⑤
「私たちが腕に着けてるバンド、六色あるでしょ?それに、班の数も六つだった。それはきっと、班ごとに色を分けてる。それでおそらくだけど……幹部にあたる人たちはオレンジのバンド。私たちの仕事は解析だってゼウスが言ってたでしょ?けど、どんな内容かは教えてくれない。それに、瀬名って女性の隊員が言ってた。“お互いの業務内容については、他言無用”って。もしかしたらバンドの色が異なるのは、見た目だけでどこの班の人なのかを分かるようにしてるんだと思うの。お互いの仕事が何なのか言ってはいけないと言うことは、これは勘だけど……教えられないことをここでしてるのかもしれない……」
真理子が言った。羽衣は彼女の話をよく理解できていないのか、目をぱちぱちさせている。佳奈は俯きながら右手の親指を口元へ持って行く。怯えているのか……?その様子を見ていた羽衣はそっと声を掛けた。
「藤田さん、どうかした……?どこかしんどい?」
「あ、大丈夫です……倉木さん。ただ、お二人と私は合わないな……って。安藤さんは頭が良いですし、倉木さんは安藤さんとお知り合いで……仲がいいみたいだから」
「あ……。私がま……安藤さんと仲がいいのは、同じ職場だったからなの。部署は異なるけど、昼休みとかよく話してたから。で、安藤さんの頭が良いのは多分……遺伝?それか突然変異ね。私とも違うし、彼女はちょっと人とは違うのよ。私も彼女が羨ましい。でも、今日から私たちは一緒に暮らすの。だから、藤田さんも仲間。同じ役割も与えられているし、仕事中に分からないことがあれば、安藤さんに聞けばその道のプロだし。本当は名前で呼び合いたいけど……ま、仕方ないからそこは我慢か……」
「あ……く、倉木さん……!?急に早口に……」
「え?あ、やっちゃった。私、テンションが高くなると急に早口になる癖があるみたいなの。ごめんね、許して」
羽衣はそう言って笑った。彼女はいつも明るく、場を和ましてくれる存在だ。そのおかげか、佳奈も笑顔になり、少し部屋の雰囲気が変わった……気がした。
『連絡です。夕食が出来ました。各自、地下七階の食堂へお集まりください』
軽快な音と共に放送が鳴った。食事という単語に羽衣が反応する。腕時計を見ると針は午後六時半を指していた。
「夕食!?そう言えば朝から何も食べてなかった……。やったね!ほら二人とも早くいくよ?」
「分かったから、ちょっと待って……そんなに慌てないでよ」
真理子は羽衣に腕を引かれて、体がよろけてしまう。
「あ、先に行っててください!すぐに追いかけますから!」
「うん、分かった!あ、佳奈の席も取っとくからね!」
羽衣がそう言いながら真理子の腕を引っ張っていく。真理子はおぼつかない足取りでエレベーターへと向かって行った。誰もいなくなった部屋では、佳奈が一人何かをしていた。ポケットから取り出したのはオレンジ色のバンド。それをモニターにかざすと、AI・ゼウスが反応する。
〈藤田様、どうかなさいましたか?〉
「あの二人には気を付けて。特に安藤って人には……」
〈安藤……ああ……あの安藤真理子様ですね。承知致しました〉
佳奈はバンドをポケットへ終うと、部屋を出る。誰もいないのを確認し、静かにエレベーターへと向かった。
食堂に到着すると、いい匂いがした。今日の中で一番安心する。そんな匂いだ。
食事は一人一人、用意されている。食堂には大きなモニターがあり、そのモニターには〈白米と汁物はおかわり自由〉と表示されていた。そして中央にはゼウスが。
「皆、席に着いたか?」
高田が声を掛けた。全員が席についているのを確認し、話を始めた。
「皆、今日はご苦労だった。色々な経験をした一日だったと思う。明日からは、今までより忙しくなると思う。今日はしっかり食べて、体をゆっくりと休めてくれ。……ゼウス、ここでの注意事項と今日のメニューを説明してくれ」
〈承知致しました。高田様。ここでの説明を致します。ここでは各自の部屋同様に、苗字で呼び合うこと。決して名前では呼ばないようにしてください。また、各自の業務内容について発してはなりません。万が一話しているのを私が見つけた場合は、ここからの追放となりますのでご注意ください。それ以外は全くの自由です。
あと、食事の際の席はご自由に。また、自由時間にここを使用することも出来ます。その際はお飲み物もご自由にどうぞ。水、お茶、コーヒー、紅茶、そしてお酒。何でも揃っておりますゆえ、ご自由に快適にお過ごしください。ただし、お酒の飲みすぎにはご注意を。翌日の業務に差し支えますので。では、本日のメニューを紹介致します。本日は新生活のお祝いの為、品数が豊富です。調達班の皆さま、お疲れ様でした。
本日のメニューは、【ちらし寿司・はまぐりのお吸い物・鯛の塩焼き・菜の花の辛子和え・桃】でございます。以上でございます〉
やはりここでもゼウスが出てきた。言葉のみで会話し、声の判別、相手の労い……あのゼウスは一体……。
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