第四章 疑惑

 今日起こったことが、全て夢でありますように……。

 真理子はそう願い、ベッドに入った。

 よほど疲れているのか、あっという間に意識が薄れていく―――。


「お母さん!卵焦げちゃうよ!」

 真理子は母である聡美さとみとともにキッチンへ立っていた。

「こっちも手が離せないの!真理子、それ頼むね!」

「え~薄焼き卵は難しいのに~」

 聡美に頼まれた彼女は、菜箸を器用に使い、薄焼き卵を作っていった。

「真理子、あなた普通に上手いじゃない!もうここまでできるなら任せても大丈夫ね」

 彼女はそういうと、次の料理に取り掛かった。

 父、孝之たかゆきはそんな二人の様子を愛おしそうに見ている。

 そんな時、インターホンが鳴った。

「俺が出てくるよ」

 時刻は午後六時、時計を見た孝之は二人にそう声を掛け、玄関へと向かった。

 扉を開くと、

「逃げろっ!おい!聡美っ!真理子を連れて逃げるんだっ!が……が来たっ!」

 孝之はそう叫んだ。二階から梯子を使って逃げようと考えた二人は、貴重品だけを手に、キッチン側の扉から廊下に出た後、二階へと上がる。

 その時、一瞬玄関が見えた。

 そこにいたのは、奴ら……死人のような……化け物のような……。父に嚙みつく、かつてはだった。

 真理子は思わず叫んだ。


「子……!真理子……!」

 体を揺さぶられ目が覚めた。

「よかった~……大丈夫?すっごいうなされて叫んでた……もしかして今日のこと、夢に見てた……?」

そう顔を覗き込んで、背中をさする羽衣。

「そっか……夢じゃなかった……。二人とも、ごめんね。私のせいで起こしちゃって。明日の仕事に支障出ないかな……」

「大丈夫ですか……?安藤さん。これ良かったら……」

 佳奈はグラスに注いだ水を持ってきた。

「あんな恐ろしい体験をしたら、誰だって怖い夢見ます。気にしなくていいですから」

 素っ気なくも、心配している佳奈。二人にお礼を言うと、また三人はベッドへと戻った。

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