④
真理子は相良に尋ねた。だが、彼は何も答えない。
「皆さんで分析してください。そしてそれが何の液体なのか、なぜ分析しなければならないのか、突き止めてください。実を言うと、私も何をどう進めていくのか、聞かされていませんので……」
彼はそれだけを言うと、壁際へと下がる。しかし、彼の視線は真理子と西条に注がれたままだった。
「仕方ない……やるか。俺は左側のを、君はこっちを頼む」
「そうですね……分かりました。倉木さん、藤田さん、手伝ってくれる?」
「え、いや、私やったことないし……」
「大丈夫。私が教えるから、その通りにやって」
戸惑う二人に言い聞かせ、やっと分析の準備が整った。西条もまた、弓削、五十村を助手に分析を始めて行く。
「まずは、この液体が何かを突き止める。見た感じは血液だけど……分析しろってことはただの血液じゃないかもしれない」
真理子は部屋を見回し、薬品棚を確認したり、光学顕微鏡や電子顕微鏡があるかを確認する。そして小さく頷き、指示を出す。
「倉木さん、あそこにある顕微鏡持ってきてくれない?小さいほう。藤田さんは、薬品棚から、青いラベルの試薬と、黄色いラベルの試薬を持ってきてくれる?」
真理子に指示を出された二人は、動き始める。西条は真理子とは違う方法で、液体の正体は何か突き止めるようだった。羽衣は光学顕微鏡を真理子の前にセットし、佳奈は言われた試薬を持ってくる。
「今から、これが本当に血液かどうか調べるわね。そして、血液だったら血液型を調べる。あとできっと役に立つはず……」
真理子は、赤黒い液体をスポイトで吸い取り、少しをシャーレに落とし、試薬を垂らした。確実にゆっくりと血液分析の手順を行っていく。そして部屋の隅にある電子顕微鏡で確認する。倍率を定め、一番よく見える場所を探す。すると、紫色に染まった白血球、扁平な形をした赤血球、そして血液のなかで一番小さな血小板が確認できた。確かに、血液で間違いないようだった。しかし、ここで一つ疑問が生じた。ただ、この疑問はあとで西条さんに……真理子はそう思った。
続いて真理子は、青い試薬・抗Aに血液を一滴、黄色い試薬・抗Bに血液を一滴落とす。すると、あっという間に両方の試薬の中で血液が凝集した。つまり、この血液はAB型と言うことになる。ふと隣の西条を見る。机の上に並べられた試薬から、彼もまた血液型を調べているようだった。
「ま……安藤さん、そっちはどうだった?」
「こっちのは血液で間違いありませんでした。それと型はAB型。西条さんは?」
「こっちも血液で間違いない。けど型はO型だった。つまり……この血液は二人分だということだ。それと、血液を調べたら、見たことない“何か”があるんだ。そっちは?」
「いいえ。こっちにはありませんでした。普通の血液です。ただ、一つ疑問が……」
真理子は西条に近づき、そっと耳打ちした。この血液は“新鮮なもの”だと。西条もまた「これ、覗いてみて……」と顕微鏡を指差した。そして彼女は西条の顕微鏡を覗いた。すると西条がなぜ“何か”と強調したのか理由が分かった。あの病原体が含まれていたのだ。自分たちが見つけた、“Ⅹ”がそこにはあった。
「主任……これが何か分かりました」
西条は相良に結果を話し始めた。
「これは血液で間違いありません。性別は分かりませんが、片方はO型、もう片方はAB型でした。つまり、二人分の血液です。しかも新鮮な。それと、O型の血液には見たことのない何かがあるんです。これは何ですか……?」
「……知らない。その病原体が何なのかは、俺には分からない」
嘘を言っていることは明らかだった。
「主任、なぜ何かが病原体だと分かったんですか?俺はまだ病原体だとは言ってませんが……」
「……何のことだ?」
まだ白を切る。相良は病原体が含まれた血液だと言うことを知っていながら、二人に分析させたのだった。そして、恐らくこの病原体の正体を知っている。二人はそう確信した。
「今から、この病原体が何なのか突き止めます。この病原体は小さくて、発見も正体を突き止めるのも難しいでしょうが、必ずこれが何なのか突き止めます」
西条がそう言うと「そ……そんなことできるのか?」と相良は目を見開いた。四人も驚いて西条を見る。真理子は静かに頷き、西条を見た。
「時間は掛かりますが、これの正体を突き止めてみせます。必ず……」
真理子もまた、決意に溢れた目で相良を見た。二人の気迫に圧倒されかけた彼は「分かった。出来るとこまでやってみてくれ。私は今の進捗状況を隊長に報告する」と部屋を出た。
チャンスだ……そう思った西条は、彼の後を追うように部屋を出る。西条が何をしようとしているのか察しがついた真理子は、周りの人に悟られないように、それぞれに指示を出した。
「あ、倉木さんと藤田さんも分析を手伝ってくれる?手順は説明するから。そして、弓削さんと五十村さんには、西条さんの代わりにその分析を続けてほしいの」
「了解」
「もちろん」
真理子は全員に指示を出しながら、西条の帰りを待っていた。
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