幹部の一人、相良は各自の持ち場を発表した。

「【医療班・アスクレピオス】場所は五階の一号室。【調達班・クロノス】場所は同じく五階の二号室。【保護班・ウラノス】場所は同じく五階の三号室だ。そして、【解析班・アテナ】場所は六階の一号室。【制圧班・アルテミス】場所は同じく六階の二号室。そして最後、【調査班・アネモイ】場所は同じく六階の三号室だ。間違えないように注意してくれ。これで説明は終わる」

 彼はそう言うと、高田に一礼し、食堂を出ていった。その後を追うように、幹部メンバーは次々に部屋を出て行く。残された高田は一人、コーヒーを片手に物思いにふけっていた。

 真理子は食事を終え、西条に先に部屋へ戻ると声を掛けた。

「ま、安藤さん行こう~」

 羽衣に声を掛けられ、小走りで駆け寄っていく。その様子を静かに、そして鷹のような鋭い眼光で見ている人物がいた。高田だ。彼が何を考え、どうしようとしているのか全く読めない。

 自室に戻ってきた真理子は、タンスから白衣を取り出し羽織る。

「なんだか懐かしいな……この感じ。つい昨日まで着てたのに、もうずいぶん長い間着ていない感じがする」

 物思いにふけっている真理子を見て、羽衣が声を掛ける。

「まり……安藤さんはやっぱり白衣が似合ってる」

 羽衣にそう言われ、真理子はそっと微笑む。

「安藤さんは以前も白衣を着るような仕事をしていたんですよね。だったら、ここでの仕事もきっと簡単なんだろうな……」

 佳奈は一人、聞こえるかどうかの声でそう言った。かすかに聞こえたその声に、真理子は一瞬の疑惑を感じた。

「ねえねえ、時間まで何か話そうよ!そうだ、佳奈のこと知りたいな。きょうだいとかいるの?」

「ええ、兄が一人。年はそう離れてないけど、優しくしてくれて、小さい時から可愛がってくれています」

「お兄さんか~いいなあ~。私は長女だから、いつも妹の面倒ばかり見てたな。かわいいからいいんだけど。佳奈は、前はどんな仕事を?」

「前は……」

 ゼウスが時間を知らせるまで、真理子たちはずっと話していた。おかげで、佳奈についていろいろ知ることができた。

 就業開始の合図をゼウスが知らせる。

 真理子は深く深呼吸をし、ゆっくりと呼吸を整える。三人は地下六階の解析ルームへと向かった。エレベーターの扉が音もなく開いた。中には西条と男性二人が乗っていた。腕には青いバンド。真理子たちと同じ解析班だということを示していた。彼らの名前はまだ知らない。エレベーターには様々な色のバンドを着けた人が乗っている。しかし会話はなく、ただそこにマネキンのように人が立っているだけだ。静かに箱は地下へと下りていく。

 青いバンドを腕に着けた、真理子、羽衣、佳奈、西条、そして男性二人。彼女たちは地下六階、一号室の前まで来た。全面白色の重厚な扉。それは窓もなく、蟻一匹すら入れない造りだ。扉の中心には青いラインが一本引かれているだけ。ちょうど胸の高さの場所には認証システムが設置されている。

「扉を開けるにはバンドをかざす……だよな?」

 西条は自分のバンドを認証システムにかざした。すると重い扉は音もなく静かに開く。まるで真理子たちを歓迎しているかのように室内は明るく、広かった。班のメンバーは、一人また一人と室内に足を踏み入れる。

 部屋の中央には一人、静かに立っている人間がいた。腕にはオレンジのバンド。

「え……幹部の……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る