②
怯えている真理子をなだめ、雅子はそっとカーテンの隙間から外を見る。
人間だった。
見たところ感染はしていないようだ。素早く、静かに扉を開け、人間の腕をつかみ中に引き入れた。
「……ありがとうございます……良かった。まだ人がいた……」
「あなた……名前は?どこの人?」
雅子はそう聞いた。
「私はセキュリティ部門の
相田と名乗った女性はまだ人間だった。それに安堵したのか、真理子は自己紹介を始める。
「私は研究部門の安藤真理子です。おばちゃんは開発部門の中原雅子さん。私が一番信頼している人なの……」
「研究部門の安藤さん、開発部門の中原さんですね。よろしくお願いします。あの……初対面で厚かましいお願いなんですけど……もし良ければ一緒にいても構わないですか……?一人だと怖くて……」
「もちろん。二人より三人の方が心強いですから。一緒にいましょう」
薫の気持ちは痛いほど理解できる。何が起きているのかはっきりと理解できない今、この広い施設内を一人で移動するには恐怖や不快感があった。
ふと何かに気づいた真理子は、薫に声を掛けた。
「そういえば……相田さんってセキュリティ部門なんですよね?」
「はい。私の仕事は主に施設内のセキュリティ管理です。それがどうかしたんですか?」
「相田さん、私に力を貸してください。おばちゃんに助けてもらってここに避難することが出来た……でも、私を待ってくれてる人が地下にいるんです。だから、三人で地下に避難したいんです。でも、感染者がどこにいるか分からない。だから、相田さんの力を貸してください」
真理子には考えがあった。ULIのセキュリティに入るには、自分のIDでは入れない。部門が異なるからだ。けれど、セキュリティ部門の相田のIDなら、どの部門にも簡単に入ることが出来る。
「私はプログラミングやハッキングの知識があります。この施設内のセキュリティに入り、あらゆるところに設置されている監視カメラを使えれば、感染者やほかの職員を見つけることが出来るはずなんです!」
「すごい……そんなこと思いつかなかった。分かりました。私で役に立つなら……」
真理子は解析部門のパソコンを起動させ、薫に隣に座るように言った。そして、自分の職員番号とパスワードを入力し、セキュリティ管理の画面を開くように彼女に伝える。その間、自分はハッキングの準備を整えた。その二人の様子を黙って見ている雅子。彼女はじっと真理子を見ていた。
「安藤さん、私の画面開きましたよ?次は何を……?」
「この施設内にある監視カメラのすべての識別番号を教えてください。あとは、その番号を私のプログラムに入力すれば、施設内のカメラは全て私たちの物です……」
真理子の目は「絶対に三人で地下に避難する」という意志で溢れていた。
キーボードを叩き、プログラムを組む。薫から教えてもらった監視カメラの識別番号を一つ一つ入力していくと、しばらくして画面が切り替わった。
「これ……」
薫はパソコンモニターに映る施設内の監視カメラ画面を見て、絶句した。
「施設内の様子ですね……こんなに感染者が……」
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