④
三人は扉の前で軽く挨拶を済ませ、恐る恐る目の前の認証システムに指を乗せた。すると扉は音もなく開く。三人が部屋へ入ると、電気が付き部屋の全貌が見えた。どうやら電気は人感センサーのようだ。ULIより進んでる……それが真理子の第一印象だった。
部屋は意外に広い。ベッドは三台あり、それぞれの机が壁に向かって設置されている。部屋の中央にはテーブルが置かれ、隅にはタンスがあった。検査を受ける際に持っていかれた荷物もきちんと台の上に並んでいた。ふと、サンプルのことが気になり自分の持ち物全てを確認したが、荷物に変わりはなかった。ノートパソコン、サンプル、インターネットメガネ、自分に必要なものは全て揃っていた。サンプルがあると言うことは、荷物の点検をしたわけではないのか?真理子は考える。
ふとタンスが気になり、扉を開ける。そこには白衣と制服のようなものが置いてあった。もちろん、三人分。何で……どうして……?そう考えていた真理子の耳に、羽衣の明るい声が聞こえた。
「へぇ~結構いいじゃん。私が住んでた部屋より広いかも。ね?真理子」
「ったく……。私のことは安藤って呼ばなきゃ。言ってたでしょ?名前で呼ぶのは禁止。苗字で呼ぶことって。どこで誰が聞いてるのか分からないんだから、気をつけなきゃ」
羽衣は「あ、そうだった……もう、嫌になっちゃう。もう真理子って呼べないんだ……」と、つまらなさそうに返事した。佳奈はと言うと歩きながら部屋をずっと見ている。
「……藤田さん?どうかした?」
「へ?あ、いや……私……初めての場所がとても不安で。あんなことが起こった後なのに、今度はここで生活するのかと思うと、不安しかなくて」
そうだ。彼女の言葉を聞いて二人とも思い出した。あの事態が起こってから、まだ一日も経っていなかった。長い時間、ここで色々と検査や説明やらを聞いていたから、あの恐怖を忘れかけていた。今でも覚えてる。あの時の恐怖。生きているのか死んでいるのか定かではない人間のようで人間ではないものの存在。ついさっきまで一緒に行動していたはずの仲間の変化。どれも忘れかけていた。
「私たち、あの中を生き延びたんだよね……」
真理子が言うと二人は頷く。きっと佳奈も私たちと同じ思いをしたんだろう。そう思った。しんみりとした空気を変えたのは羽衣だ。
「ねえ!バンドをかざしたら、説明を受けられるんだったよね?やってみない?」
羽衣は自分のバンドをモニターにかざした。すると何もなかった画面は、淡い青色に変化した。モニターには、なにやらこの施設には相応しくないようなキャラクターが登場した。その姿はアルファベットの“A”をもじったような形で、“i”のような形をした棒を持っていた。
〈初めまして。私、AIのゼウスと申します。以後お見知りおきを。貴女の名前は倉木様ですね。私を起動していただき感謝いたします。何をお聞きになりたいですか?〉
「これ何~?すっごい可愛いんだけど」
〈恐れ入ります。ところで、何か聞きたいことがあるのでは?〉
「へぇ~。ちゃんと声に反応するんだ~!じゃあさ、この部屋は自由に使っていいの?家具とかは?」
〈この部屋は倉木様のお部屋でございます。倉木様のご自由にお使いください。家具など必要なものがあれば、何なりと私にお申し付けください〉
羽衣とAI・ゼウスのやり取りを見ていた真理子は、ゼウスに近づき質問した。
「ゼウス、一つ教えてくれない?」
何も返事はなかった。繰り返し声を掛けても返事は返ってこない。不思議に思った羽衣が声を掛けると、〈どうしましたか?倉木様〉と返事が。「もしかしたらバンドをかざした人にしか使えないのかも……」真理子は自分のバンドをモニターにかざした。
〈初めまして。私、AIのゼウスと申します。以後お見知りおきを。貴女の名前は安藤様ですね。私を起動していただき感謝いたします。何をお聞きになりたいですか?〉
「やっぱり……。バンドをかざした人にしか反応しないように出来てるんだ……。ゼウス、この施設は一体何……?」
〈私の口から詳細を話すことは禁じられています。しかし、話していいこともあります〉
「じゃあ、あなたが話していいことだけを私に教えて?」
〈承知いたしました。この施設はInstitu
「ここは研究施設なのね……。ここでは何をしているの?」
〈人類の救済です〉
「人類の救済って?何をしているの?」
〈人類の救済です。これ以上は言えません。申し訳ございません〉
何を聞いてもやっぱり教えてくれないか……。真理子はため息をついた。
「あ、ねえゼウス。私たちの仕事って何?」
〈倉木様、そのご質問にはお答えできます。貴女方の仕事は解析です〉
「解析……?それってどんなことをするの?」
〈安藤様、そのご質問にはお答えできません。申し訳ございません〉
「都合の悪いことを聞かれると、答えられないのね……。ゼウス、分かったわ。あなたに聞くことはもう終わり」
〈承知いたしました。では終了致します〉
モニターは再び暗くなった。どうやら、通信は終わったようだ。でもこれで分かったことがある。
「何も聞けなかったね、ま……安藤さん……」
「ううん。そんなことなかった。私には十分だよ」
「……安藤さん、どういうこと…?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます