第3話 元女子校に男子は俺一人
「……もう朝かよ」
翌日。今日から俺……磯山 陽翔の高校生活がいよいよ幕を開ける。とは言っても、前世の俺は高校二年生だったから、新しい生活! って気分はあまりない。
そんな事よりも……。
「眠い……眠すぎる……結局一睡もできなかった……」
実は昨晩、どうすれば三人のヒロインをバッドエンドから救えるかを考えていた。その結果、気付いたら朝になっていた。
え? 考えた結果どうだったか? そんなの……何の成果も得られるわけないだろ! 得られたらもう少し喜んでるさ!
「おっはよーハル! 今日も良い朝だよ!」
もう少しだけ横になろうと思った瞬間、ソフィアが大きな声で挨拶をしながら部屋に入ってきた。ギャルゲーらしい可愛らしさに全振りした制服に身を包み、髪もばっちりセットされている。
あと、二次元特有の乳袋って言うんだろうか? 胸元の主張がヤバいなんてレベルじゃない。リアルじゃ絶対にこんな風にはならないだろ……ギャルゲー世界って凄い。
「……おはようソフィア……朝から元気だな……」
「うん! なんかいつの間にかベッドに寝てたから、凄く良く寝れたよ! もしかしてハルが運んでくれたの?」
「まあな。ソフィアがリビングで寝落ちしちゃったから、そのまま放っておくわけにもいかないだろ?」
実はあの後、ソフィアの荷物が入った段ボールが運ばれてきたんだが、それの整理を一緒にしたら、ソフィアは疲れて寝てしまった。だから、元々父さんが使っていた部屋に寝かせたわけだ。
「ハル優しい! そうだ、お礼も兼ねて……えいっ!」
「うわっ! だから抱きつくな……って、何しようとしてるんだ!?」
「なにって、おはようのチューだよ? ん〜……」
「待て待て待て!」
俺の制止を一切聞かず、ソフィアは俺にプルンとした唇を近づけてくる。しかもほっぺにではなく、俺の唇に向かってだ。
付き合ってもないどころか、再会して二日で何をしようとしてるんだこの子は!?
「……ハルの唇って思ったより硬いね……あれ?」
咄嗟に俺とソフィアの間に手を入れて壁にする事で、何とか唇同士の接触を避けることが出来た。
あ、あぶな……手の甲にキスされちゃったけど、唇にされるよりは全然いいだろう。
「うー……そんなにアタシとキスするの嫌だった……?」
「そ、そういうわけじゃない!」
むしろ、したいかしたくないかで言えば、普通にしたい。だって前世の頃に可愛いと思ってゲームをして、現世では幼馴染として過ごした記憶もある相手だぞ? 少なからず好意はある。
でも……さすがになぁ……。
「ほら、付き合ってもいないのにキスするなんて普通じゃないだろ?」
「アメリカじゃ、家族同士でおはようとかおやすみのキスは普通にするもん……」
ここでまさかの文化の違い!? 確かにテレビでそういうのは見た事あるけど、実際にされる立場になると思ってなかった!
「ぐすっ……」
「そ、そんな泣くなって……ほら、キスはあれだけどハグならしていいから!」
「本当!? やったー!」
涙目になったと思ったら、急に元気になって俺に抱きつくソフィア。これで喜んでもらえるなら安いものだ。恥ずかしさはマックスだけどな。
「ちゅっ」
「あっ……」
「今日はこれで許してあげるっ。ご飯できてるから一緒に食べよう!」
ソフィアの機嫌が直って安心した俺の隙を突くように、ソフィアはちょんと俺のほっぺにキスすると、ご満悦そうに笑いながら、俺の手を取る。
不意打ちは卑怯だろ……心臓が爆発しそうだ……こんな女の子、絶対にリアルじゃいないって……恐ろしいなギャルゲー世界! いつかドキドキで心臓発作とかおきませんように……。
****
「うーん、やっぱり何度来てもこの学校は大きいねー! テストとか面接で来た時なんか、大きすぎてひっくり返りそうになっちゃったよ!」
朝食を食べ、二人で肩を並べて登校してきた俺達を、とんでもない規模の建物が出迎えてくれた。
聖マリア学園――百年以上続く歴史ある校舎の規模はとんでもない。西洋風のドでかい校舎に、中庭には創作物でしか見た事の無いような噴水がある。
周りには黒光りの車が多く停まっていて、中からソフィアと同じ制服を着た女の子が下りてくる。流石はお嬢様学園。
一応、俺も入試の試験を受けるために来た記憶はあるとはいえ、何度来ても規模がヤバすぎて開いた口が塞がらない。
「こんな凄い所に通うなんて、ワクワクするね!」
「だな……」
ソフィアは俺の前に出ると、その場で小さく飛んでワクワクを前面に押し出す。そのジャンプで、おっぱいがめっちゃ揺れてて目のやり場に困るんですが。
ていうか、歩いてるだけで揺れるとか意味わかんないんだが!? リアルの巨乳の女性も揺れるものなのか!? それともギャルゲー世界だから強調するために揺れるようになってるとか!?
確かにプレイしてる時にアニメーションで揺れると嬉しく思ったさ! でも実際に目の前で起こると目のやり場に困るし、そもそも不自然すぎるって!
「ハル、なんか疲れてない? アタシの気のせい?」
「き、気のせいだろ」
寝不足というのもあるけど、実際かなり疲れている。何故かというと、朝食の時にソフィアがあーんをしてくるし、登校する時は手を繋いでくるしで、気疲れしてしまったんだ。
「ソフィア、あんな事を他の男にもしてるのか?」
「するわけないよ~。アタシがするのはハルだけだよ! なんていったって結婚の約束もしたくらいだし!」
屈託のない笑顔にドキッとしながらも、俺はソフィアの言葉に懐かしさを感じていた。
結婚の約束……か。確かに小さい頃に結婚しようと約束した記憶がある。あんなの子供の間によくある事だと思ってたけど、ソフィアは覚えていたんだな。
なんていうか、くすぐったさはあるけど、純粋な好意を向けられるのは嬉しい。これも前世で長い間ぼっちだったせいか? 過剰なスキンシップは恥ずかしいから勘弁してほしいけど。
「それにしても、本当に周りには女子しかいないな」
今年から共学になって、男子は俺だけなんだから当たり前なんだけど。なんか視線が痛いというか……歓迎されてるようには思えない。
注目の的になるのは居心地悪いし、さっさとクラス分けを確認して教室に向かうとしよう。
「あら? あらあらあら? どうしてこの由緒正しい聖マリア学園に殿方なんかいらっしゃるのかしら?」
ソフィアを連れて歩き出そうとした瞬間、甲高い女性の声が背後から聞こえてきた。そこには、ピンク色の長い髪を縦ロールにした女生徒が、俺を馬鹿にするように薄ら笑いを浮かべながら仁王立ちしていた。
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