①
「“おばちゃん”?君、失礼じゃないか。この方を“おばちゃん”などと呼ぶんじゃないっ!この方は……」
「いいのよ。この子は特別なの。うちにとって必要な存在よ。分かったら、この子は大事に扱ってちょうだいね……」
雅子と隊員のやり取りを見ていたULIのメンバーはあっけにとられていた。真理子もまた言葉を失い、ただ茫然と雅子を見ている。
「し、失礼しました」
雅子に叱られた隊員は頭を下げ、一歩下がった。すると、遠くから数人の隊員を引き連れてやってきた隊員がいた。一際体が大きく、口ひげを蓄えたいかにも“軍隊の人”というような男だ。彼は雅子に一礼すると、部下に雅子を連れて行かせ、鋭い猛禽類のような視線をヘリの中へと注ぐ。その視線に圧倒される生存者たち。
「この列の生存者は下りろ。この隊員についていけ」
男に指示されたのは、林田、大迫、牧野のULI職員を含めた生存者六人。案内するのは女性隊員だ。
「今からあなたたちを案内します、保護班の
女性はそう言い笑顔で微笑む。河野と名乗った女性を前に、集められた六人は戸惑いの色を見せる。それでも女性は話を続けていく。
「あなたたち六人には今から、いくつか検査を受けてもらいます。この検査で異常がなかった者のみ、この背後にある建物に入ることが許されます。皆さん全員が集まった際に、この施設について幹部よりお話があります。それではみなさん行きましょうか」
生存者たちに一言も話す隙を与えずに、河野はざっと説明した。
どこか腑に落ちない顔のまま、六人は河野の後をついていった。その様子を見ていたヘリの中の生存者は、お互い顔を見合わせ、どこか不安そうな顔をしている。そして次々に生存者たちは呼ばれ、残りは真理子と西条を含む六人になった。
「西条さん……私たち、どこに連れて行かれるんでしょうか……おばちゃんは……」
真理子がそう言いかけた時、一人の男性隊員が現れた。
「私があなたたちを案内することになりました、調達班の
望月と名乗った男性隊員は、丁寧な言葉遣いで柔らかな雰囲気を醸し出している男性だった。男性隊員に西条が質問する。
「あの……先ほどの隊員さんたちもそうでしたが、色々と班があるんですか?」
「ええ。私から詳しく話すことは出来かねますが、この施設には複数の班が存在しており、皆自分の役割を持っています。ここでも各自仕事があるんですよ」
そう言うと望月は、耳に着けたインカムを手で押さえ、聞こえてくる声に耳を傾けた。
「……了解。皆さん、準備が整いましたので検査の方へ向かいましょう。ついてきてください」
彼についていく真理子たち六人。その足取りは重く、顔は強張っていた。ヘリポートから移動し、【検査棟】と書かれた建物へ入る。周りを見回してもそこにあるのは白い壁。狭い通路だけが延々と続く。案内されたのはベッドや様々な機械が置かれている一室だった。その奥にはビニールカーテンによって仕切られた小部屋のようなものが存在した。その佇まいはまるで、感染系映画のワンシーンを彷彿とさせるものだ。
「……ここで一体何の検査をしているんですか……?」
「ここでの詳細はお教えすることが出来ません。荷物は一旦お預かりします。後程お返ししますので。……では採血をしますので腕を出してください」
白衣を着た医者と思わしき人物が腕を出すよう言う。それに従い真理子たちは腕を出した。駆血帯を上腕に巻き、消毒していく。腕に圧迫を感じていると、静脈が浮き上がり、抵抗なく鋭い針が皮膚を突き抜けて行く。少しの痛みを腕に覚えると、細いチューブを通し、血液が注射器の中へと吸い込まれていく。採血だけでなく、その後もレントゲンや聴力検査、視力検査、簡単な内科検診など、体のあちこちを調べられた。
ここへ来てどれくらい経ったのだろうか。
休憩する間もなく、部屋を移動していく。身体検査が終わったと思えば、「今から適性検査を受けてもらいます」と別室に連れて行かれる。複数のテストに性格検査など、何に対しての適性検査なのかは分からないが、何とか無事に終えていく真理子たち生存者。
彼女らが順番に部屋を出て行く際、隊員は画面で何かを確認し、左腕にシリコン製のバンドを巻いていった。
真理子の腕には青いバンドが巻かれた。何やら、うっすらと文字が見える。そこには【CLEAR】と書かれていた。
「……クリア……?一体何のこと……?」
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