リッチな出張サポート

電話での対応が苦手な顧客に対応すべく、出張サポートがある。そのかわり出張費は顧客の負担となるがニーズはやはり多い。

はじめての出張サポートを依頼される。場所は富裕層の住宅街だ。

表向きが豪邸だったが、部屋の中は何やら散乱しておる。書籍がひしめき合い、乱雑に置かれている。それもすべて海外の書籍だ。船関連の書籍が多っかた。男性がジャージ姿で迎えてくれた。船の設計をしている方らしい。依頼内容は至って簡単で、Wordの使い方などであった。英文で全て作成されているようで、辞書登録や変換の仕方などだ。海外での生活が長いらしく、日本語が怪しい。早速、高級なお菓子と飲み物をデリバリーで頼んでいただけた。説明を終えるころになると、何とランチまで頼んでいたらしく、お言葉に甘えて一緒に食事まですることになった。船の話を色々していただき、あまり興味もなかったが1時間ぐらい話し相手になった。海外と日本の往復の生活を10年以上しているようで、少し寂しかった様子だ。話も終わり、作業完了報告書にサインを頂く。これでもどうぞと言われ、茶封筒を渡された。

中を見ると、一万円が同封されていた。受け取れないことを伝えるが、楽しい時間を過ごせた、個人的なお礼だと言われた。仕方なく受け取った。さすが富裕層だと納得した。おそらく宅配業者などにもお礼をしているのは一目瞭然だ。なかば、ホクホクした気分で社へ戻る。一応マネージャーにお礼をいただいたことを伝える。それは個人的なものだから、ありがたく受け取りなさいと言われた。

同僚らの間ではこの話がひそかに広がっていた。平日のある日、自分が休みだった日に、別の件でその方から出張依頼があり、争奪戦になったらしい。最初は自分を指名してくれていたが、休みということで他の同僚が出張に行くことになったらしい。翌日にその話を聞き、どうでしたかと笑みをこぼしながら聞いてみた。彼は、無愛想な顔つきで一言こう答えた。缶コーヒー1本をいただいたよ。絶句、良かったじゃないですか。そう言わざるを得なかった。それ以上はあまり深くは聞かなかった。やはり人徳なのだろうか。やましい気持ちは持つべきではない。

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