②
宗田に頼まれた分析を急ごうと、彼女は特に気にも留めず、研究室へと入って行った。
パソコンの前に座り、電源を入れ起動させる。職員番号、パスワードを入力し解析画面を開く。パソコンの隣にある分析装置を起動させ、サンプルの情報をパソコンへ入力する。そして白衣、マスク、ゴーグル、手袋を身に着け、手には宗田から渡されたサンプルを持ち、部屋の奥にある分析室へと歩いていく。何から何まで、手際が良かった。
「えーっと……“このサンプルは関東の土壌から採取したもの”か……」
分析室へと入っていった彼女は、呟きながら分析を進めて行った。
「あ、マリちゃんおはよう。もう体調はいいの?」
「あ、西条さん!はい、もう大丈夫です。またよろしくお願いします」
真理子は作業を進めながら、彼と楽し気に会話していた。
「そういえば西条さん、妹さんの就職先も何か研究系でしたっけ?」
「ああ、今日からは新しい研究室に配属になったって言ってたな。まあ、妹は俺とは違って工学系だけど」
真理子に西条と呼ばれた人物は、名前を
二人は会話をしながら、各自のサンプルを分析していく。そして、西条が何かに気付いた。
「マリちゃんさ、それって関東のサンプルなんだよね?」
「あ、はいそうです……課長から頼まれたんです。何か、関東の土壌から採取したそうで……これがどうかしましたか?」
「いや……俺も頼まれたんだよ、関東のサンプル。これ、人体から採取したサンプルなんだけど、なんかおかしいんだよな。このサンプルには間違いなく細菌類が含まれているんだが、どうみても形がウイルスとも取れるんだよ……今は細菌かウイルスかを分析してるんだけど……。まあ、細菌が変異してても仕方ないよな。あの地球温暖化を経験してる細菌なら、多少変異してても納得だ」
「ウイルスか細菌か…ですか…」
確かに彼の言うことも一理ある。
二〇六〇年の地球温暖化による世界壊滅は凄まじいものだったと聞いたことがある。学校でもそう習った。人類はおろか、動植物までもが絶滅の危機に瀕したと。それを生き延びたものが、この“新世界”を作り上げた……と。
真理子はパソコンに目を移した。するとちょうど電子音と共にサンプルの分析が終わった。
「西条さん、これって…」
「そっちも俺と同じか…。それ、既存の型と合うか?」
彼にそう言われた真理子は「やってみます!」と分析結果の型と既存の型が一致するかを調べ始めた。その時、施設内に放送が響いた。
『全職員に告ぐ、これは訓練ではない。直ちに各自部室へ戻るように。繰り返す、全職員に……』
放送はそこで途切れた。
「この声って、所長ですよね……?」
「そうだな……とりあえず、サンプル結果だけ持ってオフィスに戻ろう。データはバックアップ取ってるし、メモリに保存すればいい」
西条はそう言って、真理子を手伝い急いでオフィスへと走っていく。
「あ、西条君、マリちゃん!良かった……。二人がなかなか戻ってこないから心配したんだ」
「遅くなってすみません。あの、部長……これってどうなってるんですか?」
「いや、私にも分からなくてな。所長が緊急放送を流したから、とりあえず皆をここへ集めてるんだ」
部長の
「久しぶりに紙を触ったな……。紙ってこんなに柔らかかったか?破いてしまいそうだよ」
林田はそう言いながら、恐る恐るマニュアルの目次ページを開く。まるで壊れ物を扱うように、丁寧にそっと捲っていく。
その時、真理子は手にしたノートパソコンを見つめ、呟いた。
「……行かなきゃ」
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