして俺なのかって? 身内の方が勝手知ったるで扱いやすいし、優しくて真面目だから問題も起こさないだろうという理由だった。


 まああくまでゲームをプレイした上での予想だが、学園側は毒にも薬にもならなそうな男を入れて、他の学生に男を慣れさせる目的があるんだと思っている。


 ちなみに、学力自体は問題なかったけど、俺以外の生徒が女子と聞いた当時は、かなり動揺したのを覚えている。


 でも、困ってるおばさんを放っておくのも忍びないと思った俺は、その申し出を承諾してしまい――今に至るというわけだ。


「それで、ソフィアが一緒に住むのは確定なんだな?」

「うん! 荷物がこの後色々届く予定! あ、家事全般は出来るから、ハルのお世話は任せて!」


 そうだ、ゲームのソフィアの設定欄に、家事が超万能って書いてあった。前世の俺も陽翔としての俺も、家事能力はほとんど無いに等しいから、めっちゃありがたい。


「めっちゃ頼もしいじゃないか! さすがソフィア!」

「っ……! もっとほめて~!」

「ふぎゃ!?」


 俺に褒められたのがよほど嬉しかったのか、ソフィアは俺に思い切りハグをしながら、スリスリと頬ずりをする。


 近くで見ると、更に可愛さがヤバい。ほっぺもおっぱいに負けずにめっちゃモチモチしてるし。ゲームも可愛いなとは思ってたけど、リアルじゃ百倍くらいの可愛さだ。


 いや、今は冷静に分析している場合じゃない。ほっぺやらおっぱいやらでむにゅむにゅされ続けるのは心臓に悪すぎる。早く離れてもらわないと、色々やばい。


「そ、ソフィア……その、離れ……」

「えー? 昔はもっとくっついてたじゃーん! アタシ、もっとハルとギュッとしたーい!」

「やーめーろー!!」


 楽しそうに俺にしがみつくソフィア。どうやら俺がいくら抵抗しても無駄なようだ……。


 それにしても、ここまでは概ね俺の知っているゲームの流れと同じだ。ゲーム通りに進むのであれば、ヒロイン達はいずれ悲しい未来に向かってしまう。


 それだけは……それだけは絶対に避ける。前世では自分の人生を投げ出してたけど、ギャルゲーマーとして、推しはしっかり幸せにしたい。


 そのためには、俺がみんなをグッドエンドへのルートに導かなければならない。


 ……あれ、待てよ? ラブリーガールズに出てくるヒロインは三人だ。ソフィアと、あと二人いる。ゲーム通りなら、普通は一人しか選べないはずだ。


 って事は……もしかして、俺は一人しか救えないって事じゃないか?


 マジかよ……そんなの嫌だ! 俺は全員に幸せになってほしい! バッドエンドなんて迎えてほしくない!


 でも……どうすればいいんだ……?


「ハル? 顔色悪いよ? やっぱりまだ元気ないんでしょ!」

「そ、そんな事は」

「嘘ばっかり! アタシが元気づけてあげる!」

「そ、それってまたくっつくつもりだろ!」

「ぶ〜! なんでバレたの?」

「バレバレだっての!」

「ちぇ〜……まあ、あんまり悩まない方がいいよ。割と何とかなったりするし!」

「そう……かもな。ありがとうソフィア」


 ……そうだよな。ウジウジしてても仕方ないよな。どうすればいいかはわからないが、希望を捨てずに頑張ろう! 全ては三人の推しのヒロインの幸せのために!

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