ルークス

文月ゆら

プロローグ

 二〇六〇年、世界が消えた。

 終わったと言うほうが正確だろうか。

 以前より危惧されていた地球温暖化。それは改善されることもなく、海面の上昇に伴い日本の三分の一が海の底へと沈んでいった。

 しかし、沈んだのは日本だけではなかった。

 南極の氷床並びにグリーンランドの氷床が融解し、オランダ・ドイツ北部・デンマーク・バングラデシュ・ベトナムなど、海抜以下の地域を抱えた国、オセアニア諸国・モルディブなどの海抜が低い島を擁する地域は、国土の半分以上が海の底へ沈んだ。当初に問題視されていた陸地の浸水・海没は、予想よりもはるかに多かった。

 しかし、問題は陸地の浸水・海没だけではなかった。

 地球温暖化により、地球上の植物・動物は絶滅の危機に瀕し、強い種のみが生き残る世界になっていた。そして、それは人間も同じだった。

 地球温暖化により、国土の三分の一が沈んだ日本では都道府県が無くなり、国土は二つに分かれた。以前の日本地図より、福井県・岐阜県・愛知県を境に東側を『関東』そしてそれより西側が『関西』と改められたのだ。毎日が生き残るための戦いだ。人々は自国を守るために、武器を持ち食料を確保し、人との戦いを何とも思わなくなっていた。まるで戦争だ。

 このままでは、争いにより日本が失われてしまう。そう危険を感じた学者と政界は重い腰をやっと動かし始めた。そして、少しずつだが以前の日本を取り戻そうと学者たちは知恵を絞り、毎日研究に奔走している。政界では両国家の治安を何とか維持しようと毎日議論を続けていた。

 しかしある日を境に、バランスの悪かった積木は音を立てながら崩れ始めた。

 今のこの日本を立て直すことは不可能だと結論が出たのだ。

 そんな時、ある一人の学者が“仮説”を立てた。

 その学者が唱える仮説に魅了された政界は、その計画に乗った。

 そして、この地球から『日本』と言う国は消えることになる。

 今やその影響は日本だけでなく、世界各地に広がった。

 たった一つの仮説が、人類の……世界の終わりを告げていた――――――。


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