林田は自分のデスクにマニュアルをしまうと、パソコンを開きCDCや国立感染症研究所など、ULIとの連携機関の連絡先を真理子たちに送信した。

「今、君たちに各研究所の連絡先を送った。手分けして連絡し、同類のウイルスや細菌が無いか、うちのサンプルが既存のものと一致するかを確認してくれ。また、日本以外で同様の感染が起きていないかを確認するんだ」

 林田から指示を受けた研究員たちは、声を揃え返事をする。

 一瞬の静寂ののち、ありとあらゆるところから、研究員たちの声が聞こえてきた。「部長、ありがとうございます」

 真理子はそう言い、インターネットメガネを装着した。

「すみません、私、ULIの牧野と申しますが……実は」

「あ、どうも。私はULIの大迫ですが……実は関東で……」

 それぞれが手分けして、各研究施設へ連絡している。

 真理子と西条はCDCへの連絡を担当していた。

「初めまして、私はULI研究員の安藤と申します。実は今、日本で起きている事態についてお聞きしたいことがありまして……」

 真理子は流暢な英語で、CDC職員へ今の日本の現状及び、外国に同様の病原体が見つかっていないかを尋ねていた。真理子の隣では西条もまた流暢な英語でCDCの研究員と会話をしている。

「こちらのサンプルを分析したところ、ウイルスの類が検出されました。しかし、ウイルスか細菌か、よくわからないもので、ULIの既存の型とは一致しませんでした。CDCにある既存の型と一致するかを確認したいのですが……はい……こちらのサンプルの解析結果を今から送ります。確認してください」

 西条は真理子や自分が分析した関東のサンプル結果を電話の相手へ送った。そしてしばらくすると、声が聞こえてきた。

『少しお待ちください。……そちらから送られてきたメールを確認しました。このような病原体は初めて見ますね。今、CDCにあるサンプルと一致するものがあるか照合しています。もう少しだけお待ちください』

  CDCの研究員は、日本で採取された病原体がCDCのものと一致するか、確認してくれているようだった。西条はふと隣を見る。真理子も病原体の確認をしていた。

『そのような形の病原体は私も見たことがありませんね……。こんなのは初めて見ました……。確かに、あなたの仰る通り、ウイルスとも細菌とも考えられます。CDCにもこんな病原体は保管してありません……』

「そうですか……。分かりました。お忙しいところ、ありがとうございました。失礼します……」

 真理子は大きなため息をついた。

 どうやら手掛かりになりそうなものは無かったようだ。真理子のため息と表情から推測すると、日本で採取された病原体はCDCにも保管されていなかったということか……。西条は一縷いちるの望みを、自分の電話相手に託した。メガネの受信機から「もしもし……?」と声が聞こえてくる。西条はすぐさま返事をする。

「それで

照合結果はどうでしたか!?何かと合いましたか!?」

『それが…CDCに保管してある病原体とは、一致しなかったんですよ…』

「…ではその型はCDCにもないんですね?そうですか…。最後にもう一つ、日本以外で類似の病原体の報告はありませんか?」

『報告はありません。というか、日本でそんな病原体が発生していることも、あなたから連絡が来るまでは、我々は知りませんでした。それにうちのBSLⅠからⅣの中に、あなたが送ってきたものと一致するものは一つもありません。これは推測なんですが……もしかしたら、新種の病原体なのかもしれませんね。あの地球温暖化後に、新型の物がいくつも見つかっていますから……。うちも念のため、厳戒態勢を敷きます。もしまた何かあれば連絡ください。あ、私の名前と連絡先を言いますので、メモを取れそうですか?』

 西条は電話の相手にそう言われ、パソコンのメモアプリを開き、文字を打つ準備を整えた。

「分かりました。お忙しいところ、ありがとうございました。失礼します……」

 メモを終えた西条は電話を切ると、辺りを見回した。すると、電話を終えている人もいれば、まだ話している人と様々だった。会話の内容をパソコンに打ち始める。忘れないように念のためだ。でもまさか、新種の病原体である可能性があるなんて思いも考えもしなかった。てっきり既存の型と一つくらいは合うだろうと……。西条はため息をついた。

「西条さんも、合う型はなかったんですか……?」

 真理子が顔をのぞいてくる。「ああ。なかったよ……」と西条は力なさげに答えた。

 林田がそれぞれの様子を見ながら口を開いた。

「みんなそれぞれの連絡は終わったようだね…。じゃあ、会議を始めようか……」

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