どれくらいぶりに自分の部屋に戻ってきたんだろう。

 睡眠らしい睡眠は長い間取ってなかった気がする。真理子はシャワーを浴び、ベッドに横になった。体から力が抜け、意識が遠のいていく。

 夢を見た。

 こんな世界になる前の、幸せで楽しい日々。休日には家族で過ごし、いろんな話をする。他愛もない普通の会話。それが一番楽しい。

「真理子~ちょっと手伝って~」

 お母さんが私を呼ぶ声。暗闇から抜けると自分の家にいた。辺りを見回す。庭だ。 

 今までのは全部夢だったのか……?頬にあたる風の感触も、芝生を踏む感覚も、全てが本当のように感じられた。

「お母さん……町は何ともないの?」

 洗濯を干す母にそう問いかける。「何ともって?もしかしてのこと?」と母がゆっくり振り返る。

「きゃぁぁぁぁっ!」

 自分の叫び声で目が覚めた。こっちが夢だったんだ……。真理子は震える体をさすった。

「マリちゃん、大丈夫?」

 声のするほうを見ると、朋子が立っていた。

「おばちゃん何でここに……?私、夢を見てた……。家族の夢…。庭でお母さんが洗濯を干してて、振り返ったらベクターで……いつになったら普通の生活に戻れるんだろう……もうこんな生活……」

「マリちゃん、協力してほしいことがあるの。あなたの腕を見込んでのお願いなんだけど……」

 朋子は真理子に話した。 

 数時間後の朝、ある計画が動き出す。それを阻止するために、総理直々の精鋭部隊が出動する。部隊はこの研究施設に侵入し作戦を実行するから、その間、真理子に手伝ってほしいことがあると、何も隠さず全てを話した。

「おばちゃんは本当に私たちの味方で、この施設の敵なんだよね?信じていいよね?」

「もちろん。私は総理の命令で動いてる。あなたたちを傷つけるつもりは全くない。だから、手伝ってくれる?」

「……分かった。おばちゃんのその言葉、私信じる。……私は何をすればいいの?」

「私の合図で部隊が侵入する。その間の監視カメラの映像をハッキングして、いつもと変わりない施設に見せかけてほしいの。この地下にはコントロールルームがあるでしょ?そこには監視カメラの映像が記録されてる。そこをハッキングしてほしい。そして、計画が上手く行くようにここから助けて欲しい」

 真理子は朋子が言っていることを理解し、承諾した。

「これ、インカム渡しておくから……。七時になったら部隊が表に到着する。七時前にはインカムを着けておいてね。周波数はセットしてあるから」

 朋子はそう言うと、真理子を強く抱きしめた。

「大丈夫……もうすぐ終わるから……」

 彼女は意味深な言葉を残し、部屋を出る。一人になった真理子は、渡されたインカムを手に、それをじっと見つめた。

「私、信じていいんだよね……」

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