『ガールズバンドクライ』感想の感想

 今日、本邦において「ロック」と「アイドル」にどのような差異があるだろうか。それらの歴史的背景を踏まえていない僕の単なる印象でしかないが、「ロック」も「アイドル」も舞台上で今ここにおける現実に対するある種の距離感を演じ共感や反感を煽ることで金銭を得る、要するにピエロを演じているという意味では両者にそれほどの大差は無いようにも感じられる。手垢まみれの言葉をあえて使うならそれは空虚ということだが、その空虚さを批判するメンタリティには共感を覚えるとしてもそのような言葉に僕は本来の字義的な意味での空虚感を覚えざるをえない。

 確かにピエロは哀れである。彼らは悲しいときにも笑い、嬉しいときにも笑う。その笑みは観客にとって時に慰めとも茶化しとも都合よく受け取られ、いずれにしろ観客にとって彼らは欲望や抑圧の捌け口でしかない。だが僕はそんな哀れなピエロを愛している。彼らが道化という役割を演じるなかで意識的にも無意識的にも見せてしまう本音や、露呈させてしまうある事実、それらが表現の深みとして表れてしまうダイナミズムがとても面白いと思う。それに生きるということは社会においてある役割を引き受けることであるという点で、ピエロに感じている僕の哀れさは僕たち人間が生きることの哀れさではないか。人間が生きることの哀れさを異化して見せるピエロを通して僕は人が生きることの哀れさを感じている。だがだからこそ僕は他者と愛し合える可能性を感じられるし、鬱屈したり卑屈なままではいられないという自覚を芽生えさせることができる。

 僕は『ガールズバンドクライ』に対しある種の立場から批判の言葉を投げかける者よりこの作品を擁護したい。ピエロを弱者と既定し救おうとする甘言に僕はくみできない。僕はピエロを愛している。僕はピエロを見て楽しむことのできる平和な世界を愛している。

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「今、ここ」から「未来」へと振り返る  はまたに @samusugiru

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