第42話 甘々なひと時
「さあ、食べましょうか」
十分に冷やした料理を机の上に並べ、俺はそれぞれのお菓子の説明をしていく。
「最初にウノ君たちに作ってもらったこれは、生キャラメルというお菓子です」
「生キャラメルじゃと……普通のキャラメルと何か違うのかや?」
「うん、良い質問だね」
待ってました。というエレナからの質問に、俺はニッコリと頷いて答える。
「普通のキャラメルとの違いは、生クリームの量が多いってことだよ。それによって普通のキャラメルより滑らかな舌触りになるんだ」
「ほう……それは楽しみじゃのう」
俺から説明を聞いたエレナたちは、一口サイズに切られた生キャラメルをそれぞれ口に放る。
「ほう、これは……随分と柔いの」
エレナはもごもごと口を動かしながら二つ目の生キャラメルを手に取り、空に掲げながら感想を口にする。
「特筆すべきはその柔らかさじゃが、口溶けもよくてあっという間に飲み込めてしまうな。味は生クリームが多い所為か普通のキャラメルと比べてかなり濃いが、意外にも後味は悪くないから次々と食べられるの」
そうして二つ目の生キャラメルをエレナが食べるのを見て、三つ子たちも自分たちが一生懸命作った生キャラメルを食べる。
「初めて自分たちでキャラメルを作ってみたけど、確かに普通のキャラメルと違うね」
「何ていうか……とっても甘いです」
「頑張った甲斐があって、凄く美味しいね」
この世界にもキャラメルはあるので、リアクションとしてはちょっと薄いものではあったが、それでも味は十分だったのか、エレナも三つ子も次々と生キャラメルを食べ、幸せそうな笑みを浮かべていた。
四人で争うように生キャラメルを食べるのを見ながら、俺はもう一つのフォレテットのチーズを使ったもう一つの料理を手にしながら説明する。
「それで、こっちはティラミスっていうお菓子です。俺の世界では、マスカルポーネチーズっていうちょっと特殊なチーズを使って作るお菓子なんだ」
名前は聞いたことが多いであろうマスカルポーネチーズとは、イタリア産のフレッシュチーズで、乳脂肪分がチーズの中ではかなり高いことで知られている。
元はロンバルディア州という場所で、牛が脂肪を蓄え、生乳に含まれる脂肪分が増える冬にしか取れないと言われるほど貴重な品で、十二世紀にこの地を訪れたスペインの総督が、このチーズを食べて「
そんなマスカルポーネチーズにも負けないほどクリーミーな、フォレテットのチーズで作ったティラミス……これは俺も非常に楽しみであった。
「では、こっちのティラミスもいただくとするかの」
十分に生キャラメルを堪能したエレナは、続いてティラミスをスプーンで掬って一気に頬張る。
「ん~ん、これは堪らんのぅ……」
ティラミスを一口食べたエレナは、目を大きく見開き、頬が落ちないように手で抑えながら蕩けたような笑みを浮かべる。
「チーズとクリームの濃厚な甘さと、コーヒーに浸けたビターなパンが織り成すハーモニーの何と見事なものか。味は濃厚なのに口当たりは軽いから、いくらでも食べられるぞ」
「ほっほ、甘いものがあまり得意ではない私でも、これならパクパク食べられますな」
エレナに続いて、バカラさんも満足したように頷きながらティラミスを食べて行く。
「ハルトさん、よかったらこの二品のレシピを私に教えていただけませんか? これは、是非とも世に広めたいです」
「ええ、喜んで」
俺が快く了承すると、バカラさんはティラミスを吟味するようにじっくり味わいながら、何かを確かめるように何度も頷く。
きっと彼の中では、これからどうやって生キャラメルとティラミスで稼ごうか考えているのだろう。
そんな商魂逞しいバカラさんの態度に苦笑しながら、俺もティラミスを食べてみる。
「――っ、これは!?」
俺は皆と違ってティラミスを知っているだけに、味の予想はある程度ついていたのだが、このティラミスはその予想を軽く超えてきた。
最初はティラミス特有の濃厚なチーズクリームが現れるのだが、この甘さが驚くほど爽やかで、全く重さを感じないのだ。
これはフォレテットのチーズの甘さを考慮して、砂糖を通常より控えめにしたこともあるが、チーズそのものの優しい味が、クリーム全体に大きな影響を与えているからだろう。
そこに本来ならエスプレッソコーヒーに浸したフィンガービスケットを使うところを、代替品としてマリナちゃんから貰ったお菓子を参考にパンを使ったのもよかった。
これによって仕上がりが全体的にふわっとしたものになり、エレナが言う通り非常に口当たりが軽くなっていくらでも食べられそうだった。
……ああ、俺もバカラさんじゃないけど、フォレテットのチーズをどうにかして日本に持って帰りたいと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます