背筋が凍る出来事
国分寺へのサポート依頼があった。そこそこ遠方の郊外という感じだ。
内容は老夫婦が「ソリティア」というゲームができなくなり困っているとのこと。ソリティアはもともとWindowsに付属のゲームソフトだ。
動作しなくなるのは稀であまり事例もない。
かんたんに片付くので良いかという気軽な思いで引き受けた。
現地に到着すると、噂に聞くような高級立地ではなく寂れた団地だった。
ドアが軋む音、部屋にお邪魔するとなんとも言えない、生活臭。
早速パソコンを見せてもらうと、今時珍しい大型のデスクトップパソコンだった。
電源を入れると、普通に起動してWindowsのマークが表示され起動する。
ソリティアをクリックすると起動しない。まるで反応がない。
他にもメールソフトがおかしいとのことで、クリックするとこれも起動しない。
フォルダもクリックしても開かない。
さすがに悩んだ。
再起動を数回試みる。
変化はない。ここまで1時間ほど経過したところでおばあさんがコーヒーで休憩しないかとのこと。
お言葉に甘えて、いただく。
正直、美味しくない。仕方なくいただく。
再度、チャレンジをするとソリティアはなぜか起動した。
起動したことを話すと、1日1回は起動するが2回は起動しないとのこと。
そんなことあるのか。不思議に思い、パソコンを再起動してソリティアをクリックする。本当に起動しない。
なぜだ。
ログを見ると、エラーらしきログもなく、至って正常だ。
もうすでに3時間経過している。
すると、奥で作業を見ていたおばあさんが一言つぶやいた。
「うまくいかないでしょ?」「そうですね、何かおかしいんですよ」
こんな体験は初めてだ。
こちらのパソコンはご主人のものですか。と聞くと。
そのパソコンは実は息子のなんですよ。
ゲームが好きでソリティアを毎日やっていたのですが、、、、ということだ。
なにか設定など変えていないか、息子さんに確認できるか聞いてみた。
次の瞬間、体が硬直した。
「息子は3日前に交通事故で亡くなりました。学校の帰宅途中に」
かなりの動揺をしていたが、必死でかくした。
「そうでしたか、お悔やみ申し上げます」
するとご主人が帰宅して作業状況を確認した。
「もう捨てて新しいの買ったほうが良いかね?」
すかさず、「いや捨てるのは良くありません。」と伝えた。
自分が捨てる方向に導いて呪われたりしたらたまったもんじゃない。
大事に保管するように伝えた。
息子さんはパソコンおたくらしく、学校から帰宅するとすぐにパソコンを開いてたらしい。とにかく大事にしていて、恐らく見られたくないエロ画像もあるだろうし、、そのせいか?フォルダも開かない。
最後の最後に、データを一部移行してシステムを復元できないか試すことになった。
最終手段だ。
すると、マウスがまるで動作しなくなった。
ケーブルは接続されているし、赤外線の赤いランプも点灯している。
先程まで正常に動作していたのに、、、怖すぎる。
恐る恐る、マイドキュメントのフォルダをクリックした。
ようやく開いた。
中に1枚のテキストファイルがあった。
クリックをすると、、、「さわるな」の4文字が書かれていた。
恐怖におののき、すぐさまパソコンの電源をシャットダウンした。
老夫婦には、新しいパソコンを家電量販店で購入するように勧めた。
今は最新のものが格安で売られていることや、家電量販店の電話番号まで調べて教えてあげた。
挨拶を終えて、急ぎ足で帰社した。
帰社後にリーダーへ事実を伝えた。
意外にもあっさりと信じてくれた。
こういうことはよくあることのようだ。なくなった息子さんの強い思いがパソコンの一部に宿って、触られたくないという現象を引き起こしたのではと真顔で言ってた。
魂が機械に宿るというのは本当のようだ。
それから2週間後に新規パソコンの設定依頼で同僚が呼ばれたらしい。
以来、体調不良で休みが続いている。
絶句、二度とあそこへは行きたくない。
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