真理子は手に持ったパソコンに映る監視カメラの映像を確認し、タイミングを見ながら承認部門へと歩いていく。

 雅子と薫は真理子のあとを素早くついていく。三人は承認部門へ行き、部室の下にある地下の扉を開けた。そして薄暗い階段を下りて行く。長い廊下が目に入る。通路を進み、十字路へたどり着いた。

「ロッカーだ……私のバッグがある……」

 よく見ると部門ごとに設置されているロッカーの扉が開いている。バッグが残されている人のは、恐らく感染者だろう。バッグを取りに来ている。ここにバッグが残されているとすれば、それは感染者で間違いないだろう。

「装具を着けて、早く合流地点へ行きましょう!」

 雅子の声につられ、三人は装具を身に着け始めた。そして、通路を進んでいく。合流地点があるのは、ちょうど施設の真ん中にあたるエレベーターホールだ。このエレベーターは地下から屋上のヘリポートまで行ける。

 直通ボタンを押してから階数ボタンを押すと、各階に止まることなくその階まで直通でたどり着くことが出来る。

 合流地点へとたどり着いた三人は、エレベーターのボタンを押す。しかし反応しない。真理子はパソコンを操作し、セキュリティシステム画面に切り替える。施設内のセキュリティを確認すると、エレベーターにロックが掛かっていた。

「ダメだ……外せない……相田さん!エレベーターのロック解除、分かりますか?」

「わ、私には分かりません……」

 真理子はパソコンを操作する。しかし、いくらロック解除を試みても外せなかった。

「マリちゃん……マリちゃん……っ!」

 雅子に呼ばれていることに気付いた真理子は、彼女の方を見る。雅子が指差す先には感染者がいた。がそこにはいた—――。

「そんな……せっかくここまで来たのに……」

 真理子はもう諦めかけていた。ここまで何とかやってこれた。しかし目の前には、かつて仲間だったはずの変わり果てた姿。真理子は視界だけでなく、頭の中にももやが充満しているかのように、思考が停止した。もう諦めるしか……。そう思った矢先、軽快な音と共にエレベーターの扉が開いた。その音に反応した三人と大勢の感染者たち。しかし人間の方が速かった。真理子たちはエレベーターに乗り込み、ボタンを押そうとする。まだ手を触れていないのにも関わらず、エレベーターは勝手に動き始める。誰かが操作してる……もしかして、西条さん……?靄が充満した頭を振り、彼女は必死に頭を働かせる。

「到着階は七階……え、屋上じゃない……?」

 すぐさまノートパソコンで監視カメラの映像を確認する。そこに感染者はいなかった。真理子たちの視界に入ってきたのは、テロ対策の装具を身に着け、自分たちを待っている非感染者……仲間の存在だった。その中央にはまるで、戦場で戦う軍を引き連れているかのような西条がいた。手にはパソコンが。このエレベーターを操作しているのは西条なのか……。真理子は安堵した。

「西条さん……」

 彼女は目頭と心が熱くなるのを感じた。そうだ……ここで諦めちゃいけないんだ。無事にみんなの元へ戻って、今のこの状況を把握する。そして、Ⅹの正体を突き止めなければ。真理子は自分を奮い立たせた。

エレベーターが七階で止まる。ゆっくりと扉が開き、明るく広いフロアが目に入る。

「マリちゃんっ!!」

「安藤さん!無事でよかった!」

 研究員たちの真理子を呼ぶ声が聞こえた。彼女は仲間の元へ走っていく。雅子や薫もそれぞれの仲間を見つけたようだ。

「ここにいるのが全員ですか……?」

「……そうだ。我々がこの施設の非感染者、すなわち生存者だ……」

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