第一章 異変

 町には以前のような活気が戻り、人々は通勤、通学、家事と忙しい毎日を送っていた。

 二〇六〇年の世界の崩壊後、少しでもこの崩壊を食い止めようと様々な技術が進歩していった。紙は無くなり全てが電子化へ。電池は無くなり全てが太陽光発電や風力発電へ。科学技術の進歩により人々の生活は以前よりも良いものとなっていた。

 さらには人工知能までもが発達し、人々の生活を支え、高齢者や障がい者のサポートが行えるようにまで進化していた。病院の付き添い、介護・介助、日常生活の支援、今まで人の手で担ってきたものをこの世界ではロボットが担うように。

 そして、新たな開発も行われている。インターネットメガネ、無人運転車両、ホログラム技術。

 なかでも、最先端の開発と呼ばれたものがバンド型ICチップだった。名前・性別・血液型・人種・生年月日・既往症・家族情報など、装着者個人の情報及び現在の体調がリアルタイムで記録されるという優れもの。

 これは国民一人に一つ与えられたもので、自分たちの生活をより良くするものだと人々は思っていた。しかし、水面下ではこのICチップによる実験が行われていたことに人類はまだ気付いていなかった。


 この話は、地球温暖化による世界の崩壊から二十年後の二〇八〇年。『日本』がなくなる数日前の話だ。

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