③
真理子の呟きにいち早く反応したのは西条だった。
「へ?マリちゃん、何か言った?」
「西条さん、さっきの結果が出たみたいなんです」
真理子はそう言って、自分のパソコンを西条に見せる。
「実は自分がサンプルの分析をしたとき、分析結果が出たら私のパソコンに通知が来るようにプログラムしてあるんです」
“The analysis end,An analys
「マリちゃん、今のこの状況でラボに戻るのは危険だ。何が起きてるか分からないんだ。サンプルならほかにもある。だから……」
「あのサンプル、何か特殊なんです!細菌でもない、ウイルスでもない……だったらあれは一体何なのか突き止めないとっ!私は科学者なんですっ!人類の役に立たないとっ!」
真理子はそう言って部室を飛び出した。慌てて西条が後を追う。
目の前のランプが点滅している。分析が終わったことを示していた。分析結果を自分のノートパソコンへと移動させる。
「マリちゃん!一人で行ったら危ないだろ。緊急時対応マニュアルにも書いてあるだろ?“異常事態発生時は二人一組で行動せよ”って」
「すみません……でも、結果が……」
「結果が気になるのは分かる。けど、自分が安全じゃないと元も子もないだろ」
西条は優しい口調で真理子を叱る。彼はそう言うと、「結果、どうだったの?」といつもと同じ、優しい声を掛けた。
「このサンプルは全くの未知のものです……既存の型には当てはまりませんでした。これ、一体どうしたら……」
「部長たちに報告しよう。そして、CDCに確認だ。だから一旦戻ろう」
西条はそう言うと、真理子を部室へと連れ戻した。
「マリちゃん!!勝手に走っていくんじゃない!何かあったらどうするんだ!?君はこの会社に……」
部室に入るなり、部長の怒号が飛んでくる。それをさらりと交わし、真理子は口を開く。
「すみません、でも、報告があります!」
真理子は西条に手伝ってもらいながら、分析結果をホログラムへと映す。
「これ、課長から預かったサンプルです。これは関東の土壌から採取したもので、分析にかけたらウイルスでも細菌でもない何かが検出されました。それを既存の型と合うか照合しましたが、今この地球上にあるものとは一致しませんでした。なので、CDCと国立感染症研究所へ連絡をして確認したいんです。許可をお願いします!」
真理子は頭を下げる。ふと横を見ると西条も頭を下げていた。
「……我々は、この国の研究者だ。わが国で何かが起きた時は総理、政治家、医師の次に最優先される立場にいる。つまり、我々は国や人類のために働いているようなものだ。分かるか?」
「はい……」
「国が危険だ、避難が必要だと判断し我々の元へ通知が来たら、それに従わなければならない。それは二〇六三年の法律で新しく定められたんだ。知っているよね?つまりだ、我々は今、危険な状態にいる。そのため政府の指示に従わなければならない。なので、これ以上の分析、身勝手な行動は許可できない」
林田がそう言うと真理子は落胆したのか、俯き唇を食いしばっていた。
「……しかしだ、我々だって一研究者だ。人類のためにサンプルを分析し、その何かが一体どういうものでどんな影響があるのかは突き止めたい。……分析を続けることを許可しよう……。ただし、私が本当に危険だと判断した際は直ちに中止すること。それが守れると言うのなら……だ」
「は、はいっ!守ります!ありがとうございます!」
真理子は目に涙を浮かべ、頭を下げた。
「そうと決まったのなら、さっそく動こうか。もちろん、全員でだ。心配することはないさ。全責任は私が持つ。どうせもうすぐ定年だ。この年まで研究者でいられたんだ。今何かあっても、本望だよ……」
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