③
真理子たちは部屋の中に佇む男性を見て目を疑った。
そこにいたのは幹部の一人、相良が立っていたのだ。彼は真理子たちを見て、優しく微笑んだ。
「私は相良です。皆さんお気付きかと思われますが、私は幹部の一人です。ここでは各班に一人の幹部が入ることになっているんです。ちなみに私がここのチーフを担当させて頂くことになりましたので。……では、順番に自己紹介しましょうか。もちろん苗字だけで構いません。この施設で生存者の経歴は必要ないですので……」
隊員として行動しているときと、全くと言っていいほど雰囲気が異なる相良を前に、真理子と西条は体が固まってしまう。隣を見ると、羽衣たち残りの四人は笑顔で頷いていた。
「じゃあ私から。私は倉木です。今日からよろしくお願いしますっ」
「わ、私は藤田です。よろしくお願いします」
「僕は弓削です。よろしくお願いします」
「俺は五十村。よろしく」
四人が自己紹介を終えた時、メンバーの視線が二人に注がれる。四人の後ろでは相良がじっと二人を見ていた。その視線に気づいたか西条が口を開く。
「俺は西条です。よろしく」
「あ、私は安藤です。よろしくお願いします」
「倉木さん、藤田さん、弓削さん、五十村さん、西条さん、そして安藤さん……今日からこの七人が解析班です。一緒に頑張りましょう」
相良はそう言うとメンバーに
「まず、重要なことから説明します。入室時、退室時には必ずセンサーにバンドをかざしてください。そうしないと、扉は開きません。それに、ゼウスがいつ、だれがこの部屋に入ったかを記録しています。なので必ず、バンドをかざすように。また、基本一日の多くはここで過ごすことになるかと思われますが……、食事の時、お手洗い、休憩時には自由に退室して構いませんので。では、機械の説明を始めますね」
ここでもゼウスが管理……か。真理子は西条を見る。西条もまた彼女と同じことを思っていた。この部屋にある装置は不思議とULIのものとほぼ同じ。ULIにはなかった装置でさえ、ここには設置されていた。二人には説明を聞くまでもなかった。
「ところで、今までに一度でも研究や実験などの職業に就いた経験がある方はいますか?」
二人はここで手を挙げるべきか迷った。しかし、そこで思わぬ声が上がる。
「安藤さんと西条さんは以前の職場で、確か何かの研究をしていたよね……?何だっけ……細菌……?ウイルス……だったっけ?」
羽衣の言葉に戸惑いを隠せなかったが、ここまで言われてしまっては仕方ない。二人は「ええ。以前の職場で分析の仕事をしてました」と答える。相良は、「そうですか。なら心強いですね。主な解析はお二人にお任せして、そのほかの解析や分析類は私たちが行いましょうか」と言い放った。四人は「賛成です」と口々に言い始める。
「困ったな……あまり目立ちたくなかったのに」
「仕方ないよ、安藤さん。彼女に悪気はないだろうし。それに俺たちが解析すれば、誰よりもいち早く情報を手に入れられる。前向きに捉えよう……」
西条は真理子をなだめ、相良に聞いた。
「ここでは何の解析をしているんですか?それを教えてもらわないと、分析するものによって手順が異なるんですが……」
「まあ、それもそうですね。分かりました。ですが、ここでの仕事は他言してはなりませんよ。あなたたちなら、大丈夫だとは思いますが……」
相良は、釘を刺すように二人を見た。そして、室内にある冷蔵庫へと歩いていき、中から小さな箱を取り出した。
箱をアルミ製の袋から出すと、西条に手渡す。目で開けろと合図し、箱を開けさせた。
「これは……」
「これって血液ですよね……?」
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