①
町の中心にあるオフィス街。そこには多種多様な企業が存在していた。
その中でも一際目立つ大きなビル。企業名はUnification of
この会社は国民の情報を統括し、リアルタイムでICチップと連動させるという現在の日本でこの企業にしかない技術を持つ会社だった。
ある日の朝、体調不良によりしばらく会社を休んでいた女性が久しぶりに出勤してきた。
「あ~マリちゃん、もう体は大丈夫なの?」
マリと呼ばれる女性の名は、安藤真理子あんどうまりこ。その女性に声を掛けたのは、同じ職場で働く中年女性の中原雅子なかはらまさこだった。
「あ、おばちゃん!ご迷惑おかけしました。もう大丈夫なので、またよろしくお願いします」
真理子は笑顔でそう言う。
雅子は「あ、そうだ!」と近づき、周りに聞こえないように話し始めた。
「そういえばマリちゃん、知ってる?関東でね、何か変な病気が流行ってるらしいの。これは噂なんだけど、なんでも飛行機が飛んできたかと思えば、何か町中に霧を撒いたんだって……」
「霧……?それで町はどうなったんですか……?」
「その霧が人の体に触れると、触れた瞬間から体が赤くなって、呼吸が苦しくなって……って聞いたわ」
真理子は怯えた顔で雅子をじっと見た。「……その話、いったい誰から?」真理子は雅子に尋ねた。
「誰って、ニュースでやってたわよ?この知らない?」
彼女は、首を横に振る。
そんなニュースなど少しも聞いたことがない。
そもそも今の時代にテレビなど存在しない。テレビの代わりに誕生したのがホログラムだった。毎日、一日三回、学校や企業などで決まった時間に放送が掛かる。そしてその放送に従い準備すると、ホログラムが表示される仕組みだった。チャンネルなどは存在しない。ニュースは国が独自に発信する情報ニュース一つのみ。その他のバラエティーやアニメ、ドラマなどは各自で契約し、インターネットメガネや腕時計型ホログラムで視聴するのだ。過去の日本で親しまれていたような某アニメのような世界になっていた。
「そう……マリちゃんは知らないのか……。関東でそんなことがあったから、こっちも気を付けないとと思って、上の人がね、支社に連絡をしたんだけど、関東の研究施設と連絡がつかないらしいの。関西も気を付けないとね」
雅子はそれだけ言うと、「じゃ、またお昼にね!迎えに来るから!」と自分のオフィスへ向かって行った。
ULIは円形状のオフィスになっている全部で七階建ての建物だ。
階ごとに行われている業務は分かれており、その中でも部門ごとにオフィスが分かれているという完全隔離されている会社だった。窓は全面硬質ガラスでできており、噂だと銃弾も跳ね返すらしい……。
真理子が所属している部門は研究部門。
ここでは、環境や生物が人体に及ぼす影響を分析している。人体から採取したサンプルを解析し、その研究結果を解析部門に報告する。そしてその情報をもとに、ICチップとの連携を図るというものだった。なかなかに複雑だが、性格適性検査を受けてから各部署に配置されているので、意外に社員それぞれに合っているらしい。
彼女が自分のオフィスへ入ると、「あ、おはよう!また、ばりばり働いてもらうよ~」と課長の
「関東と連絡が取れないんだっけ……だから、ニュースもやってないのかな……」
彼女は特に気にも留めなかった。
「マリちゃん、ちょっといい?この分析なんだけど…」
宗田に呼ばれ真理子は課長のデスクへ急ぐ。
「この分析なんだけど、マリちゃん頼める?関東から送られてきたサンプルなんだが、どうも結果がおかしくて…。何回分析し直しても、なにとも一致しなくて。もしかしたら過去に存在していたものかもしれないと思って。マリちゃんならこういうの詳しいでしょ。頼んでも良いかな?」
「分かりました。急ぎで分析してみます!」
真理子は宗田から資料とサンプルを受け取ると、研究室へと向かった。
その時、轟音とともに飛行機が町の遥か上空を飛んでいることに気づいた。
「飛行機……?」
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